土壌水(読み)どじょうすい(英語表記)soil water

日本大百科全書(ニッポニカ) 「土壌水」の意味・わかりやすい解説

土壌水
どじょうすい
soil water
vadose water

土壌水の分類と含水量

地表面より下にある水を地中水subsurface waterとよび、地中水はさらに、地下水面より下にある地下水と、それより上にある土壌水に分けられる。水文学(すいもんがく)の用語であるvadose waterは、語源的には浅い地層中の水を意味し、前述のように定義した土壌水と同義であり、降水と地下水をつなぐ循環水として重要な役割を果たしている。土壌学では、腐植の生成、風化、溶脱や洗脱などの土壌生成作用を受けた部位を土壌とよんでいるので、このように定義した土壌中の水と、前述の水文学での土壌水とは同一ではない。

 ソ連の土壌学者ロージェА.А.Роде/A. A. Rodeは土壌水を結合水と自由水に分け、それらをさらに次のように分類している。結合水は強結合水(土粒子に強く結合されている数分子層の厚さの水)と弱結合水(土粒子に弱く結合されている数十~数百分子層の厚さの水)に、自由水は懸垂水と重力水に分けられる。懸垂水はさらに、接合部集積水(粒子間接点の孤立した自由水)、薄膜水(結合水により遮断された自由水)、団粒内毛管水(団粒内毛管にある孤立した自由水)、成層土層内毛管水(密から粗へ成層しているとき、上層の下部に毛管力によって保持される連続した自由水)に、重力水は、下降運動中の降下水と、毛管水帯中に保持されている支持水にそれぞれ細分される。

 土壌の含水量はゼロから飽和容水量まで変化し、その中間に以下のような水分恒数が定義されている。飽和容水量は土壌の全間隙(かんげき)を水で満たした場合の含水量であり、その値は間隙率に等しい。間隙率は百分率で、関東ローム65~85%、シルト質粘土50~60%、細砂40~50%、中砂35~40%、粗砂25~35%である。飽和状態の土を放置しておくと、地下水面が深い場合には重力水は排水される。2~3日たって排水がほぼ終了した時点の含水量を圃場容水量(ほじょうようすいりょう)とよんでいる。圃場容水量と永久しおれ含水量の間の水分は主として懸垂水よりなり、毛管作用や蒸発散の作用で土粒子の表面を薄膜状態で移動できる。懸垂水は植物が根から吸い上げることのできる有効水分であり、農業用の土壌改良の主目的は、土壌構造を変えることにより有効水分を増加させることにある。しおれ含水量以下の水分はきわめて移動しにくく、この状態が長く続くと植物はしおれる。最大吸湿度は、初め乾燥していた土がほとんど飽和に近い空気から吸収することのできる蒸気態水分の最大量である。しおれ含水量以下になると、水分はしだいに蒸気態でしか移動できなくなる。

[榧根 勇]

土壌水における水の移動

地表面と地下水面の間を土壌水帯またはベイドース・ゾーンvadose zoneとよんでいる。土壌水帯の下部には毛管力によって保持されている支持水があり、その部位を毛管水帯とよんでいる。毛管水帯はさらに、地下水面直上部の飽和毛管水帯(毛管水縁ともいう)と、その上に続く不飽和毛管水帯に分けられる。飽和毛管水帯はその名のとおり完全飽和に近い状態にあり、その中の水は地下水と水理学的に連続しているので、負圧(水圧が大気圧より低い)である点を除けば、水の流動に関しては正圧である地下水と区別することができない。地下水が流動している場合には、飽和毛管水帯の水も同じ方向に流動している。飽和毛管水帯の厚さは土質によって異なり、粗砂から中砂で5~30センチメートル、細砂で30~70センチメートル、粘土で70~200センチメートルである。したがって不圧帯水層が薄い場合には、飽和毛管水帯の水の動きを無視すると水の流動量の算定に大きな誤差が生ずる。油性溶液のように水より比重の小さい液体が地中へ浸透した場合には、液体は飽和毛管水帯の上面まで降下浸透してから横方向へ広がり地中水を汚染する。

 降雨灌漑(かんがい)のあと晴天が続くと、地表面付近に保留されている土壌水の一部は蒸発散でふたたび大気中へ失われる。裸地の土壌面から蒸発がおこると、土壌中に毛管力で保持されていた水は蒸発面へ向かって薄膜状態で移動する。蒸発の影響が及ぶ深さをゼロフラックス面とよび、土壌水はこの面より下まで降下すると、液体の状態では上方へ移動することができなくなる。ゼロフラックス面の深さは、灌漑した畑で数十センチメートル、関東ローム層では1~1.5メートルであるが、乾燥地域では地下水面近くまで達することもある。湿潤地域では土壌水の流れは下向きであるが、乾燥地域ではむしろ上向きの流れが卓越する。土壌水は土壌中から無機および有機物質を溶かし出して上方または下方へ運ぶ。その結果、乾燥地域では蒸発のおこる部位に塩類が集積する。灌漑によって地下水面が上昇すると、地表面付近の塩類集積が激しくなり、ついには耕作に支障をきたすようになる。土壌中の塩類集積の防止は乾燥地域の灌漑農業の最大の課題の一つになっている。地球温暖化の結果、グローバルな水循環が強まり、北半球の高緯度地帯は湿潤化、中緯度地帯は乾燥化が進んでいるため、ユーラシア大陸の土壌水分は高緯度帯で増加傾向、中緯度帯で減少傾向にある。

[榧根 勇]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「土壌水」の意味・わかりやすい解説

土壌水
どじょうすい
soil water

土壌水分ともいう。土壌粒子間の孔隙に存在する水で,結合力の大きいほうから順に次のように区分されている。 (1) 固形分中に化学的に結合している結合水。 (2) 土壌粒子の表面に分子間引力で吸着されている吸着水。これは土壌コロイド粒子表面の解離イオンで保持されている。 (3) 毛細管力で保持されている毛管水。 (4) 重力によって粒子間を移動する重力水。このほかに水蒸気の状態のものがある。植物が根から吸収する水は主として毛管水で,結合水,吸着水は利用されない。単位量の土壌中に含まれる水分量を含水量という。土壌の水ポテンシャルは容水量をこえた場合は重力ポテンシャル,容水量以下ではマトリックスポテンシャルにより支配される。蒸散の弱いときには水ポテンシャル-15バールにいたるまでの水が植物に利用可能な量の目安を与える。 (→萎凋点 )  

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世界大百科事典(旧版)内の土壌水の言及

【地下水】より

…地中にあって大気圧以上の圧力をもち,井戸やトンネルの中へ,あるいは泉となって地表へ自然にしみ出すことのできる水を地下水という。陸水のうち河川や湖沼などの地表水に対し,地下に分布する水をさすが,普通は地下深所のマグマに由来する処女水と,土粒子の表面をおおっている吸着水や,粒子の間に不飽和の状態で存在する毛管水,さらに重力に従って深部に下って行く重力水などの土壌水は区別する。土壌水は大気圧以上の圧力をもっていない。…

※「土壌水」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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