嚢胞性線維症(読み)ノウホウセイセンイショウ

デジタル大辞泉 「嚢胞性線維症」の意味・読み・例文・類語

のうほうせい‐せんいしょう〔ナウハウセイセンヰシヤウ〕【×嚢胞性線維症】

全身外分泌腺機能が低下し、胎便性腸閉塞・慢性気道感染症・膵嚢胞線維症・肝硬変慢性副鼻腔炎などさまざまな症状があらわれる遺伝性疾患。主に新生児乳児期に発症する。日本人を含むアジア人ではまれ。CF(cystic fibrosis)。

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内科学 第10版 「嚢胞性線維症」の解説

嚢胞性線維症(嚢胞および拡張性気管支・肺疾患)

概念
 囊胞性線維症(cystic fibrosis:CF)は,全身の外分泌腺の塩素イオンチャネルの機能異常を有する常染色体劣性遺伝形式を有する予後不良の遺伝性疾患である.
病因
 1989年CFは,外分泌腺の上皮細胞の細胞膜に存在する1480個のアミノ酸からなる分子量170kDaの細胞膜貫通蛋白(cystic fibrosis transmembrane conductance regulator:CFTR)をコードするCFTR遺伝子変異により発症することが明らかになった.CFでは,サイクリックAMP依存性塩素イオンチャンネルの機能異常により気道上皮細胞では,塩素イオンの分泌障害と過剰の水分吸収により,線毛上皮輸送系の障害をもたらし,慢性気道感染と痰排泄困難を生じ,気管支拡張症を発症する.他臓器の外分泌腺においても分泌障害に由来する諸症状が出現する.CFTR遺伝子変異は,これまで1000以上が報告されているが,最も有名なものは,exon10の3塩基の欠失により起こった508番目のフェニルアラニンの欠失(Δ508)で全CFTR遺伝子変異の66%を占めている.CFTR遺伝子の変異の位置により多彩なCFTR機能異常が認められる.
疫学
 CFは,白人においては,2500~3000出生に1人の割合で発症し,キャリアは,26人に1人で存在すると推測され,欧米においては日常遭遇する疾患である.わが国においては,詳細な調査は行われていないが,およそ150万人に1人くらいという希少疾患となっている.
臨床症状
 新生児患者の10~20%が胎便イレウスを起こす.ほぼ全患者で乳児期から反復性の気道感染を起こし,小児期には緑膿菌感染を伴う気管支拡張症を発症し,その後呼吸不全にいたる.症状は,粘稠な痰による痰排泄困難,気管支拡張症に伴う血痰喀血,進行すると低酸素血症も出現する.肺外症状では,膵外分泌障害に伴う脂肪便,胆石膵炎による膵線維化や糖尿病など多彩である.汗腺においては,塩素イオンやナトリウムイオンの再吸収が阻害され,塩素イオンの高い汗となり,診断に応用されている.
診断
 特徴的な病歴や家族歴でCFを疑った場合,ピロカルピンを用いたsweat testが行われる.小児であれば,塩素イオンが60 mEq/Lであれば陽性,40 mEq/L以下なら陰性とされる.この値は,年齢とともに上昇するので注意が必要である.遺伝子診断は,確実であるがCFTR遺伝子変異は,1000以上も存在し迅速に診断することは困難である.
治療・予後
 去痰薬,抗菌薬による対処療法が主体となり,低酸素血症や換気不全が出現すれば,在宅酸素療法や人工呼吸管理が行われる.粘稠な痰排泄困難を改善するために,痰中のDNAを切断するヒト遺伝子組み換えDNaseが投与され,効果をあげている.根治的治療として肺移植も行われている.最近,抗菌効果だけでなく抗炎症効果も期待してアジスロマイシンの長期投与が行われ,また,CFTR遺伝子変異の中でG551D変異はCFTR分子の調節異常をもたらすためIvacaftorとよばれる低分子薬剤の治験も行われ有効性が示されている.また,遺伝子治療の臨床試験も何度か試みられてきている.他臓器症状については,それぞれ対処療法が行われている.予後は不良で,現在生存期間の中央値は35歳となっている.[瀬戸口靖弘]

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知恵蔵mini 「嚢胞性線維症」の解説

嚢胞性線維症

遺伝性疾患の一つ。日本人ではまれだが、白人には比較的よく見られる。遺伝子の変異によって全身の外分泌腺の機能が阻害され、粘度の高い分泌液が呼吸器や消化器など様々な器官の管に詰まり、腸閉塞や感染症、呼吸不全などの重篤な症状を引き起こす。主に新生児期、乳児期に発症し、成人に達するまでに多くの患者が死に至る。原因の解明や治療法の進歩により平均生存期間には改善が見られるが、現時点では完治は難しく、遺伝子治療などの新しい治療法に期待が寄せられている。

(2015-3-3)

出典 朝日新聞出版知恵蔵miniについて 情報

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