善知鳥(読み)うとう

精選版 日本国語大辞典 「善知鳥」の意味・読み・例文・類語

うとう【善知鳥】

[1] 〘名〙
ウミスズメ科海鳥。上面と胸部は黒褐色、腹部は白色。眼の後と口角から白い毛が二列に出ており、くちばしはだいだい色で、繁殖期には上くちばしのつけねに著しい角状の突起がでる。全長約三八センチメートル。北部太平洋産で、日本では東北、北海道沿岸の小島で集団をなして繁殖。草地に穴を掘りその奥に営巣する。暁方に巣を出て日中は沖で採餌し、夕暮に島に戻る。主食小魚類。秋冬は全く海上で生活し、巧みに泳いだり潜ったりする。うとうどり。〔日葡辞書(1603‐04)〕
※光悦本謡曲・善知鳥(1465頃)「いにしへは、さしも契りし妻や子も、今はうとふの音(ね)になきて、やすかたの鳥のやすからずや」
[2] 謡曲。四番目物。各流。喜多流では「烏頭」と書く。作者未詳。陸奥の外ケ浜の猟師の亡霊が、娑婆(しゃば)で善知鳥を殺した報いのため地獄で責め苦を受けているさまを描く。→うとうやすかた

ぜんち‐ちょう ‥テウ【善知鳥】

〘名〙 鳥「うとう(善知鳥)」の音読語。

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デジタル大辞泉 「善知鳥」の意味・読み・例文・類語

うとう【善鳥】

ウミスズメ科の海鳥。全長38センチくらい。背面とのど、胸は黒、腹は白。くちばしはだいだい色で、繁殖期には上部に突起が生じる。小魚を捕食北太平洋に分布し北日本の沿岸でも繁殖。
善知鳥安方うとうやすかた」の略。
「―が流す血の涙、今こそ思ひ知られたり」〈幸若・築島〉
[補説]曲名別項。→善知鳥

うとう【善知鳥】[謡曲]

謡曲。四番目物喜多流では「烏頭」。善知鳥を殺した猟師の亡霊が旅僧の前に現れ、地獄で犬やたかに責められる苦しみを訴える。

ぜんち‐ちょう〔‐テウ〕【善知鳥】

うとう

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「善知鳥」の意味・わかりやすい解説

善知鳥
うとう

能の曲目。四番目物。五流現行曲。喜多流は「烏頭」と表記する。生きるために犯す人間の罪の原点をえぐって、テーマ、詞章、演出ともに傑出する能だが、作者は不明。陸奥(みちのく)へ行脚(あんぎゃ)する僧(ワキ)が、地獄谷のある越中(えっちゅう)国(富山県)の立山(たてやま)で、もと猟師であった老人姿の亡者(前シテ)から故郷への伝言を託される。亡者の妻子(ツレと子方)に会った僧は、死者を弔う。後シテは猟師の亡霊で、子の鳴き声をまねて親鳥を殺し、親鳥の声で子鳥をとった報いに、亡者の目には妻子の姿が見えなくなる。殺生に日を送った悔恨。だがまた猟の興奮がよみがえる。杖(つえ)を振るって鳥を落とす写実的な演技はこの能独自のものである。鳥はそのまま地獄の化鳥となって襲いかかり、祈りの力も及ばず、亡者はまた暗黒の世界に消えていく。密漁の罪で殺された男を描く『阿漕(あこぎ)』の暗い海の鈍い強さの表現に対し、『善知鳥』は悽惨(せいさん)な鋭さに特徴がある。ウトウは北の海にすむ鳥の名で、北辺の砂浜の荒涼たるイメージも、この能の主題にふさわしい。なお棟方志功(むなかたしこう)にこの能に材をとった『善知鳥板画巻』の作品がある。

[増田正造]

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改訂新版 世界大百科事典 「善知鳥」の意味・わかりやすい解説

善知鳥 (うとう)

能の曲名。〈ウトオ〉と発音する。喜多流は〈烏頭〉と書く。四番目物。作者不明。シテは猟師の霊。旅の僧(ワキ)が越中の立山を訪れると,ふしぎな老人(前ジテ)に呼び掛けられた。自分は去年死んだ猟師だが,故郷の陸奥外の浜の妻子に弔いを頼んでほしいと言い,その証拠にと着ていた麻衣の片袖をちぎって渡す。僧が猟師の家に行くと,残してあった着物は片袖がなく,持参した袖がぴったり合う。弔いをすると猟師の幽霊(後ジテ)がやつれ果てた姿で現れる。幽霊はわが子に近づこうとするのだがそれができない。生前,子鳥を捕って親鳥と引き離した報いである。猟師は殺生の所業のあさましさを物語り(〈クセ〉),生前のように鳥を捕る様をして見せ(特殊な〈カケリ〉),地獄の苦しみを見せて救いを求め(〈ノリ地・中ノリ地〉),消え去る。カケリ以下が見どころだが,不気味な前場から始まって終始緊張した場面の続く佳作である。
善知鳥安方
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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「善知鳥」の解説

善知鳥
(通称)
うとう

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
元の外題
紅葉傘糸錦木 など
初演
安永7.11(江戸・森田座)

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動植物名よみかた辞典 普及版 「善知鳥」の解説

善知鳥 (ウトウ)

学名:Cerorhinca monocerata
動物。ウミスズメ科の海鳥

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デジタル大辞泉プラス 「善知鳥」の解説

善知鳥(うとう)

青森県、株式会社西田酒造店の製造する日本酒。限定品の大吟醸酒。

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世界大百科事典(旧版)内の善知鳥の言及

【外ヶ浜】より

…西行法師〈陸奥の奥ゆかしくぞ思ほゆる壺の碑(いしぶみ)そとの浜風〉(《山家集》)はその意である。外ヶ浜には善知鳥(うとう)という鳥が住むという。外ヶ浜に流謫されて没した烏頭中納言安方の化身で,親が〈うとう〉と呼ぶと,子が〈やすかた〉と答えるとされる。…

※「善知鳥」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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