夕立(読み)ゆうだち

精選版 日本国語大辞典 「夕立」の意味・読み・例文・類語

ゆう‐だち ゆふ‥【夕立】

[1] 〘名〙
① 夕方になって、風・波・雲などが起こり立つこと。
※風雅(1346‐49頃)夏・三八九「夕立の風にわかれて行く雲に後れて昇る山のはの月〈藤原良経〉」
② 夏に、雲が急に立って、短時間に激しく降る大粒の雨。多く雷鳴を伴って午後から夕方にかけて降る。夕立の雨。夕立雨。⇔朝立。《季・夏》
万葉(8C後)一〇・二一六九「暮立(ゆふだち)の雨降るごとに春日野尾花が上の白露思ほゆ」
※宇津保(970‐999頃)祭の使「ゆうだちのいたうする折に」
[2] 三味線音楽の曲名
[一] 清元貸浴衣汗雷(かしゆかたあせになるかみ)」の通称。歌舞伎「白浪五人女」の柳橋御殿の場の背景音楽。
[二] 端唄・小唄・うた沢。其角「夕立や」を前置きに、向島風物を取り入れた歌詞。三下り。
[語誌](1)(一)②の挙例のように「万葉集」にすでに「暮立」の表記で見える。ユウダチのダチ(立つ)は、自然界の動きがはっきりと目に見えることをいう。
(2)季節はもとは晩夏から初秋のことであったが、「新古今和歌集」あたりから夏の風物として定着した。

よ‐だち【夕立】

〘名〙 (「ゆうだち(夕立)」の変化した語)
① 夏の夕方にはげしく降る雨。《季・夏》
※俳諧・紅梅千句(1655)三「帝釈天とひびく神鳴〈貞徳〉 夕立(ヨダチ)こそ宝の瓶の水ならめ〈友仙〉」
② 雷。
※雑俳・削かけ(1713)「うへを見る・みのけ白雨(ヨダチ)が鳴ふかの」

ゆう‐だ・つ ゆふ‥【夕立】

〘自タ四〙
① 夕方、風・波・雲などが起こり立つ。
※紫式部集(1012‐17頃)「かき曇りゆふたつ浪の荒ければ浮きたる舟ぞしづ心なき」
② 夕立の雨が降る。《季・夏》
※今昔(1120頃か)一九「俄に空陰(くもり)て夕立ぬ」

ゆ‐だち【夕立】

〘名〙 「ゆうだち(夕立)」の変化した語。《季・夏》
※俳諧・樗庵麦水発句集(1783頃)夏「馬ながら軒へかけ込む夕立哉」

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「夕立」の意味・わかりやすい解説

夕立
ゆうだち

夏の驟雨(しゅうう)。気象観測上の正式用語ではない。夏によく現れる積雲積乱雲から降ってくる雨で、雷を伴うこともある。積雲や積乱雲は、普通は昼過ぎから夕刻にかけてもっともよく発達するので、夏の驟雨・雷雨は午前よりも午後に多い。激しい雷雨の場合には、それがやんだあと涼しい風の吹くことが多い。同じ雷雨でも、それが夜半や朝におこるものはとかく大雨となりがちで、警戒が必要である。

[平塚和夫]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「夕立」の意味・わかりやすい解説

夕立
ゆうだち

清元節の曲名。本名題『貸浴衣汗雷 (かしゆかたあせになるかみ) 』。河竹黙阿弥作詞,清元順三作曲。慶応1 (1865) 年8月江戸市村座で初演された『処女評判善悪鏡 (むすめひょうばんぜんあくかがみ) 』のなかで,おりからの夕立に,料亭の2階で奥女中になりすました女賊の素走りお熊が真野屋徳兵衛に美人局 (つつもたせ) を仕組む (たぶらかす) 場面に用いられたものであるが,その後独立した舞踊曲として行われている。

夕立
ゆうだち
shower

急に激しく降る大粒の。短時間でやむ。主として盛夏の発達し積乱雲によって起こり,雷を伴うことが多い。暑さの厳しい夏の午後,急に激しく降りだして 1~2時間で通り過ぎる。(→驟雨

