地蔵菩薩(読み)じぞうぼさつ

精選版 日本国語大辞典 「地蔵菩薩」の意味・読み・例文・類語

じぞう‐ぼさつ ヂザウ‥【地蔵菩薩】

(Kṣitigarbha訳語) 六道の一切衆生の苦を除き、福利を与えることを願いとする菩薩。また、特に地獄の衆生を教化し、代受苦の菩薩とされるが、俗信では、小児の成長を守り、もし夭折した時はその死後を救い取ると信じられ尊崇された。密教では菩薩形にあらわされるが、普通には頭をまるめた僧形で、宝珠を持ち、平安中期以降は宝珠と錫杖を持つ姿が一般化し、多く石に刻まれて路傍に建てられた。その救いのはたらきや霊験、形、置かれた地名などによって、親子地蔵、腹帯地蔵、雨降地蔵、お初地蔵、とげぬき地蔵、勝軍地蔵、延命地蔵などの名がある。地蔵薩埵(じぞうさった)地蔵尊。地蔵。
霊異記(810‐824)下「我を知らむと欲はば、我は閻羅王、汝が国に地蔵菩薩と称ふ、是れなり」

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デジタル大辞泉 「地蔵菩薩」の意味・読み・例文・類語

じぞう‐ぼさつ〔ヂザウ‐〕【地蔵菩薩】

《〈梵〉Kṣitigarbhaの訳》釈迦入滅後から弥勒みろくが世に現れるまでの間、無仏の世に住み、六道衆生しゅじょうを教え導くことを誓いとした菩薩。中国では唐末、日本では平安中期から盛んに信仰された。像は慈愛に満ちた円満柔和な僧形に作り、多くは右手に錫杖しゃくじょう、左手に宝珠を持つ。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「地蔵菩薩」の意味・わかりやすい解説

地蔵菩薩
じぞうぼさつ

五濁(ごじょく)の悪世において救済活動を行う菩薩。八大菩薩の一つ。サンスクリット語クシティ・ガルバKiti-garbhaは「大地を母胎とするもの」の意であり、生命を生み出し育(はぐく)む大地のような可能性を秘めた菩薩を象徴したもの。一切衆生(いっさいしゅじょう)に仏性(ぶっしょう)があるという如来蔵(にょらいぞう)思想とおそらく関連し、大乗仏教の比較的後期に現れた。『地蔵菩薩本願経(ほんがんきょう)』によると、彼は仏になることを延期して、菩薩の状態にとどまり、衆生の罪苦の除去に携わることを本願とした。成仏(じょうぶつ)のみに関心をもつ仏教への反動であろう。彼の図像的表現はしばしば比丘(びく)(修行者)の姿をとり、剃髪(ていはつ)し、錫杖(しゃくじょう)と宝珠(ほうしゅ)を持つ。天上から救済活動を行う他の仏、菩薩と違い、自ら六道(ろくどう)を巡るこの菩薩は、中国、日本で庶民の人気を得た。中国的な要素をもつ十王の思想と合体し、敦煌(とんこう)出土の「地蔵十王図」では、地獄の裁判官である十王の背後に地蔵菩薩が描かれた。閻魔(えんま)大王は地蔵菩薩の化身であるとの思想も生まれた。密教では宝冠や瓔珞(ようらく)を着けた姿で描かれる。

[定方 晟]

