域外小説集(読み)いきがいしょうせつしゅう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「域外小説集」の意味・わかりやすい解説

域外小説集
いきがいしょうせつしゅう

1909年魯迅(ろじん/ルーシュン)・周作人(しゅうさくじん/チョウツオレン)兄弟が東京で出版した翻訳集。全2冊。魯迅はガルシンの『四日間』、アンドレーエフの『嘘(うそ)』『沈黙』を、周作人はポーの『静寂』、チェーホフの『地主屋敷で』、シェンキェビッチの『燈台守(とうだいもり)』など13編を訳している。おもにロシア、東欧の少数民族文学から象徴主義的作品を多く選んでおり、訳の厳密さ、解説の適切さなどにおいても、清(しん)末翻訳文学史上最高峰の一つと数えられる。『日本及日本人』(1909年5月1日号)「文芸雑事」欄でもさっそく紹介されているが、中国人読者には受けず、合計わずか40部余りしか売れなかったという。

[藤井省三]

『阿英著、飯塚朗・中野美代子訳『晩清小説史』(平凡社・東洋文庫)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「域外小説集」の意味・わかりやすい解説

域外小説集
いきがいしょうせつしゅう
Yu-waixiao-shuo-ji

中国の作家魯迅周作人兄弟による中国語訳の欧米短編小説集。2部。宣統1 (1909) 年刊。ガルシン,アンドレーエフ,シェンケーウィチ,ワイルド,ポー,モーパッサンなど7ヵ国 10作家 16編が訳されている。訳者たちの日本在住時における文学運動の一つで,西ヨーロッパよりもむしろ東ヨーロッパの被圧迫民族の文学が多い。従来の林舒らの訳に比べて原文に忠実で苦心の翻訳であったが,やはりむずかしい古文であったうえ,まだこのような翻訳文学を受入れる条件が未成熟であったため,第1部,第2部合せて 41冊しか売れなかった。宣統 13 (21) 年,新たに 21編を加えた改訂版が出版された。

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