地方(読み)じかた

精選版 日本国語大辞典 「地方」の意味・読み・例文・類語

じ‐かた ヂ‥【地方】

〘名〙
室町時代、幕府の所在した京都内外をさしていう。
室町幕府の政務機関。主に京都における土地支配に関する事柄をつかさどった。
※斎藤親基日記‐文正二年(1467)二月九日「地方番文等施行、匠作御礼被之」
※花営三代記‐康暦元年(1379)八月二五日「地方。二階堂中務少輔入道」
江戸時代、町方に対して田舎をいう語。都市に対しての農村。転じて、農村における田制、土地制度、租税制度などをさし、さらに広く、農政一般をさすようになった。
地方凡例録(1794)一「菜類総て土より生ずる物、亦は海川の産物、みな地方に属し、一として農人の手に出ざるはなし」
⑤ 陸地の方。特に、海上から陸地をさしていう語。陸地。岸辺。
※勇魚取絵詞(1829)上「生月島は〈略〉その形狭く長き島なり。東南の海は地方(ヂカタ)に属(つき)て浪もおだやかなれど」
⑥ 舞踊で、三味線や唄を受け持つ人たち。また、能楽の地謡方(じうたいかた)をいう。
※大川端(1911‐12)〈小山内薫〉一九「立方にも地方(ヂカタ)にも一流どこを選んで」
三河物語(1626頃)一「汝には、地かた四貫出しつるが、今日能(よく)立た去(ざる)はうびに、五貫かさねて、九貫にしてとらするぞとて被下けり」

ち‐ほう ‥ハウ【地方】

〘名〙
① 世界や国内の一部分。ある一定の地域。また、そこの土地。ある地域の名の下に添えて、その方面の地域の意を表わす場合もある。
※本朝文粋(1060頃)一二・池亭記〈慶滋保胤〉「地方都盧十有余畝」
※寛永刊本蒙求抄(1529頃)三「司空は六十づつで六々三十六で三百六十の官がある。その地方の官ぢゃほどに云たぞ」
※采覧異言(1713)「アフリカ地方、猶有遺壌存」 〔晉書‐孝愍帝紀〕
② 首都など中心となる大きな都市以外の土地。じかた。
※改訂増補哲学字彙(1884)「Local 地方 局処」
③ 旧軍隊で、兵営外の「一般社会」をいうことば
※激流(1963)〈高見順〉一「別世界を軍隊は『地方』と名づけている」
[語誌](1)室町時代から江戸時代にかけては「ぢ(じ)かた」とも読まれ、江戸時代には町方に対することばとして農村や田舎を意味したり、田制や土地制度や民政一般をさしたりした。→じかた(地方)④。
(2)明治以降、ヨーロッパの制度を模倣した行政制度や中央集権的国家整備の下で必須のことばとなって「地方行政」「地方自治」「地方税」その他多くの複合語も生まれ、日常語としても急速に普及した。

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デジタル大辞泉 「地方」の意味・読み・例文・類語

ち‐ほう〔‐ハウ〕【地方】

ある国の中のある地域。「この地方独特の風習」「関東地方
首都などの大都市に対してそれ以外の土地。「地方へ転勤になる」「地方の出身」⇔中央
旧軍隊で、軍以外の一般社会をさす語。
[類語](1区域地区地域地帯区画土地方面一円一帯界隈かいわい境域さかい領域エリアゾーン/(2田舎在郷ざいごう在所在地在方ざいかた近在田園ひな辺地辺境僻地へきち僻陬へきすう辺鄙奥地辺土ローカル片田舎鄙びる草深い

じ‐かた〔ヂ‐〕【地方】

室町幕府の職名。京都内の土地・家屋に関することや訴訟などをつかさどった。
江戸時代、町方に対して、農村のこと。転じて、農村における民政一般をいう。「地方役人」
海上から見て、陸地のこと。
日本舞踊で、伴奏音楽を演奏する人々。浄瑠璃三味線囃子はやしなどの演奏者をまとめていう。→立方たちかた
能で、地謡方のこと。

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改訂新版 世界大百科事典 「地方」の意味・わかりやすい解説

地方 (じかた)

