日本大百科全書(ニッポニカ) 「土(長塚節の小説)」の意味・わかりやすい解説
土(長塚節の小説)
つち
長塚節(たかし)の長編小説。1910年(明治43)6月13日から11月17日まで『東京朝日新聞』に151回にわたって連載。12年5月春陽堂刊。作者の郷里茨城県の鬼怒(きぬ)川辺の農村を舞台として貧農の勘次一家の生活を描いた作品。勘次の妻お品は堕胎がもとで死に、勘次はおつぎ・与吉の幼い姉弟を抱えて必死に働くが、舅(しゅうと)の卯平(うへい)との不仲や自らの盗癖がしばしば彼を窮地に落とし込む。末尾では失火による家の焼尽が一家の結び付きを暗示して終わる。いちおうの筋立てはなされているが、それよりも、四季おりおりの自然や農村風俗、土に育(はぐく)まれ土と闘う農民の姿そのものをきわめて精細に写し取ったところにこそ、この作品の価値がある。
[大塚 博]
『『土』(岩波文庫・旺文社文庫・新潮文庫)』▽『長塚節研究会編『長塚節の人間と芸術』(1969・教育出版センター)』