国奉行(読み)くにぶぎょう

精選版 日本国語大辞典 「国奉行」の意味・読み・例文・類語

くに‐ぶぎょう ‥ブギャウ【国奉行】

〘名〙
鎌倉幕府初期職名の一つ。守護とは別に任ぜられて、鎌倉にいて諸国を分担してうけもち、その国の政治を監察し、国人の雑訴、犯罪などを裁断するもの。雑人(ぞうにん)奉行雑務奉行
吾妻鏡‐元久二年(1205)一二月二四日「行村今日為上総国奉行云々」
② 室町末期、諸大名家で地方の雑務を分担した役職
武家名目抄(19C中か)職名部「大友興廃記云 政道仰出さるる条 〈略〉商之刑法如此 此旨国奉行存焉」
③ 江戸時代の藩職の一つ。藩の重職で、尾張藩初期の国奉行(二人)は後の勘定奉行寺社普請熱田奉行を兼ね、手代各三四人が直属した。〔吏事随筆(1764‐72頃)〕

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デジタル大辞泉 「国奉行」の意味・読み・例文・類語

くに‐ぶぎょう〔‐ブギヤウ〕【国奉行】

鎌倉幕府の職名。鎌倉にいて諸国を分掌、一般庶民の雑訴・犯罪を処理した。雑人ぞうにん奉行。雑務奉行。

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改訂新版 世界大百科事典 「国奉行」の意味・わかりやすい解説

国奉行 (くにぶぎょう)

(1)中世 鎌倉幕府草創期に源頼朝が勢力下に入れた諸国に置いたもので,国衙在庁を指揮し,国内公領の収税事務を管掌した。1184年(元暦1)に上野国奉行として安達盛長の名がみえ,国役の執行や寺社の管領に当たっている。この時期に上野の軍事統率権をもつ守護は比企能員であったが,のちには盛長の子の景盛が国奉行と守護を兼ねており,いつしか守護職を包摂したことがわかる。幕府体制確立後も上野や上総には,国内の雑訴を扱う雑人(ぞうにん)奉行が幕府内におかれていたことがみえ,これが国奉行とも呼ばれているが,前の国奉行とは区別すべきであろう。なお建武政権においても雑訴決断所に各国の訴訟の文書整理に当たる国奉行を置いたことがみえ,また室町幕府でも諸国に段銭を課した際にその徴納に当たる国分奉行を定めている。
執筆者:(2)近世 江戸時代初期に近畿地方などに置かれた幕府の職制。郡代(ぐんだい)ともいう。郡代は守護代の権限を郡ごとに分掌するもので,戦国期にも近畿や関東の後北条氏の分国などに存在した。国奉行はこの郡代の任務・権限を継承するものとして,小大名領,旗本領の私領と幕府御料(天領)が錯綜する近畿を中心とした11ヵ国(備中,但馬,大和,山城摂津河内,和泉,丹波,近江,伊勢,美濃)に置かれ,御料,私領に関係なく一国単位で広域的に行政を担当した。職務の内容は,国絵図御前帳(郷帳)を作成・管理したことに象徴されるように,(a)地方(じかた)の管理,(b)国役の徴収,(c)幕府法令の触流(伝達)の三つに大別される。(a)には,幕府代官や小大名の農政を監察する任務(この任務は諸藩に置かれた郡代と共通している),新たに知行を与えられた領主に地方を割り渡す任務が含まれている。(b)は,百姓から国役として人夫を徴発し,築城や河川工事などの普請に従事させ,また大工頭による職人からの国役徴発を援助する任務であった。

 以上を要するに国奉行は,生野銀山の但馬,鉄の産地の備中,舟運の要地伊勢(伊勢国奉行の後身山田奉行の任務の一つに鳥羽港の管掌があった)などに置かれたことからもわかるように,交通・分業を掌握し,普請や戦争に必要な要員や物資を動員するのが主たる任務であったといえよう。戦争がなくなり,また大規模な普請がなくなって国役が代銀納化され,幕府の日常的需要が賃雇や日用,商取引によって充足されるようになった17世紀後半になると,この制度は京都所司代,大坂城代を中心とした裁判を中核とする広域行政機構に解消し,国奉行の呼称も消滅した。関東にも初期には関東総奉行がおかれ,関東郡代伊奈氏とともに国奉行に類似した国役徴発に従事したと考えられるが,実態は明らかでない。
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百科事典マイペディア 「国奉行」の意味・わかりやすい解説

国奉行【くにぶぎょう】

(1)鎌倉幕府草創期,源頼朝が勢力下の諸国に置いたもので,国衙在庁を指揮し,行政事務を担当した。軍事統率権をもつ守護との関係は定かではない。当初は守護と国奉行人とが併存していたようであるが,国奉行はいつしか守護職に包摂されたとみられる。(2)江戸初期に置かれた幕府の職制。郡代ともいう。私領と幕府領が錯綜する近畿地方を中心とした11ヵ国に置かれ,一国単位で広域的に行政を担当した。守護代の権限を郡ごとに分掌する戦国期の郡代の任務を継承するものとして設置され,交通・分業を掌握し,普請や戦争に必要な要員や物資を動員するのが主たる任務であった。こうした任務が不要となった17世紀後半になると,この制度は京都所司代大坂城代を中心とした広域行政機構に解消し,国奉行の呼び名も消滅した。

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世界大百科事典(旧版)内の国奉行の言及

【江戸幕府】より

…大目付は使番(巡見使や国目付はこの役の者から任命された)とともに,将軍本営の命令を出先の部隊に伝え,かつその実施を監察するのがその本来の機能であり,それが平時の行政上の伝達系統に転用されたのである。 幕府直轄地の支配はそれぞれの奉行や代官が行ったが,近畿地方では所司代を中心とした国奉行が,また一部の大名領を除く関東では関東郡代が公家領や旗本領をも含めた広域的支配を行った。このほかに公家,僧侶,神官,寺社領の人民,職人,えた,非人などに対してそれぞれの身分に応じた別系統の支配が行われた。…

【美濃国】より

…関ヶ原の戦に勝利して美濃を掌握した徳川家康は,一方では中山道沿いの加納に女婿奥平氏を封ずるなど,西国の押えを強く意図した大名配置を行い,その主軸に尾張藩をすえた。他方では岐阜城を廃し,美濃の幕領支配と,当国の役人足徴収や木材採運河川の管理などを行う代官頭,のちの美濃国奉行大久保長安の役所を岐阜町においた。しかし19年(元和5)に岐阜町が尾張藩領に編入され,国奉行岡田氏の役所が可児郡に移されるに及んで,岐阜町は尾張藩領の一商工業都市に変貌した。…

※「国奉行」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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