室町幕府には京都内外の家屋,宅地,店舗,道路および訴訟に関する事務をつかさどる地方奉行があり,下って江戸時代には町方に対する田舎の地の義より転じて田制の意となり,さらに広義に土地および租税制度をさしたが,両者を分離することが困難なので総括して地方の制度と称し,さらにこの両者に関する政務一般,すなわち農政を地方と称するに至った。代官役所ではその事務処理のために地方,公事方(くじかた)の分課を置き,地方には地理,租税徴収・出納事務や帳簿作成などを掌握させた。地方勘定帳は代官所において毎年作成する租税を主とする決算帳簿である。なお,地方三帳は成箇郷帳(なりかごうちよう),年貢割付,年貢皆済目録の3帳をいい,貢租納入事務上重要な帳簿であった。また地方役人は代官およびその下僚の農政に携わる役人,地方書は農政に関する書物の総称地方三役村方三役ともいい,名主(庄屋),組頭,百姓代をさすなど,地方と冠する語は農政の意である。
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地方 (じかた)

日本舞踊音楽の用語。舞踊の伴奏をする演奏者たちを指す。舞を舞う人たちを,立方(たちかた)と呼ぶのに対することば。本来は唄い手,語り手長唄の唄方,義太夫節常磐津節・清元節・新内節など浄瑠璃の太夫)と三味線奏者(三味線方)だけであったが,現在では唄い手・語り手と三味線方と囃子方の三つをいう。唄と浄瑠璃がそれぞれ独立している場合と,それらの二つ以上が合併して行う掛合(長唄と常磐津のように)の場合とがある。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「地方」の意味・わかりやすい解説

地方
じかた

室町時代、京都内外の地を地方(じかた)と称し、室町幕府の職名である「地方沙汰(さた)」「地方頭人(とうにん)」を略して地方と称した。江戸時代には、町方に対して田舎(いなか)、都市に対して農村を地方と称した。転じて、田制や土地制度、租税制度を地方の制度というようになり、さらに農民統治一般をも意味するようになった。土地制度や租税制度、農民統治一般を記した書物を地方書という。慶長(けいちょう)・寛永(かんえい)のころ(1596~1644)、幕府の直轄領を支配する役職に、郡奉行(こおりぶぎょう)と並んで地方奉行の名がみえるが、その後、地方奉行の名はみえなくなる。農民統治に優れた代官などを地方巧者と称した。

[川鍋定男]

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「地方」の解説

地方
じかた

江戸時代,町方に対して村方・田舎(いなか)をいう語。室町時代には京都の諸屋敷地,およびその訴訟を担当する職名だったが,江戸時代には村方・田舎の意となり,さらに土地制度・租税制度など農政一般をもさすようになった。大名から家臣に土地が授給される知行形態を地方知行,農民支配を担当する役人を地方役人,農民支配にたけた役人を地方巧者,村方で作成された公用文書を地方文書などという。また「地方凡例録」「地方落穂集」「民間省要」など農政一般について記された地方書が江戸中期以降多く著されるようになった。地方が農政一般をさす語として広く使われるようになったのは18世紀以降と思われる。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「地方」の意味・わかりやすい解説

地方
ちほう
region

さまざまの指標が等質的広がりをもって展開する地理的範域をいうが,地域よりはより広い範域をさすことが多い。人間の生活様式が自然環境により決定される状況下では,地形,気候,自然資源などを指標とする自然的地方概念が使用され,それは人文地理学で古典的役割を果してきた。しかし,生産力の発展の結果,生活様式の自然環境への被拘束性が弱化するにつれ,自然的地方の概念には矛盾が生じ,ここで,社会文化的指標による地方の認識が要請されてくる。現在ではいくつかの都府県を含むような広域の範域において行政,産業,人口,職業,文化などの指標から地方区分が行われている。

地方
じかた

舞踊の音楽を受けもつ人をいう。舞踊をする人を立方 (たちかた) と称するのに対する語。

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世界大百科事典(旧版)内の地方の言及

【地域】より

…等質性,統一性などが識別される地域のほかに,政治・行政上その他の実用上指定された区域も地域と呼ばれることが多く,前者を実質地域または地理学的地域,後者を形式地域として区別することもある。地域の代替語あるいは類語には,地区,区域,領域,圏域,地帯,地方などがあるが,相互の使い分けは一定していない。また地域の複合語としては,地域住民,地域社会,地域主義,地域計画,地域指定,地域性,地域区分など多数のものがあり,法律用語においても地域概念の重要性が高まり,〈地域〉は現代社会に関するキーワードの一つとなっている。…

【地方落穂集】より

…江戸時代の地方書の一つ。全14巻。…

※「地方」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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