国際リニアコライダー(読み)コクサイリニアコライダー(英語表記)International Linear Collider

デジタル大辞泉 「国際リニアコライダー」の意味・読み・例文・類語

こくさい‐リニアコライダー【国際リニアコライダー】

ヨーロッパアジア・北米各国の国際協力による、世界最大級の電子陽電子衝突型線形加速器の開発計画。地下につくられた約40キロメートルの直線トンネルの中に加速器を構築し、高速に加速した電子と陽電子を互いに衝突させ、ビッグバン直後(約1兆分の1秒)に匹敵する高エネルギー状態を再現することを目的とする。超対称性理論検証暗黒物質同定、初期宇宙の解明などが期待される。日本では高エネルギー加速器研究機構KEK)を中心に同加速器の日本誘致を進めている。ILC(International Linear Collider)。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「国際リニアコライダー」の意味・わかりやすい解説

国際リニアコライダー
こくさいりにあこらいだー
International Linear Collider

国際的な協力で建設計画が進められている次世代の素粒子加速器。略称はILC。リニアコライダーは直線型(線型)の衝突加速器である。ヒッグス粒子の発見などで有名になったCERN(セルン)(ヨーロッパ原子核研究機構)のLHC(Large Hadron Collider:大型ハドロン衝突型加速器)の後継として素粒子研究者たちが協力して開発しつつある(2022年3月現在)。その特徴は総延長30キロメートルにも及ぶ長い線形加速器であることと、電子・陽電子対の衝突実験を行うことである。CERNのLHCは円形加速器であるため、円形の軌道上(全周27キロメートル)を陽子が光の速度付近で運動するとシンクロトロン放射により粒子のエネルギーが散逸してしまい、粒子のエネルギーを増加させることがむずかしい。国際リニアコライダーでは、地下の全長30キロメートルの直線トンネル内に片側15キロメートルずつの2本の加速器を直線的に配置して、円運動の際にあったシンクロトロン放射からの粒子のエネルギー散逸を避けることができる。またCERNのLHCではクォーク複合粒子ハドロン)である陽子対の衝突を使っているため、衝突後の反応が複雑で解析が困難である。これに対して、ILCではクォークと同じレベル(レプトン)での電子・陽電子対の衝突を使うので、衝突後の反応がシンプルで解析が比較的容易だという利点がある。ILCはヒッグス粒子の詳細な研究から始まり、標準理論を超える理論の探索、暗黒物質の正体解明、暗黒エネルギーの探索など従来の素粒子物理の先をねらっている。

 2000年代から本格的に国際的な検討が始められたが、膨大な建設費の問題もあり、技術的および財政的な検討が続いている。2013年2月にはILCとコンパクト・リニアコライダー(CLIC:Compact Linear Collider)の研究グループが一つの組織に統合され、リニアコライダー・コラボレーション(LCC:Linear Collider Collaboration)が発足した。

 日本では、高エネルギー加速器研究機構(KEK)が中心になりILCの誘致を進め、立地の候補地として北上山地(岩手・宮城県)と脊振(せふり)山地(福岡・佐賀県)があがったが、2018年(平成30)12月、日本学術会議は、「国際リニアコライダー計画の見直し案に関する所見」を発表して、日本へのILC計画誘致を支持しないことを表明した。

[編集部 2023年7月19日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「国際リニアコライダー」の意味・わかりやすい解説

国際リニアコライダー
こくさいリニアコライダー
International Linear Collider; ILC

大型ハドロン衝突型加速器 LHCの後継として,世界各国の素粒子物理学者が実現を目指している直線形衝突型加速器。国際線形加速器とも呼ばれる。1990年代から日本で進められていた電子・陽電子衝突型の加速器建設計画と,ヨーロッパやアメリカ合衆国で進められていた同型の加速器建設計画が 2004年に統合され,国際リニアコライダー建設計画となった。電子と,電子の反粒子である陽電子を,1兆eV(電子ボルト)レベルのエネルギーにまで加速して正面衝突させ,新粒子や新現象の発見を目指す。陽子を加速する LHCより 1粒子のエネルギーは低いが,陽子よりも性質が単純な電子を使うため,明確で分析しやすい現象を起こすことができるとされる。自然界の基本法則の探求に大きな役割を果たすと期待されている。電子のような軽い粒子を超高速に加速するため,また安全性の確保のため,全長約 30kmの直線状トンネルの中に建設する必要がある。

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