夏至(読み)げし

精選版 日本国語大辞典 「夏至」の意味・読み・例文・類語

げ‐し【夏至】

〘名〙 (古くは「げじ」とも。「げ」は「夏」の呉音) 二十四節気の一つ。六月の中気、今日では太陽が黄道上の九〇度の点を通過する時をいい、新暦の六月二二日頃に当たる。太陽の赤緯は最北となり、北半球では南中の高度が最も高く、昼がいちばん長い。《季・夏》
中右記‐保安元年(1120)五月一八日「巳時許入日野、依夏至夜方違也」
浮世草子男色大鑑(1687)三「時しも里は夏至(ゲシ)に入て、田植哥のおかしげなる」
※和蘭天説(1795)凡例「夏至(ゲシ)と雖、日南にあり」 〔史記‐封禅書〕

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デジタル大辞泉 「夏至」の意味・読み・例文・類語

げ‐し【夏至】

二十四節気の一。太陽の黄経こうけいが90度に達する日をいい、太陽暦で6月21日ごろ。太陽の中心が夏至点を通過し、北半球では昼が最も長く、夜が最も短い日。 夏》「白衣著て禰宜ねぎにもなるや―のそま蛇笏」⇔冬至とうじ

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「夏至」の意味・わかりやすい解説

夏至
げし

中国や日本の太陰太陽暦の二十四節気(にじゅうしせっき)の一つ。太陽が黄道上もっとも北にある夏至点を通過する時刻で、これを含む日が夏至の日である。太陽の視黄経が90度に達するときで、現行暦では6月21日ころにあたる。この日太陽は赤道からもっとも北に離れ(赤緯23度半)、北半球では一年中で昼の時間がもっとも長く、夜の時間はもっとも短い。北極圏では終日太陽は地平線下に没することはなく、いわゆる白夜の現象を呈する。これに反し、南半球では昼は最短、夜は最長となり、南極圏では終日太陽は地平線下にあって姿を現すことはない。

[渡辺敏夫]

気象

北海道を除く日本の本土は、夏至の前後およそ20日ずつが梅雨期間である。すなわち夏至以前の20日間は梅雨前期にあたり、ここでは雨量はさして多くないが、しとしと型の長雨が続く。夏至以後、7月中旬の梅雨明けまでは梅雨後期にあたり、集中豪雨型の大雨が断続する。前期と後期の中間のおよそ夏至のころは、梅雨は中休みをすることが多く、そのようなときには一時、真夏の晴天が現れるが、これが持続して空梅雨(洞梅雨)(からつゆ)となってしまうような年もみられる。このように夏至は、気象学的には日本の季節を特徴づける重要な雨期の中心になっているのである。

[根本順吉]

民俗

長野県北佐久地方、兵庫県但馬(たじま)地方、岡山県上房(じょうぼう)郡などでは夏至のことをチュウという。日本では夏至の行事としては取り立てて記するものはないが、夏至より11日目にあたる半夏生(はんげしょう)または半夏(はんげ)という日は農作のうえでだいじな日とされている。田植はこの日までに終わらないと、「半夏半作」といって収穫が半減するという。大阪近郊では夏至から半夏までタコを食べる習慣がある。タコの足のように稲の根がよく地面に広がりつくようにと願うのだという。関東地方などでは新小麦で焼き餅(もち)をつくって神に供える。島根県や熊本県の各郡でも小麦の団子やまんじゅうをつくって神に供えている。熊本県阿蘇(あそ)地方には、「チュウはずらせ半夏は待つな」といって、田植は夏至よりすこしあとに、半夏を過ぎないようにとの言い習わしがある。半夏生の日には天から毒が降り、毒草が生えるなどといって、いろいろの禁忌がある。この日竹林に入ってはならぬという。タケの花の咲いているのを見ると死ぬという。また畑の野菜や果物をこの日食べると病気になるという。熊本県玉名地方ではこの日ウマにけっして青草を食べさせない。秋田県平鹿(ひらか)地方では半夏の日に草で目を突くと盲目になるといっている。変わった言い伝えでは、熊本県阿蘇地方では半夏の日に生梅を食べると頭がはげるといって忌み、同県八代(やつしろ)地方ではこの日朝寝をすると頭がはげるといって昔から早起きしたという。半夏生はまた生活上の一つのくぎりとなっていた。熊本県の天草(あまくさ)地方では半夏の日は水泳ぎを始める日で、その前には水に入らない。同県阿蘇地方ではダユルシといって八十八夜から半夏生までの間にウシ放牧を許されており、それ以後は家へ連れていかねばならない。香川県の西部地方では半夏生を上半期の決算期としている。

