土地神(読み)とちしん

改訂新版 世界大百科事典 「土地神」の意味・わかりやすい解説

土地神 (とちしん)

民間信仰の神。城隍神(じようこうしん)が城市の守護神であるのに対して,これは郷村の守護神。天災や戦乱から住民を保護し,さらに住民の死後をもつかさどる神としてあつい信仰を集めた。人が死ぬと,魂はまず城隍廟,土地廟に赴くと信じられたから,遺族はすぐ廟へいって廟神を拝し,紙銭を焼いた。土地神への信仰は後漢末・六朝時代からすでに見られ,道教にも取り入れられた。唐・宋時代には全国に広まり,各地に土地廟が建立されるようになった。中国の神は,玉皇を頂点とする現世官僚同様の機構を有し,その業績によって昇降・配置転換されるが,土地神にもそれが顕著に見られる。現世で行いのすぐれていた人が,死後この神に任命されたとする話が少なくない。台湾では,土地公,土地爺と親しんで呼ばれ,今日でも広く信仰されている。
執筆者: 中国ではどの村落でも必ず土地神をまつっている。土地廟という建物があり,土地神の神像が安置されているのが通例であるが,神像がない場合は〈土地神之位〉と書いた神牌(しんぱい)が安置されている。民俗慣行面で華南の延長と考えられる台湾では,上述のように土地神は〈土地公〉などのほか,また〈福徳正神〉とも呼ばれ,土地神に人物が配せられている事例が少なくない。また村落単位でまつる土地公のほかに,民家・田畑の隅,墳墓などの傍らにまつられるさまざまな類型の土地公がある。中国の土地神は地縁的な信仰としての神格が顕著である。また中国では土地神の誕生日が2月2日とされているが,この日は〈竜擡頭(りゆうたいとう)〉と呼ばれ,竜が昇天する日ともされている。土地によっては,この日に最初の雷鳴があるとも伝えている。実際の季節からいっても,2月2日はこれから雨が降る時期に入る重要な折り目である。作物季節の導入者である雨竜が目覚める日と,土地神の誕生日が同時に考えられていることは,きわめて興味深い。
執筆者:

土地の神は日本では,ジガミ(地神),ジジン,ジノカミ(地の神),ジヌシサマ(地主様)などと呼ばれ,屋敷神のほか畑の隅や村の辻などに石塔や石碑をたててまつられる。屋敷神としての地神は今日では主に土地や屋敷の守護神とされているが,一方で開発先祖や祖霊をまつったものという所や,人が死んで33年あるいは50年たつと地主様になるという伝承もある。また関東や四国では地神を講組織でまつる地神講(じじんこう)もあって,地神の石塔や石碑を神体と見なし春秋社日(しやにち)に作神としてまつる所がある。土地神は元来は大地の精霊といったアニミズム的な信仰に根ざすものと考えられ,陰陽師はじめさまざまな宗教者の関与を受けやすかった。今日の地鎮祭にもその一端がうかがわれるが,地方によっては琵琶をもった盲僧(地神盲僧)が地神経を唱えて地神や荒神の祓いをして歩いたことも知られている。彼らは,大地が血や死などで汚されて怒った土地の神の怒りを和らげしずめるために遊行(ゆぎよう)して歩いたのであろう。
地霊
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「土地神」の意味・わかりやすい解説

土地神
とちがみ
earth god

大地の神であり,村落の守護神のこと。穀物や豊饒の神でもあり,人々に繁栄をもたらす。ボルネオのトーと呼ばれる精霊は,人間に対して威力をもっており,善意ばかりでなく不幸をももたらし,墓,山,川,森,洞窟,海などあらゆる場所に宿っていると信じられている。インドシナ半島のタイ諸族に広く分布しているピーという精霊の観念も一種の土地神である。中国の社稷 (しゃしょく) と呼ばれる神々も大地収穫の神であり,厚く信奉されている。日本では古くから地神 (じがみ) 信仰がみられ,遠祖や開拓先祖を祀り,その墓地や家と結びつけて地神の性格を説く事例が多い。地神は西日本では地主様,関東ではチジンと呼ばれ,農耕神としての性格をもつ。

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世界大百科事典(旧版)内の土地神の言及

【社】より

…中国古来の土地神,あるいはそれをまつる集団,集落をいう。その起源については諸説があって定まらないが,おおよそ原始集団の中心にある聖なる場所,その集団の保護神が祖先神であったといわれる。…

※「土地神」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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