国師(読み)こくし

精選版 日本国語大辞典 「国師」の意味・読み・例文・類語

こく‐し【国師】

〘名〙
奈良時代僧侶職名諸国に分置して、その国の寺院僧尼の監督や経典講説、また国家の祈祷などにあずかったもの。平安時代初期、講師(こうじ)または国講師と改称
※東南院文書‐天平一〇年(738)駿河国正税帳「下総常陸等国国師賢了」
② (天皇の師範の意) 天皇に仏法を伝える僧。
源平盛衰記(14C前)三〇「広嗣は国家を乱すべき臣也。一天の国師(コクシ)たり貴き僧を讒し申す条」
元亨釈書(1322)七「正和始賜謚国師。国師之号始于爾矣」

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デジタル大辞泉 「国師」の意味・読み・例文・類語

こく‐し【国師】

奈良時代の僧の職名。大宝令により、諸国に置かれ、僧尼の監督、経典の講義、国家の祈祷きとうなどに当たった。のちに講師こうじと改称。
天皇に仏法を説き伝える法師。
禅宗をはじめ律宗・浄土宗の高僧に、朝廷から贈られた称号。「夢窓国師

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改訂新版 世界大百科事典 「国師」の意味・わかりやすい解説

国師 (こくし)

(1)日本古代の僧官。702年(大宝2)諸国に置かれた。原則として各国1人。中央より派遣されて,国司とともに管内の僧尼・寺院の監督など宗教行政をつかさどった。奈良時代の後半には大国師,少国師に分かれ,員数が漸増したが,795年(延暦14)講師(こうじ)と改称された。(2)国家の師表たる高僧に与えられる称号。インド,西域においてこの称号が行われていたことは《出三蔵記集》などに見えるが,中国では北斉の法常がうけたのを最初とし,朝鮮や日本でも行われた。生存中に与えられるのを特賜(です),死後におくられるのを勅諡(ちよくし)という。日本では,1311年(応長1)円爾弁円が〈聖一国師〉,20年(元応2)約翁徳倹が〈仏灯大光国師〉の号をうけたのがそれぞれ勅諡・特賜の先例である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「国師」の意味・わかりやすい解説

国師
こくし

僧の尊称。国の師表という意。賜号としては中国・北斉(ほくせい)の法常(ほうじょう)(567―645)が最初で、高麗(こうらい)の義天(ぎてん)(1055?―1101)にも大覚(だいがく)国師の号がある。日本では国分寺制度が創設されて以来、諸国に置かれた僧官の名で、寺院や僧尼の監督、経論の講説、国家の祈祷(きとう)にあたった。中世以降は天皇の帰依(きえ)を受けた高僧に与えられた称号で、多くは五山臨済(りんざい)僧が受け、賜号としては禅師号の上。1312年(正和1)円爾(えんに)が花園(はなぞの)天皇より聖一(しょういち)国師を賜ったのを初めとする。

[石川力山]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「国師」の意味・わかりやすい解説

国師
こくし

国の民の師あるいは国王の師という意味で高僧につけられた尊称。朝廷から下賜されたもので,中国では北斉の文宣帝のときに法常に与えられたのが最初で,日本では花園天皇の正和1 (1312) 年,東福寺の円爾弁円に聖一国師の号を賜わったのが初めである。多くは禅宗の高僧に賜わった。また奈良時代に国分寺,国分尼寺が制定されたときに,同時に諸国の僧尼を統領するために定められた職名をさす場合もある。

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旺文社日本史事典 三訂版 「国師」の解説

国師
こくし

①702(大宝2)年,国ごとに置かれた僧官
②中世,高徳の僧に朝廷が与えた称号
部内の寺院・僧尼の監督,仏教界の事務にあたった。初めは国ごとに1人,国分寺創建後は国分寺僧を任じた。
中国・朝鮮でもみられるが,日本では1312年円爾弁円 (えんにべんえん) を聖一 (しよういち) 国師としたのが最初。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「国師」の解説

国師
こくし

中世において国家の師表とすべき高僧に朝廷が贈った称号。1311年(応長元)円爾弁円(えんにべんねん)に下賜された聖一(しょういち)国師を初例とする。夢窓疎石(むそうそせき)は七朝国師とよばれた。

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世界大百科事典(旧版)内の国師の言及

【僧官】より

…その後,645年(大化1)十師(じつし)に改まったが,律令制の施行にともない683年(天武12)僧正,僧都,律師からなる僧綱(そうごう)が成立した。これは中央の僧官であるが,701年(大宝1)諸国に国師が任ぜられ,地方の仏教界の統制にあたった。僧綱の構成員は,時代の経過とともに大僧正,僧正,大僧都,少僧都,律師に分かれ,国師は平安初期に講師(こうじ),読師に改称された。…

※「国師」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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