善書(読み)ぜんしょ

精選版 日本国語大辞典 「善書」の意味・読み・例文・類語

ぜん‐しょ【善書】

〘名〙
① (━する) 文字をじょうずに書くこと。また、その人。能筆能書。⇔悪書
※授業編(1783)一「兼て善書を以て称せらる門人神辺由道」 〔漢書‐貢禹伝〕
② よい書物良書。また、珍しい書物。⇔悪書
浮世草子・好色破邪顕正(1687)中「悪書といふべき物もなく、善書といふべきもなし」 〔漢書‐河間献王伝〕
中国道教民衆教化のために作った、勧善懲悪を説く書物の一つ。宋・明時代に広く行なわれた。功過格(こうかかく)。〔真西山文集‐感応篇序〕

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デジタル大辞泉 「善書」の意味・読み・例文・類語

ぜん‐しょ【善書】

文字を巧みに書くこと。また、その人。能書。
よい書物。善本
中国、明・清代に民衆の間に流行した道徳書。儒教仏教・道教の説く倫理をとりまぜたもので、多くの功過格などがその代表

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「善書」の意味・わかりやすい解説

善書
ぜんしょ

中国の民間に行われた勧善の書。宋(そう)代以後、庶民社会で展開された信仰や宗教慣行、いわゆる民衆道教の宗教意識に基づいて庶民的道徳運動が進展した。そのなかで庶民(宋代の「凡民(はんみん)」、明(みん)末の「大衆(たいしゅう)」)の立場から善書が作成されると、庶民社会で大いに流通し、現代にまで及んでいる。善書の特徴は、(1)三教合一「儒仏道一貫」「三教帰儒」の庶民的文化・宗教意識が示されること、(2)貴賤(きせん)貧富の別を超えた「凡民」「大衆」としての個々の民衆が、行為の主体者として合理的な宗教道徳意識をもって神に対すること、などにある。

 善書の代表的なものは『太上感応篇(たいじょうかんおうへん)』(南宋初)、『陰隲文(いんしつぶん)』(明末)、『関帝覚世経(かんていかくせいきょう)』(清(しん)初)、および多数の「功過格(こうかかく)」(自己の行為を功と過に分類計算して、積善(功)の資とする善書)などである。さらに清代の『敬信録(けいしんろく)』『同善録(どうぜんろく)』などの善書叢書(そうしょ)・類書、民衆道徳を説く嘉言(かげん)集や訓戒書(明の『明心宝鑑(めいしんほうがん)』など)、民衆教化のための勅撰(ちょくせん)書の俗解書(清初の『六諭衍義(りくゆえんぎ)』など)、また宗教結社や民間に流通した「宝巻(ほうかん)」類も、庶民に勧善を説くものは善書のなかに入れてよい。功過格には、もっとも古い『太微仙君(たいびせんくん)功過格』(南宋初作、『道蔵』収)、明末の善書運動の中心人物袁黄(えんこう)(了凡)の『陰隲録』収の功過格、僧袾宏(しこう)の『自知(じち)録』および清(しん)代のものなどがある。

 善書のおもなものは、江戸初期から日本に伝えられ、和訳本も流通し、日本の近代化民衆文化に大いに影響した。

[酒井忠夫]

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改訂新版 世界大百科事典 「善書」の意味・わかりやすい解説

善書 (ぜんしょ)
shàn shū

旧中国で行われた勧善の書。身分,職業,資産を問わず,士大夫から一般民衆にいたる広範な層を対象とし,因果応報の理による勧善懲悪をねらい,平易通俗的で具体的な日常の倫理道徳の実践を勧めている。道教や仏教の特定の思想の上に立つものもあるが,多くは明代の思想界と同様に,三教合一の立場に立つ。製作・編纂者は,明・清の郷紳・士人であったと見られる。広範な一般民衆の規範意識と同時に,郷紳・士人層の発想もまた濃厚に反映されている。宋代にはじまり,明末から清初にもっとも盛行し,多様な善書が多く刊行された。その出版形態は,営利目的の一般書と異なり,印刷・配布じたいが善行とされ,自費印刷,無料配布であった。代表的なものに,《陰隲録(いんじつろく)》《袁了凡功過格》《文昌帝君陰騭文》《関世帝君覚世真経》などがある。明末・清初には,各種の善書を集大成することが行われ,《迪吉録(てききつろく)》《勧戒全書》《彙編功過格》《丹桂籍》《同善録》《元宰必読書》などが刊行された。唱導文学である宝巻のなかにも,善書と目されるものが少なからず含まれている。台湾では今でも廟などで善書を無料で配布している。
功過格
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「善書」の意味・わかりやすい解説

善書
ぜんしょ
shan-shu

中国,宋代以降,民衆を対象に書かれた道徳書の総称。勧善懲悪を説く書の意味。儒道仏の三教一致の民間信仰が盛んに行われたことと密接に関係し,民衆の信仰や道徳に多大の影響を与え,明末以降に最盛をみた。

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普及版 字通 「善書」の読み・字形・画数・意味

【善書】ぜんしよ

善本。

字通「善」の項目を見る

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