 外国では、中国で夏至節の行事があった。ただし陰暦などの関係によると思うが、端午節供と混同した行事がみられる。『荊楚歳時記(けいそさいじき)』によれば、夏至節には「角黍(かくしょ)」といってちまきを食すとあり、また楝(おうち)の葉を頭に挿して、五色の糸を臂(ひじ)に掛け「長命縷(ちょうめいる)」となしたとあるのは、5月5日の行事と同様である。そのほか、キクをとって灰をつくり小麦の虫害を防ぐことも行われた。

 ヨーロッパでも、夏至の行事は広く行われていた。イギリスでは夏至祭といっても正確な夏至の日でなく、その3日後の聖ヨハネの誕生日に行われている。国々によって行事には異同があるが、共通していることは火祭の行われることである。夏至の祝い火の周りを人々は踊り歩き、火を跳び越えたりする。酒を飲んで大騒ぎするのである。火は多く小高い所で焚(た)くので、風上から吹き付ける煙が畑の作物の上を吹くと豊作になると信じられている。フランスのプロバンス地方では子供たちが火焚きの薪(たきぎ)を集めて歩くというのは、日本の小正月(こしょうがつ)のどんど焼きとよく似ている。ドイツのプロシア地方では夏至の祝い火は落雷除(よ)け、魔法除け、牛疫除けと信じられている。ハンガリーでは夏至のころはヘビが跳梁(ちょうりょう)しだすが、火祭は蛇を駆逐して作物の収穫を守ってくれると信じられている。夏至の火祭は、これを過ぎると日がだんだんと短くなるので、これを防ぐために火を焚いて太陽の活力の衰えるのを防止するにあったといわれている。

[大藤時彦]

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改訂新版 世界大百科事典 「夏至」の意味・わかりやすい解説

夏至 (げし)
summer solstice

二十四節気の一つ。太陽がその軌道上でもっとも北に位置するとき,すなわち黄経90°にあって春分点と秋分点の中間にある。地球の北緯23°30′の北回帰線では真上に太陽を見,日本のような北半球にあっては太陽の南中高度はもっとも高くなり日影はもっとも短くなる。そして昼間時間は最長に夜間は最短になる。現行の太陽暦では6月21日ころになるが,旧暦では夏至を含む月を5月とするという規則があった。
執筆者:

