固定化酵素(読み)こていかこうそ(英語表記)immobilized enzyme

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「固定化酵素」の意味・わかりやすい解説

固定化酵素
こていかこうそ
immobilized enzyme

水に不溶性の担体に適当な方法で固定化された酵素標品をいう。不溶化酵素などとも呼ばれていたが,必ずしも酵素が不溶性になっていない場合もあるので,固定化酵素と呼ぶことに統一されている。ほとんどの酵素は水に可溶であり,反応系より酵素のみを回収して繰返し使用することは困難であるが,種々の方法で固定化し,安定性を増大させることによって連続使用が可能となり,分析医療化学工業などの分野に応用できる。固定化法としては,次の諸法があり,これらの組合せも用いられる。 (1) 担体結合法 水に不溶性の担体に酵素を共有結合させる,イオン的に結合させる,物理的な吸着によって結合させる,などの方法がある。 (2) 架橋法 多官能試薬と酵素を反応させ,巨大蛋白分子を形成させることにより不溶化する。 (3) 包括法 ゲル中に酵素を包括する格子型と高分子化合物などの薄膜で酵素を包むマイクロカプセル型とがある。包括法の場合には,酵素は不溶化されていない。酵素以外にも補酵素などの生理活性物質,微生物菌体,細胞内オルガネラを同様な方法で固定化することができる。アミノアシラーゼによる DL-アミノ酸光学分割,グルコースイソメラーゼによる異性化糖液の製造,アスパルターゼによるL-アスパラギン酸の製造,ペニシリンアミダーゼによる6-アミノペニシラン酸の製造,フマラーゼによるL-リンゴ酸の製造などが,固定化酵素あるいは固定化微生物系を用いて工業的な規模で行われている。

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化学辞典 第2版 「固定化酵素」の解説

固定化酵素
コテイカコウソ
immobilized enzyme

酵素を担体に吸着,または共有結合で固定化したもの.微細孔を有するマイクロカプセル(低分子基質ならば自由に出入りできる)内に封入した酵素もこの範ちゅうに入る.固定化酵素は,バイオリアクターバイオセンサーとして,アミノ酸,有機酸アルコール,糖,抗生物質などの生産,分析,医療などに広く利用されている.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

栄養・生化学辞典 「固定化酵素」の解説

固定化酵素

 酵素を樹脂に固定したり,小さな空間に閉じ込めて固体のようにして,触媒能を保持した状態にしたもの.移動相に基質を加えて連続的に反応させることが可能となるため,実験室でも,また工業的にも用いられている.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の固定化酵素の言及

【機能性高分子】より

…(1)高分子染料・顔料,高分子医薬・農薬,高分子安定剤 それぞれ相当する機能をもつ低分子物質を高分子に結合させたり包みこむことにより,その安定性を高めたり効果を持続させたりする。(2)高分子触媒,固定化酵素 触媒や酵素,さらには微生物そのものを高分子に結合させることにより,これらを用いる反応の生成物の分離と触媒などの回収,再生を容易にする。高分子触媒(3)イオン交換樹脂 イオンを交換する機能をもつ基を不溶性の高分子に結合させておくことにより,交換されたイオンをその高分子に結合,分離することができる。…

【酵素工業】より

…そしてこれらの製造には加水分解酵素以外に,酸化還元,異性化,転移などの反応に関与する酵素が多用されている。このように多方面に酵素の利用が展開してきた要因の一つに,最近の固定化酵素の技術開発を挙げねばならない。これは,酵素をある種の担体に吸着または結合させたり,特殊なゲルやマイクロカプセルの中に封入して不溶化したものを,例えばカラムに充てんし,その中を基質溶液を通過させて,反応を行わせる方法で,従来のバッチ式による酵素の使用法にくらべて,酵素を繰り返し使用できるために経済性が飛躍的に向上した。…

【反応性高分子】より

…(化学式)反応試剤や触媒を高分子に固定し,そうした試剤や触媒(高分子触媒)を用いて反応を行わせると,生成物を不溶性の高分子試剤あるいは触媒から容易に分けることができるので,生成物の分離にもまた触媒などの回収にも好都合である。酵素を利用する反応においても,通常は水に溶ける酵素を高分子に固定して不溶化しておくと,生成物の分離などの反応操作が容易になる(固定化酵素)。この固定化の方法の一つは反応性高分子と酵素を反応させることである。…

※「固定化酵素」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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