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百科事典マイペディア 「夕立」の意味・わかりやすい解説

夕立【ゆうだち】

晴れた夏の日の午後などに急に曇ってきて激しく降る大粒の雨。積乱雲が通過するときに起こり,雷雨の場合が多く,短時間でやむ。夏の小笠原高気圧が退き,大陸方面から冷気団が南下してきたときの不連続線に沿って降りやすい。
→関連項目驟雨

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デジタル大辞泉 「夕立」の意味・読み・例文・類語

ゆう‐だち〔ゆふ‐〕【夕立】

夏の午後に降る激しいにわか雨。雷を伴うことが多い。白雨はくう 夏》「―や草葉をつかむむら雀/蕪村
夕方になって、風・雲・波などの起こり立つこと。
「―の風にわかれて行く雲に後れてのぼる山の端の月」〈風雅・夏〉
[類語]俄か雨通り雨時雨驟雨村雨スコール雨天荒天悪天雨空梅雨空雨降り雨催い雨模様遣らずの雨降雨一雨お湿り慈雨山雨小雨涙雨微雨細雨煙雨霧雨糠雨小糠雨大雨・どか雨・篠突く雨風雨暴風雨豪雨強雨雷雨白雨照り降り雨日照り雨天気雨狐の嫁入り春雨はるさめ春雨しゅんう卯の花腐し五月雨さみだれ五月雨さつきあめ地雨長雨淫雨霖雨涼雨秋霖秋雨初時雨村時雨氷雨冷雨雨氷酸性雨

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「夕立」の解説

夕立
(別題)
ゆうだち

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
元の外題
夕立碑春電
初演
明治10.4(東京・新富座)

夕立
(通称)
ゆうだち

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
元の外題
貸浴衣汗雷
初演
慶応1.8(江戸・市村座)

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世界大百科事典 第2版 「夕立」の意味・わかりやすい解説

ゆうだち【夕立】

夏の午後によく起こるにわか雨のこと。1~2時間の短時間にやむが,雨量は相当な量に達し,災害が起こることがある。この雨は,夏の強い日射のために発生した雄大積雲が積乱雲に発達し,それが通過するときに降るのが普通で,ひょうやあられ,および雷電を伴うことが多い。《万葉集》では〈暮立(ゆうだち)の雨〉とあり,俳句では夏の季語となっている。なお,夕立にはスコールライン寒冷前線の通過時に起こるものがあり,これらは夏以外にもみられる。

ゆうだち【夕立】

(1)歌舞伎舞踊の曲名。清元。本名題《貸浴衣汗雷(かしゆかたあせになるかみ)》。作詞河竹黙阿弥。作曲清元順三。1865年(慶応1)江戸市村座初演。《処女評判善悪鏡(むすめひようばんぜんあくかがみ)》の2番目序幕で,柳橋の料亭梅川の2階で,女賊素走りお熊(4世市村家橘,後の5世尾上菊五郎)が奥女中竹川になりすまし,真野屋徳兵衛(5世坂東彦三郎)に色じかけで悪事を働くという場面に用いられた。《網模様灯籠菊桐(あみもようとうろのきくきり)》の小猿七之助滝川の組合せで演じることもある。

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世界大百科事典内の夕立の言及

【雨】より

…(j)みぞれ 溶けかかった氷粒子や雪片が混じっている雨。(k)夕立 白雨ともいい,夏の午後から夕方など急に空が曇ってざあざあ降り出すしゅう雨。(1)しぐれ 初冬ににわかに降る雨。…

【清元延寿太夫】より

…91年2世太兵衛,93年延寿翁となる。河竹黙阿弥と結んで《十六夜(いざよい)》《夕立》《三千歳(みちとせ)》《雁金(かりがね)》など多くの名作を初演した。(5)5世(1862‐1943∥文久2‐昭和18) 本名岡村庄吉。…

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