地蔵信仰

地蔵は釈迦入滅(しゃかにゅうめつ)のとき、その依嘱を受けて弥勒(みろく)出世まで六道(地獄、餓鬼畜生、修羅、人間、天上)の衆生(しゅじょう)を済度(さいど)教化する菩薩とされたのである。地蔵菩薩は日本へは奈良時代にその経典が移入されたというが、その信仰は平安朝末から中世にかけて民間信仰として普及されるようになった。堂宇に祀(まつ)るだけでなく、道の辻(つじ)、橋のたもとなどに石像を立てて祀るようになった。今日民間における地蔵信仰をみると、何々地蔵とよばれて100以上にも及ぶ名称があり、その信仰内容がきわめて雑多なことがわかる。二、三の例をあげると、出産育児の祈願について子育て地蔵、子安(こやす)地蔵、夜泣き地蔵、乳貰(もら)い地蔵などがある。農村にある田植地蔵、鼻取り地蔵というのは、田の代掻(しろか)きのとき馬の鼻取りの役を子供にかわって地蔵がしてくれたという伝説のある地蔵で、その足元に泥がついていたのでわかったという。次に多いのは病気の祈願に関する地蔵で、いぼ取り地蔵というのが各地にある。縛(しば)り地蔵ともいい、地蔵を縄で縛り、いぼをとってくれたら縄を解くといって祈るといぼが落ちるという。雨降り地蔵、雨止(や)み地蔵というのはそれぞれ祈ると雨が降ったり雨が止んだりするという。仏説に基づく六地蔵というのが各地にある。上述の六道の衆生を済度するという。地蔵講をつくって信仰している回(まわ)り地蔵、巡(めぐ)り地蔵というのがある。地蔵の縁日である月の24日の前日に講をつくっている隣村または隣字(あざ)の講元(こうもと)に地蔵を送り込むのである。地蔵の縁日としては、7月24日の地蔵盆が関西地方で盛んに行われ、灯籠(とうろう)流しがみられる。

[大藤時彦]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「地蔵菩薩」の意味・わかりやすい解説

地蔵菩薩
じぞうぼさつ
Kṣitigarbha

菩薩の一つ。釈迦牟尼が没し,弥勒菩薩が出世成道するまでの無仏の五濁悪世にあって,六道に苦しむ衆生を教化救済する菩薩で,インドではバラモン教時代から日蔵,月蔵,天蔵などとともに,星宿の神として信仰されていた。これが仏教とともに中国に入り,十王思想と結びつき,末法思想が盛んになるにつれて,地蔵による救済を求める者が多くなった。日本にもこの段階で取入れられた。像容は普通,左手に宝珠を持ち,右手は与願印または錫杖を持ち,袈裟法衣を着けた比丘形で表現される。遺品として法隆寺の木像 (10世紀) ,伝香寺の木像 (13世紀前半) などが著名。

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「地蔵菩薩」の解説

地蔵菩薩 じぞうぼさつ

大地のように広大な慈悲で生あるものすべてをすくうという菩薩。
釈迦(しゃか)入滅後,弥勒(みろく)菩薩が如来(にょらい)としてあらわれるまでの無仏の間,衆生を救済するとされる。菩薩でありながら一般に僧形で,右手に錫杖(しゃくじょう),左手に宝珠をもつ。日本では平安時代からひろく信仰され,とくに子供の守り仏とされる。路傍の六地蔵,地蔵盆などでしたしまれる。

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防府市歴史用語集 「地蔵菩薩」の解説

地蔵菩薩

 釈迦[しゃか]が亡くなった後、弥勒菩薩[みろくぼさつ]が現れるまでの間、地蔵菩薩が全ての生き物を救うとされています。日本では、平安時代頃から信仰の対象になりました。

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世界大百科事典(旧版)内の地蔵菩薩の言及

【地蔵】より

…〈わが名を唱える人を苦から救う〉という誓願をたて,梵天,夜叉,狼,閻魔などさまざまの姿をとって衆生を導く。《地蔵菩薩本願経》によると,かつて二王がいて,一王は自ら悟ってから衆生を救おうと考え,一王はまず衆生を悟らせてから自らも悟ろうと考えた。前者は一切智成就如来,後者は地蔵菩薩である。…

【冥途】より

…閻羅王(または閻魔王,閻魔)をはじめとする十王や多くの冥官(冥府の役人)によって亡者は罪を裁かれ,それ相応の苦しみに処せられると信じられるようになったのは,おそらく中国の唐末期,9世紀後半からであろう。冥途における閻羅王の断罪から亡者を救う地蔵菩薩の信仰や,年に1度,中元の季節に亡者がこの世の家族のもとへかえって供養をうけるという盂蘭盆(うらぼん)会,亡者を救うための施餓鬼(せがき)の法会,年回忌の法要・供養等は,すべて冥途における亡者の,苦しみから逃れたいという願いによるものである。【井ノ口 泰淳】。…

※「地蔵菩薩」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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