太陽神崇拝がゲルマン人の間にあったことはカエサルの記述からも知れるが,キリスト教公認後は早くから夏至は聖ヨハネ祭(6月24日),冬至はクリスマスにとって代わられた。しかし聖ヨハネ祭の風習は古い伝統的なものを数多く残している。夏至の日には,神聖な太陽が天の頂点に達し,静止して耕地に恵みを与えたのち引き返すと信じられていた。このため盛大な夏至の祝火をたいて太陽に加勢し,耕地と家畜の繁栄を祈り,悪霊をはらおうとした。この風習は19世紀中ごろまで全ヨーロッパで行われ,とくに南ドイツで盛んだった。聖ヨハネの日の前夜に,山の上や野原,ときには十字路や広場で祝火がたかれる。全村をあげての行事で,男子があらかじめ木やわらを集める。積み上げた薪の点火をフランスでは聖職者や長老が行い,ノルマンディー地方では,太陽が地平線に沈む瞬間に点火したという。祝火はよい収穫をもたらし,これを行わないと畑に被害が及ぶ。火と煙がまっすぐ上にあがればあがるほど果樹の収穫がよく,発する火花の多いほど穀物の収穫が多いとされた。火は空気を清め病気や悪霊を追い払う。このため人々は火のまわりを踊り回り,下火になった火の上を跳び越える。跳んだ者は一年中息災で熱病,腹痛,背中の痛みから解放される。若い男女が手をとりあって手をはなさずに跳ぶと結婚できるという。高く跳ぶほど穀物や亜麻がよく育つ。家畜も火の中を通すと病気にかからない。悪魔や魔女をはらうため祝火の中でわら人形の魔女を焼く風習も広く各地で見られる。残り火を家にもって帰ると幸運をもたらすとされ,それでかまどの火を新しくした。車輪にわらをつめ,火をつけて山上から谷へ転がし落とす〈車輪落し〉や,板製の円板に火をつけて飛ばす〈円板飛ばし〉も,同じように収穫をよくする働きがあるとされた。夏至の日には泉を清める行事もあり,薬草さがしや宝さがし,占い棒さがしにもよい日とされた。なお,聖ヨハネ祭の前夜には,妖精(ようせい),魔女,死霊,生霊などが,この地上に姿を現すと信じられ,シェークスピアの《真夏の夜の夢》も,そのような伝承を背景として生まれたものである。

 日本では農事との関連で,半夏生(はんげしよう)のほうが強く意識され,夏至には特記するほどの習俗や行事は生まれなかった。
冬至 →ヨハネ祭
執筆者:

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百科事典マイペディア 「夏至」の意味・わかりやすい解説

夏至【げし】

太陽が夏至点を通過する時。毎年6月21日ころ。太陽は最も北(北回帰線上)にかたより,北(南)半球では一年中で昼(夜)が最も長くなる。冬至の対。中国や日本の太陰太陽暦では二十四節気の一つ。夏至を含む月を5月とした。 ヨーロッパではこの日夏至の火をたき,燃える輪をころがして衰え始める太陽の力を引き戻そうとし,綱引や模擬戦をして夏と冬,善と悪の闘争を象徴する。古代ローマでは平民や奴隷の歓楽の祭日であり,英国や北欧では恋の祝祭日であった。また魔女や妖精などの超自然的存在が地上に姿を現し,水や草花が異常な呪力(じゅりょく)をもつ日で,水浴や舟遊びなども行われた。キリスト教会はこの民俗的な水の儀礼を洗礼者ヨハネに結びつけ,夏至を聖ヨハネ祭(6月24日),前夜祭(23日)として祝う。
→関連項目回帰線季節春分半夏生立夏立秋ル・マン24時間レース

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「夏至」の意味・わかりやすい解説

夏至
げし
summer solstice

二十四節気の一つであるが,二至 (夏至,冬至) ,二分 (春分,秋分) の四季の中央におかれた中気。夏至は太陰太陽暦の5月中 (5月の後半) のことで,太陽の黄経が 90°に達した日 (太陽暦の6月 21日または 22日) に始り,小暑 (7月7日または8日) の前日までの約 15日間であるが,現行暦では,この期間の第1日目つまり6月 21日または 22日をさす。この頃太陽は天の赤道の北側に最も離れ,北半球では昼間が最も長い。昔中国ではこの期間を5日を一候とする三候 (鹿角解,蜩始鳴,半夏生 ) に区分した。それは,鹿の角を切取ったり,せみが鳴いたり,半夏という雑草が生えたりする時期を意味している。半夏生 (はんげしょう) は現行暦でも雑節として残されている。

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普及版 字通 「夏至」の読み・字形・画数・意味

【夏至】げし

二十四節気のひとつ。昼の最も長い日。〔呂覧、有始〕夏至、日を行(めぐ)り、乃ち上に參(まじ)はる。樞(極)の下に當りて、晝夜無し。

字通「夏」の項目を見る

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日本文化いろは事典 「夏至」の解説

夏至

6月21日頃 夏至とは「日長きこと至る(きわまる)」という意味です。つまり「一年で一番日が長い日」です。夏至の頃は梅雨の真っ只中なので、冬よりも昼が短く感じてしまうことが多いようです。農家は田植えに忙しくなる時期です。

