国防文学(読み)こくぼうぶんがく

世界大百科事典 第2版 「国防文学」の意味・わかりやすい解説

こくぼうぶんがく【国防文学 guó fáng wén xué】

日中戦争の前夜,中国共産党による抗日民族統一戦線結成の呼びかけにこたえて,上海在住の周揚夏衍かえん)ら党員文学者グループにより提起されたスローガン。運動推進の母体として1936年に中国文芸家協会を結成したが,それに先だって,従来の文芸界における統一戦線組織である中国左翼作家聯盟(〈左聯〉)を,ソ連にいた王明(陳紹禹)の指示で解散した。このとき〈左聯〉の実質的な指導者である魯迅との意思の疎通を欠き,そのため魯迅は,胡風や中共党中央から派遣されて上海へ来たばかりの馮雪峰と相談,また茅盾にもはかって〈民族革命戦争の大衆文学〉というスローガンを提起,〈中国文芸工作者宣言〉を発した。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「国防文学」の意味・わかりやすい解説

国防文学
こくぼうぶんがく

1935年末から36年にかけて中国で提唱されたスローガン、また、その呼びかけに応じた文学。深まる日本の侵略の危機に対して、中国共産党は35年8月1日「八・一宣言」を発して抗日統一戦線を呼びかけたが、それに呼応して上海(シャンハイ)の党員文学者、周揚(しゅうよう/チョウヤン)、夏衍(かえん/シヤイエン)、周立波(しゅりつは/チョウリーボー)らが提唱した。これに対して、魯迅(ろじん/ルーシュン)、馮雪峰(ふうせっぽう/フォンシュエフォン)、胡風(こふう/フーフォン)らが、そのスローガンの階級的内容のあいまいさと、周揚らの作風への反発から、「民族革命戦争の大衆文学」のスローガンを提起、両者の間に「国防文学論戦」が展開された。

 後の文化大革命では、これが周揚らに対する非難の根拠とされたが、今日では、不十分さをもちながら正当なスローガンであり、魯迅らとの論争は左翼文学内部の論争であった、と位置づけられている。

丸山 

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