土佐節(読み)とさぶし

精選版 日本国語大辞典 「土佐節」の意味・読み・例文・類語

とさ‐ぶし【土佐節】

〘名〙
江戸浄瑠璃の一流派。二代目薩摩次郎右衛門の門人土佐少掾橘正勝の語りはじめたもの。寛文延宝一六六一‐八一)の頃から行なわれた。
随筆・紫のひともと(1683)下「扇おっとり手拍子にて、当世はやる土佐ぶし、蓮生房が高野詣、東をみればと語りだす」
土佐国(高知県)から産出するかつお節品質の良いものとされる。〔本朝食鑑(1697)〕
③ 土佐国(高知県)の民謡。よさこい節。

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デジタル大辞泉 「土佐節」の意味・読み・例文・類語

とさ‐ぶし【土佐節】

土佐で作られる鰹節かつおぶし
古浄瑠璃一派土佐少掾とさのしょうじょう橘正勝たちばなのまさかつが語りはじめたもの。延宝~宝永(1673~1711)のころ江戸流行

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「土佐節」の意味・わかりやすい解説

土佐節
とさぶし

土佐国(高知県)産のかつお節。『延喜式(えんぎしき)』に土佐から堅魚(かつお)献上のことがみえるが、土佐は古来かつお節の名産地であった。伝承では、天正(てんしょう)年代(1573~92)に高岡郡宇佐(うさ)浦(土佐市)の亀蔵(かめぞう)が紀州の漁夫からかつお節の製造を習い、5代目佐之助(さのすけ)が延宝(えんぽう)年間(1673~81)に製法を改良したという。亀蔵節の名のあるゆえんである。また一説では、1674年(延宝2)佐之助と紀州の漁夫甚太郎とが共同して改良したという。鰹(かつお)肉を骨付きのまま日干しか、煮て乾かしていたのを、骨を抜き、火力乾燥で貯蔵をよくし、カビによってタンパク質を変化させ、香気と風味をよくするように改良した。ただ亀蔵・佐之助の墓が宇佐に現存しているが、亀蔵は幕末、佐之助は明治まで生きているので、伝承に疑問が残る。ほかに享保(きょうほう)年間(1716~36)幡多(はた)郡中浜(なかのはま)浦(土佐清水市)の山崎儀右衛門(ぎえもん)によって製造された春日(かすが)節があり、亀蔵節とともに高い評価を受けた。かつお節は幕府への献上品、藩の統制品として厳重に管理された。明治以後安芸(あき)郡浮津(うきつ)(室戸(むろと)市)の米沢寅太郎(よねざわとらたろう)により米沢節が生産され、ともに土佐節の名を高めた。太平洋戦争後、真空包装の新節が製造され、従来の本涸(ほんこ)節にかわって販路を拡張している。

[山本 大]

『植田穂著『改良土佐節の研究』(1976・土佐市立市民図書館)』

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改訂新版 世界大百科事典 「土佐節」の意味・わかりやすい解説

土佐節 (とさぶし)

江戸の古浄瑠璃の曲節。土佐少掾(とさのしようじよう)橘正勝が創始。彼は薩摩浄雲座の人形遣い内匠(たくみ)市之丞の子で,幼名虎之助。1664年(寛文4)江戸虎之助座を建てたが2年で休座,伊勢大掾座,杉山肥前掾座等に出演,寛文(1661-73)末ころ受領して土佐少掾橘正勝となった。宝永(1704-11)初年ころ没。別名土佐太夫。延宝~宝永(1673-1711)ころに江戸で大流行,1680年には江戸城二の丸で《酒天童子》を演じ,将軍の上覧を得て名声をあげた。彼の語り口は,豪快な薩摩系とやわらかな肥前節とをあわせたもので,曲節は豊かであったと伝える。曲は6段形式で,多くの作品が残され,またその一部を集めた段物集も多く出版された。しかし,話の筋が複雑で技巧を弄しすぎ,戯曲の統一性に欠け,純粋な世話物を生み出せなかったので,やがて上方で生まれた義太夫節に押されて滅びた。土佐太夫は4世まであったというが,宝暦(1751-64)ころにはすでに乞食の語り物になっていたという。
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世界大百科事典(旧版)内の土佐節の言及

【浄瑠璃】より

…浄雲には《はなや》などあり,その勇壮な硬派の流派(薩摩節)は2世薩摩その他に受け継がれ,明暦(1655‐58)から寛文(1661‐73)ころ以後,それぞれが流派を立てて活躍した。その中で注目されるものに金平(きんぴら)節(金平浄瑠璃),外記節土佐節がある。金平節は大坂の伊藤出羽掾,井上播磨掾にも影響した。…

【土佐[市]】より

…また北隣の吾川郡伊野町と並ぶ土佐和紙製造の中心地で,手すき和紙業も残る。浦ノ内湾口に位置する宇佐は古くからのカツオ漁港で,土佐鰹節(土佐節)の発祥地ともいわれ,現在も水産加工業が盛んである。仁淀川河口の新居(にい)では施設園芸が盛んで,キュウリ,スイカなどを栽培する。…

【土佐国】より

… 漁業では古来カツオ漁が有名だが,近世以降,高岡郡宇佐(現,土佐市),幡多郡清水・中浜(なかのはま)(現,土佐清水市)などで盛んとなり,天保年間(1830‐44)には年漁獲高200万本の記録を残す。加工面では宇佐の播磨屋佐之助,中浜の山崎儀右衛門らが鰹節の改良と積出しにつとめ,江戸,上方で土佐節の名声を高めた。捕鯨業は近世初頭,安芸郡津呂(現,室戸市)の多田五郎右衛門が始めた。…

※「土佐節」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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