地電流(読み)ちでんりゅう(英語表記)earth current

精選版 日本国語大辞典 「地電流」の意味・読み・例文・類語

ち‐でんりゅう ‥デンリウ【地電流】

〘名〙 地中を流れる自然電流。微弱なもので、それによる電位差は東京付近の地表で、一キロメートルあたり一〇ミリボルト程度である。〔電気訳語集(1893)〕

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デジタル大辞泉 「地電流」の意味・読み・例文・類語

ち‐でんりゅう〔‐デンリウ〕【地電流】

地中を流れる微弱な電流地磁気変動で誘導されるもののほか、落雷や、地中の物質や温度の不均一による起電力によるもの、人為的なものなどがある。

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改訂新版 世界大百科事典 「地電流」の意味・わかりやすい解説

地電流 (ちでんりゅう)
earth current

地中には常に弱い電流が流れていることが知られており,これを地電流という。電流値を直接測定するのは困難であるので,通常は数十~数百m離して地中に電極を埋め,高入力抵抗の電圧計を用いて,この2点間の電位差として測定することが多い。このようにして測られる電位差を特に地電位差と呼ぶが,地電流と地電位差はしばしば混用される。通常,地電位差の測定値は単位長さ当りの電位差の値(地電場)で表すが,地電流を地電場の意味として用いることも多い。地電流(地電位差)の大きさは測定する場所によって異なり,また同一地点においても時々刻々変化している。時間的な変化を連続的に記録するには,一般的には直流増幅器を通して高感度のペン書き記録計に記録する。最近では,磁気テープなどを用いたディジタル式記録計も使用される。

 地電流には,後述するように,自然地電流や誘導地電流などがある。しかし,これらを地電位差として測定する場合,電極間に生じている電位差には,一般に雑音が含まれている。雑音のなかで直流的なものは,主として電極と土との接触によって生ずる接触電位差と呼ばれるものである。交流的な雑音には,送電線や電車からの漏洩(ろうえい)電流などのほか,種々の原因のものがあるが,ほとんどが人工的な雑音である。近年日本においては,特に人工雑音が著しく,地電位差の測定はしだいに困難になりつつある。

地電流あるいは地電位差には,長い時間にわたってほとんど変化しない成分がある。これらは,地質構造地下水の流れ,地形の影響などによって生じるもので,自然地電流あるいは自然電位と呼ばれる。硫化物の鉱床が地表近くにある場合などには,著しく大きな地電位差を生ずることがある。地電位差を測定することによって鉱体を探査する方法を自然電位法による電気探鉱という。温泉水などにより熱水変性を受けた鉱物が地下にある場合にも大きな自然電位が得られることがあるので,自然電位法は地熱や温泉の探査にも応用される。また,地震の前に震源の周辺域で地下水の分布が変わる可能性があり,それが地電位差の変化となって現れることが考えられている。現在,地震予知の有力な一手段として,理論的な研究や観測が行われている。

地磁気の強さや方向が時間的に変化すると,地球を構成する物質は導電性があるので,電磁誘導によって地球の内部に誘導電流が流れる。1ヵ所で測定された地磁気と地電位差の記録を見ると,地磁気の日変化や磁気あらしなどに伴う短周期変化に対応した変化が,地電位差に生じていることがわかる(図)。時々刻々の変化を詳しく調べると,地磁気と地電位差の変化の振幅の比は時刻によらずある一定の関係をもっている。もし地球が均質であるとすると,現象の周期をTとしたとき,両者の振幅比は1/\(\sqrt{T}\)に比例する。しかし実際には,この関係は地下の電気伝導度によって変わり,振幅比の絶対値も場所ごとに異なる。逆にいえば,変動の周期に対する地磁気,地電位差の変化の性質を解析することにより,地下の電気伝導度分布に関する情報が得られることになる。このような方法をマグネト・テルリク法magnetotelluric methodと呼ぶ。この方法によってわかる深さ(探査深度)は,現象の周期に依存し,長い周期ほど深い構造が反映される。観測は,磁気あらしなどに伴う数十分~数時間の変化や,地磁気脈動と呼ばれる数十秒の現象を対象とすることが多い。これらは,電磁波の中でULF帯(超長波帯)と呼ばれる,最も低い周波数帯に属する。最近では,より高周波のELF帯やVLF帯(極長波帯)の電磁波の測定や,海底における観測も行われるようになった。
電気伝導度異常

地下の電気伝導度分布を調べる方法に,誘導地電流のかわりに人工的に地面から電流を流し,それによってつくられる電位差を測定する方法があり,人工電位法による電気探査と呼ばれる。この方法では,入力電流値を制御できるので,精度よく電気伝導度の値を決めることができる。電気探査でわかる探査深度は,電流を流し込む電極と電位差を測る電極との距離の程度になるので,深い構造を知るためには長距離の基線をはる必要がある。南アフリカでは約300kmの電気探査が行われたことがある。前述したように,人工雑音の影響で誘導地電流の観測が困難になっているが,この方法では,電流値のほかに電流波形をも制御できるので,特に都市近郊での観測には有効である。
電気探査

地電位差を測定するときに用いる電極は,用途に応じて種々のものが考案されている。特に,自然電位を測定する場合には,接触電位差の影響をできるだけ小さくするため,非分極性電極と呼ばれるものを用いる。一般に非分極性電極は,金属電極とその金属の塩の溶液の二重構造あるいはそれ以上の複雑な構造をしている。主として誘導地電位差変化を連続的に記録する場合には,炭素棒電極や銅,鉛などの金属電極が用いられる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「地電流」の意味・わかりやすい解説

地電流
ちでんりゅう
induction current

地中を流れている自然電流。地殻を構成している土、砂、岩石などはある程度の電気伝導度をもつ。そのため磁気嵐(あらし)や地磁気日変化などの磁場の時間変化が、電磁誘導によって地中に引き起こすのがこの地電流である。電流としては非常に微弱なので、数百メートルから数キロメートル離れた2地点間の電位差として測定する。この電位差は10~1000mV/km(キロメートル当りミリボルト)程度の大きさをもつことが多い。磁場変動が原因で電流が流れるので、地電流の南北成分は磁場の東西成分と、また地電流の東西成分は磁場の南北成分と密接に関係している。これらの成分間の関係を解析することにより、地下の電気伝導度が深さの方向にどのように変化しているかが求められる。この方法をマグネトテルリクスmagnetotellurics法という。

[河野 長]

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百科事典マイペディア 「地電流」の意味・わかりやすい解説

地電流【ちでんりゅう】

地中に絶えず流れる微弱な自然電流の総称。東西,南北の2方向に数百〜数千m離して電極を埋め,電位差として測定する。ふつう1kmあたり数ミリボルト程度。日変化をはじめ,種々の変化が認められるが,原因は外部地球磁場の変動によって誘導される二次的電流によるものと考えられる。また地電流は地表近くの地質構造によって異なる。これを利用して地下構造を知る電気探査が行われている。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「地電流」の意味・わかりやすい解説

地電流
ちでんりゅう
earth current

地中を流れている微弱な電流。普通は数百m以上離れた2地点に電極を埋めて,自然の電位差を測定して地電流の大きさを決める。地電流は地磁気の日変化,年変化に対応して変化しているため,地磁気の変化に基づく誘導電流であると考えられている。その他の原因として落雷,雷雲の電荷に誘導される地面の電荷の移動,地中の物質の異方性による起電力,工場などからの漏電などがある。

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