国民(政治)(読み)こくみん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「国民(政治)」の意味・わかりやすい解説

国民(政治)
こくみん

国家を構成し、その国の国籍をもつ者。このような個人の総体を国民ということもある。国民の基本的人権という場合の国民は個々の国民をさし、国民主権というときの国民は総体としての国民をさしている。国民ということばは、国民主権の例にみられるように、統治主体という地位にあるものをさすこともあれば、統治の客体という地位にあるものをさすこともある。後者の場合、君主国においては「臣民」とよばれる。また国民は統治の機関としての地位も有する。この場合の国民は一定の範囲のものに限られ、国家の統治に参加する資格ないし権利が与えられる。この国民の地位を「公民」とよぶことがある。

[池田政章]

国民たる要件

日本の法令上「国民」という語が用いられている場合、一般に日本国民をさしている。日本国憲法は「日本国民たる要件は、法律でこれを定める」(10条)と規定し、これを受けて国籍法が制定されている。つまり日本国民とは日本の国籍を有する者をいい、それ以外の者は外国人という。国籍法によれば、日本国籍の取得には出生による場合と帰化による場合とがある。出生による場合は、1984年(昭和59)の改正までは父系優先の血統主義をとっていた。つまり、日本人を父とする嫡出子には日本国籍が付与されたが、父が外国人のとき母が日本人であっても日本国籍は付与されないのが原則であった。しかし父系優先血統主義は男女平等に反するという批判が高まり、84年に父母両系の血統主義に改正された。つまり、母が日本人であるときも子は日本国民となることができるようになった。帰化というのは後天的に日本国籍を取得することで、一定の条件を備える外国人は法務大臣の許可を受けて日本国民となることができる。また日本国憲法は「国籍離脱の自由」を規定しており(22条2項)、自己の志望によって外国の国籍を取得したときは、日本の国籍を喪失する。

 天皇が日本国民に含まれることは明らかであるが、その地位には世襲が認められているので(憲法2条)、それに必要な限りにおいて、天皇と皇族には、それぞれについて一般国民とは違った法的特例が認められている。

[池田政章]

国民の国家に対する関係

国民が国家においてどのような地位にあるかについては、ドイツの公法学者ゲオルグ・イェリネックの理論が今日なお基本的に支持されている。それによれば、第一は、国民が国家に服従する地位で、これを「受動的地位」という。この地位は義務である。第二は、国民が国家権力の干渉を拒否することのできる「消極的地位」である。思想・良心の自由、表現の自由など、伝統的な「自由権」はすべてこの地位から発生する。第三に、国民が国家の活動を要求する「積極的地位」がある。裁判を受ける権利、国家補償請求権などの「受益権」または「国務要求権」などがこの地位から発生する。20世紀の人権といわれる社会権も、この地位に根拠を置く。第四に、国民が国家活動を担当する「能動的地位」がある。参政権はこの地位に基づく。

[池田政章]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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