夏至

二十四節気の1つで、一年で最も昼の時間が長くなる日です。それは、太陽が最も北(北回帰線の真上)に来るために起こる現象です。しかし実際は夏至は梅雨の真っ只中なので、日照時間は冬よりも短いことが多いようです。6月21日頃。

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占い用語集 「夏至」の解説

夏至

二十四節気の一つ。北半球では一年の中で一番日照時間の長い日で、6月21日前後になる。夏至を過ぎると、太陽に代表される「陽」の力が少しずつ弱まり、陰の力が増していく。

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世界大百科事典(旧版)内の夏至の言及

【季節】より

… 季節の相違をきめる昼夜の時間の長短や気温の高低は,地球の太陽に対する相対的位置が1年の間に変化することにより生ずる。地球は太陽のまわりを1年かかって公転しているが,地球の自転軸が公転面に対して約23度30分傾いているため,北半球についてみれば,夏至には太陽高度が最も高くて,昼間の時間が最も長く,地表で受け取る太陽エネルギーの量も最大となるのに対し,冬至には反対に,昼間の時間が最も短く,太陽エネルギーも最小になる。春分と秋分には昼夜の時間は等しく,太陽エネルギーの量は夏至と冬至の中間になる(図1,図2)。…

【休日】より

…このような地上生活による一年の区分に対して,やがて天体の観測を通して一年を区分する方法が行われるようになった。夏至と冬至の祭りがそれである。このほか,春分の日にも祭りが行われた。…

【黄道】より

…黄道は天の赤道に対して約23度27分傾斜しており,太陽が赤道の南から北へ通過する交点を春分点と呼び,北から南へ通過するものを秋分点と呼ぶ。また太陽が赤道の北側でもっとも離れた点が夏至であり,南側でもっとも離れた点が冬至である。黄道をおうどうと読む人もいる。…

【祝祭日】より

…農事と密着した天地の祭祀,暦の制定を天子が掌握し,民間の季節の祭りが天子のそれと一致する部分の多いことが,中国の特色といえる。漢代すでに年初や夏至,冬至などが祝祭日とされていたが,とくに唐代以後,権力者と農事・宗教的行事などの民間の慣行が調和して数多くの祝祭日が制定された。上元(1月15日),中和節(2月1日),清明節(寒食の第3日(冬至から105日目)),上巳(3月3日),端午(5月5日),重陽(9月9日。…

【二十四節気】より

…二十四節気は,太陰太陽暦を使用してきた中国の暦法の場合,各月を決定し季節を知るうえでの目印であった。初期には北斗七星の斗柄が指す方角によって各月を決め,《書経》尭典(ぎようてん)に見えるように春,夏,秋,冬の季節を知るために,それぞれ鳥(うみへび座α星),火(さそり座π星),虚(みずがめ座β星),昴(すばる,プレヤデス)の南中時によって春分,夏至,秋分,冬至の二分二至を決めたが,やがて季節の変化を示す節気は太陽の動きによって決められるようになった。周代から春秋時代には日晷(につき),つまり日時計(あるいはノーモン)を用いて,太陽が投ずる影の長さがもっとも長くなる冬至,もっとも短くなる夏至の時点を決める方法が行われるようになった。…

【ヨハネ祭】より

…ヨハネがユダヤの祭司ザカリヤと妻エリサベツの子としてイエス・キリストより6ヵ月早く生まれ,長じて後,キリストに洗礼を施したことは聖書に詳しく記されている(《ルカによる福音書》1:13~20,《マタイによる福音書》3:13~16ほか)。したがって,クリスマスが12月25日に定められると,彼の誕生日は6月24日の夏至Midsummer Dayの日となった。ヨハネ祭という名称はキリスト教的表現であるが,夏至の祝祭はキリスト教よりはるかに古く,全ヨーロッパで広く祝われた。…

※「夏至」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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