国
くに
一定区域をなす土地を表わす言葉で,現在では,土地,人民,政府をもつ国家のこと。歴史的には,さまざまの範囲を呼ぶのに用いられた。日本に農耕生活が始り,人々が政治生活を営むようになると,従来の「むら」が「くに」と呼ばれるようになった。『後漢書』に,1世紀の倭国に百余国があったというのは,このような「くに」の分立状態を示している。大和朝廷の頃は,こうした「くに」がさらに拡大して,国造 (くにのみやつこ) の管轄区域となったが,同じ言葉は,「豊葦原の中つ国」 (→葦原中国 ) といった国土の総称にも用いられていた。律令制のもとでは,中央集権国家の地方制度としての国,郡,里が確定し,国の行政裁判を司る国司が任命されて国府 (国庁,国衙ともいう) に在勤するようになった。当初は改廃があり,奈良時代には 58国3島を数えたが,平安時代初期の天長1 (824) 年以来 66国2島 (壱岐,対馬) に固定した。平安時代後期には,国司制度がくずれ,国司の遙任 (ようにん) や権門社寺の知行国 (ちぎょうこく) の制度が起り,やがて鎌倉幕府の成立以後,国の治安は守護,地頭によって保たれるようになった。室町時代に大名領国が発達すると,律令制の国は形骸化して単なる地域を示す符号となる反面,大名の領分が国 (分国 ) と呼ばれ,武家法としての分国法 (ぶんこくほう) が制定され,領内には国人 (地侍) 衆が兵農未分離状態の有力者として在住した。江戸時代には,律令制の国郡を規準とした国持大名という呼称や,大名,旗本の国守その他の受領名 (ずりょうな) はみられたが,普通には,国許 (くにもと) ,国腹,国家老,国産会所というように,大名領分を示す国が,全国を示す「天下」とともに用いられた。明治新政府は,当初は旧国郡制を近代国家の行政区画とし,奥州2国を7国に,また蝦夷地を北海道とし 11国に分けたが,明治4 (1871) 年の廃藩置県により1道3府 43県となった。現在旧国名は公式には用いないが,愛称として慣用されている場合が多い。
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デジタル大辞泉
「国」の意味・読み・例文・類語
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国
くに
「くに」とはもともと自然の国土をさすことばであったが、弥生(やよい)時代に入り各地に政治的支配が成立すると、その政権の支配領域を「くに」とよんだ。『漢書(かんじょ)』以下の中国史書にみえる奴国(なこく)などの小国家、『魏志倭人伝(ぎしわじんでん)』にみえる邪馬台国(やまたいこく)のような地域的統合国家、統一された大和(やまと)国家、そしてそのなかの国造(くにのみやつこ)の支配領域に至るまで「くに」には大小、広狭さまざまの概念があるが、ともあれ、そのような政治的領域に漢字の国をあてたのである。大化改新以後国土の統合が進み律令(りつりょう)体制が成立するとともに全国土は60余りの行政区画に分けられ、その一つ一つが国とよばれた。この国は、その広狭、人口、貢租などを基準に大・上・中・下の4等に分けられ、守(かみ)以下国司の定員に差があった。8世紀初頭で58国3島、その後の統合、分割を経て9世紀初頭に66国2島となって固定した。なお、これらの諸国は行政上の便宜から畿内(きない)七道の8ブロックに分けられた。
[黛 弘道]
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国【くに】
(1)→国家(2)古代日本の行政区画。国造(くにのみやつこ)の治めていた国には,のちの律令制下の国に対応する大規模なものや,郡などに対応する小規模なものがあった。大化改新を経て国郡制が成立。郡の上に国司の治める新たな国を置くこととし,日本全国は8世紀初めに五畿七道に大別され58国3島,10世紀初めの《延喜式》では66国2島とされ,国の大小によって大・上・中・下の4等級に格付けされた。中世以後も明治初年まで地方区画として存続。→国衙・国府
→関連項目郷|里
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こく【国】
〘名〙
① 人の住む、一定の区域のきまった土地。また、上代から江戸時代までの行政区画の一つ。
※伊勢物語(10C前)
八一「わがみかど六十余こくの中に、塩竈
(しほがま)といふ所に似たるところ無かりけり」
※洒落本・多佳余宇辞(1780)「コリャとんだ事ッた。こくだな」
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くに【国】
[語義]
日本語としての〈クニ〉は,本来,海や天に対する土地,陸地を意味した。〈地祇(くにつかみ)=その土地の土着の神〉〈国栖(くにす)=クズともいい,土着の住民〉といった用法からも,範囲の狭い一地方をさした語と考えられる。故郷=クニという語感もこの用法に根ざしているであろう。クニは地域的な支配の単位でもあったが,古代国家の成立過程で,その地方行政区画として,つまり〈国〉として編制されてゆく。次に〈国〉の成立について述べる。
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世界大百科事典内の国の言及
【愛国心】より
…愛国心とは,人が自分の帰属する親密な共同体,地域,社会に対して抱く愛着や忠誠の意識と行動である。愛国心が向かう対象は,国countryによって総称されることが多いが,地域の小集団から民族集団が住む国全体までの広がりがある。…
※「国」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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