日本大百科全書(ニッポニカ) 「城(カフカの小説)」の意味・わかりやすい解説
城(カフカの小説)
しろ
Das Schloß
ドイツ語作家カフカの最大の長編小説。未完の遺稿から死後1926年に出版された。故郷を離れ、無一物のKが、城の支配する異郷の村にきて土地測量師として定住し、城の内奥に迫ろうとする。城の高官クラムに対決しようとするが、その努力はなかなか成功しない。その間には、役人のくる旅館兼料理屋の紳士荘のウエートレス、フリーダとの恋愛、同棲(どうせい)、離別のほか、村人とのさまざまな交渉があり、主人公Kとの奇妙なずれを示し、一つの社会的な広がりが批判的要素をまじえて表現される。終わりごろ紳士荘で城の秘書と会い、目的実現に近づくが、疲れて眠ってしまう。自由で確実な生活への努力とその不到達性が主題である。
[城山良彦]
『前田敬作訳『城』(新潮文庫)』