塩田(えんでん)(読み)えんでん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「塩田(えんでん)」の意味・わかりやすい解説

塩田(えんでん)
えんでん

人類が海水から塩(しお)を得たのは、海岸の岩のくぼみなどに残った海水が、天日により蒸発濃縮されたのをみつけたというような偶然からであったと思われる。塩田はこのように太陽熱や風力の天然エネルギーを利用して、塩を得る目的で海水を濃縮するための地盤をいう。食塩は、塩田で得られた濃縮塩水(鹹水(かんすい)brineという)を、蒸発装置を用いてさらに濃縮し、結晶を析出させたものである。鹹水を得るのを採鹹、析出させることをせんごう(煎熬)というが、この全工程を天然エネルギーで行うのが天日塩田で、得られたものを天日(てんじつ)塩とよぶ。世界の製塩量約1億トンの3分の1は天日塩であるが、日本では気象的に天日塩田は適しておらず、海水を濃縮するための採鹹工程として揚浜(あげはま)式塩田、入浜(いりはま)式塩田、流下式塩田と発達し、なんらかの方法で水分を蒸発させて固形塩を得るという、いわば天日製塩とせんごう製塩の併用といった独特な方式で製塩してきた。遠浅海浜干満の差が大、雨量が少ないといった気象条件などに恵まれた瀬戸内海地方や東海地方が製塩の中心をなすようになり、東北、北陸などの気象的に不利な地域の塩田は衰えたが、陸前(宮城県)や能登(のと)(石川県)では藩の保護により存続し、近年まで製塩が行われていた。しかし塩田を必要としないイオン交換膜電気透析法による濃縮法が開発され、1971年(昭和46)末までに塩田は全廃され、現在では一部に観光用などとして残っているにすぎない。

[平嶋克享]

塩田の種類

日本は岩塩、天然鹹水の天然資源に恵まれず、古くから海岸の砂地を利用して海水の濃縮が行われていたと考えられ、奈良時代の記録にも「塩浜」や「塩代田」という語がみられ、これらは塩田の原形のようなものと考えられる。8世紀には、播磨(はりま)国(兵庫県)大塩地方の的形(まとがた)の塩田が、行基によって開かれたと伝えられている。

[平嶋克享]

揚浜式塩田

初期の塩田で、海水をくみ揚げてきて、砂地を平らにならした塩田に散布する方式のものである。それほど広い砂地を必要としないので、多くの地方で行われ、東北地方や北陸地方にも塩田が存在していた。やがて、土木技術の発達もあって、潮の干満の差を利用して海水の導入を行う、より能率的な入浜式塩田が出現し、揚浜式塩田の多くは姿を消した。

[平嶋克享]

入浜式塩田

赤穂(あこう)(兵庫県)の塩田をはじめ有名な塩田のほとんどは17世紀の中ごろに開かれた入浜式塩田であった。遠浅の浜の適当な場所に広い平らな砂地を塩田とし、外海と仕切るために堤を築き、水門をつくる。満潮時に水門から海水を導入して、塩田内の浜溝、潮まわしとよばれる溝に流し、塩田にまいた細かい砂に海水をしみ込ませ、太陽熱と風力で水分を蒸発させたのち、塩分が付着した砂を沼井(ぬい)とよばれる塩分溶解槽に入れ、海水あるいは鹹水で塩分を溶かし出して濃厚鹹水(海水の5~6倍の濃度)を得る。塩を洗い落とした砂は、ふたたび塩田に散布される。入浜式塩田は若干の改良が行われつつ、近年まで約300年間、ほぼ同じ方式で続き、1950年(昭和25)ごろには年間約40万トンの食塩が製造されていた。

[平嶋克享]

流下式塩田

1940年代から開発された方式で、50年代にはほとんどの入浜式塩田がこれに切りかえられた。わずかに傾斜した地盤に砂をまき、上端から海水をゆっくりと流下させ、下端に達するまでに水分を蒸発させて、鹹水を得る。通常、この鹹水をさらに濃縮するために枝条架濃縮装置を併用する。年間約70万トンを製造する能率のよいものであったが、イオン交換膜電気透析法が開発され、廃止されている。

[平嶋克享]

天日塩田

世界の塩田のほとんどがこの方式であるが、原理は比較的簡単なものである。気象条件に恵まれたメキシコ、オーストラリア、地中海沿岸などで盛んに行われている。海岸近くの平地に池を大から小へ段階的に並べ、蒸発池で濃縮した海水を結晶池に流し、最後の結晶池で結晶を析出させるものである。せんごう工程まで天然エネルギーで行うので、安価であるなどの利点がある。

[平嶋克享]

『平島裕正著『ものと人間の文化史7 塩』(1973・法政大学出版局)』

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