出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
タンパク質やアルコールにおける変性はdenaturationと呼び,合成樹脂の成分の一部を重縮合に際して変性剤で置き換えて,その性質を変えることや,デンプンを熱,化学薬品,酵素で処理することはmodificationと呼んでいる。
変性アルコールdenaturated alcoholは飲料用のエチルアルコールに変性剤を加えて工業用としたもので,工業用アルコールは税制の面で優遇されており,変性剤の添加も〈アルコール売捌規則〉で規定されている。飲料用への転用を防ぐため,不快な味や悪臭を付与したり,着色剤を加えたりする。変性剤としてはメチルアルコール,ベンゼン,アセトアルデヒド,ピリジン,石油などが用いられる。アルコール以外にも,国によっては茶(石灰などの添加),タバコ(セッケン,銅など),食塩(酸化鉄,タールなど)に対して,工業用とするために変性を行う場合もある。
アルキド樹脂,フェノール樹脂,フタル酸樹脂などの合成樹脂は,塗料用として使用する場合,そのまま純粋の形で利用することは少なく,脂肪油,脂肪酸,天然樹脂,他の合成樹脂などを変性剤として変性を行うことが多い。またデンプンでは変性によって天然物を糊化デンプン(α-デンプン),可溶性デンプン,デキストリンなどとするが,これは変性デンプンmodified starchと呼ばれている。次にタンパク質の変性について述べる。
タンパク質は加熱すると多くの場合,不溶性になり溶液中で沈殿する。その溶液を再び室温にもどしても溶けない。これがタンパク質の変性である。卵白が加熱によって凝固するのは変性の典型である。タンパク質の変性は,アミノ酸残基間の非共有結合的な相互作用(水素結合,疎水結合など)が加熱によって切断され,その結果タンパク質の立体構造が破壊されて生じる。したがって,変性タンパク質のアミノ酸配列は変性前と変わらない。変性によってタンパク質の生物活性,たとえば酵素活性やホルモン活性は失われる。また,タンパク質分解酵素は変性タンパク質をより速く分解する。ポリペプチド鎖がほどけて酵素の接触がより容易になるためである。変性は酸,アルカリ,有機溶媒処理によっても起こり,尿素,グアニジン塩酸は効果的変性剤である。変性タンパク質溶液から変性剤を除くことにより,元の立体構造,活性が復活することがある。これを復元renaturationという。
執筆者:宝谷 紘一+日向 実保
医学的には,一般に外来の障害因子や代謝の異常によって細胞や組織が障害を受け,性質が変わったことをいうが,病理学では,ふつう,光学顕微鏡で観察したとき,そういった性質の変化に伴って質的あるいは量的に異常な物質の存在を示す像が細胞に出現するときにのみ用いられる。これは物理的障害を別にすれば,細胞にとって不利な化学反応によって起きた化学的レベルの損傷によって物質が蓄積されたために起こる。たとえば,自己融解性の酵素の作用で障害を受けた細胞内小器官を処理するための空胞ができたり(空胞変性),細菌毒素や種々の中毒物質で細胞内の代謝異常が起こって脂肪滴がたまったり,先天性酵素欠損のための代謝異常で物質の合成が途中までしか進まないため,あるいは逆に処理すべき物質が十分に分解されないまま細胞内に過剰にたまったりする。変性は,原則として可逆性変化であるが,ある一定の段階を越えると細胞を死に導く。変性は出現する物質によって分類されるが,物質の化学的性質の不明のときは単に形態的特徴から分類される。糖原変性(グリコーゲン蓄積症の肝臓,心臓),脂肪変性(リン中毒の脂肪肝,リピドーシスの肝臓,脾臓,神経組織),石灰変性の名は前者に従ったものであり,空胞変性,ガラス変性(実際はタンパク質顆粒)は後者に従ったものである。細胞質の中に顆粒状物質が現れて細胞や組織が濁って見えるものは混濁腫張と呼ばれるが,これもタンパク変性の一種である。またアミロイドーシスのときは,細胞外の間質にアミロイドがたまり,アミロイド変性と呼ばれる。色素が細胞や組織に沈着することも色素変性と呼ばれる。
執筆者:山口 和克
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…三量体のタンパク質も少数あるが,ポリペプチド鎖の数は2,4,6など偶数が普通である。 タンパク質に熱や圧力を加えたり,溶液のpHを変えるとか変性剤を加えるなどの操作をすると,一次構造は変化しないが二次以上の高次構造が変化してタンパク質が活性を失うことがある。これをタンパク質の変性という。…
…各エネルギー準位には一つまたは何個かの定常状態が対応する。複数の状態が対応するとき,準位が縮退degenerationしているという。定常状態を単にエネルギー準位という場合もある。…
…磁場による準位の分裂をゼーマン効果という。量子統計力学における縮退degenerationはまったく別の概念で,粒子の同一性のために,系の自由度の一部が凍結されたように見える現象をいう。フェルミ粒子についてはフェルミ縮退,ボース粒子についてはボース=アインシュタイン凝縮と呼ばれる。…
…正常な細胞が種々の障害を被ったとき,障害の程度に応じて,さまざまな反応を示す。形のうえで現れる変化のうち,可逆性のものを変性とよぶが,壊死は,不可逆性の変化に陥ったものである。壊死をおこす原因には,栄養動脈の閉塞による血行停止(たとえば,冠動脈閉塞によっておこる心筋梗塞),毒素(ヘビ毒,ガス壊疽(えそ)菌,ジフテリア菌などによる細胞融解),ウイルス感染による細胞崩壊,化学物質(青酸塩など),電離放射線(癌の放射線療法などでおこる),高温や低温(火傷,凍傷)などが挙げられる。…
※「変性」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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