唾液腺腫瘍(読み)だえきせんしゅよう(英語表記)Tumor of the salivary gland

六訂版 家庭医学大全科 「唾液腺腫瘍」の解説

唾液腺腫瘍
だえきせんしゅよう
Tumor of the salivary gland
(のどの病気)

どんな病気か

 大唾液腺耳下腺(じかせん)顎下腺(がっかせん)舌下腺(ぜっかせん))や小唾液腺に生じる腫瘍のことです。その約9割は耳下腺に発症します。

 耳下腺に発症する腫瘍の約8割は良性腫瘍ですが、顎下腺に生じる腫瘍の約4割は悪性です。舌下腺や小唾液腺の腫瘍の発症率は、これらに比べてかなり下がります。

原因は何か

 原因は明らかではありません。

症状の現れ方

 良性の腫瘍では、自覚症状がほとんどないか(このような場合は腫脹(しゅちょう)を他の人に指摘される場合が多い)、あっても、手で触るとよく動く無痛性の腫瘤(しゅりゅう)(こぶ)を自覚するのみです。最も多い良性多形腺腫は大きくなるのが非常に遅いため、何年も前から硬い腫瘤を自覚しているということもあります。

 悪性腫瘍の場合は、通常、腫瘤を自覚してから大きくなるスピードが速く、痛みや顔面神経麻痺が現れたり、放置すると頸部(けいぶ)のリンパ節転移が現れたりします。腫瘍は周囲の組織に浸潤(しんじゅん)するため、手指で腫瘤を持ち、前後上下に動かそうとしてもよく動かないのが普通です。

検査と診断

 唾液腺のはれがある場合は、触診エコー(超音波)、CTMRI検査などで、腫瘍かどうかをまずみる必要があります。腫瘍と診断された場合は、治療をするために良性か悪性かを見分ける必要があります。

 そのためには、問診や触診が重要です。また、前記の画像診断に加え、核医学(RI)検査や、細い針を刺して細胞をとる検査(細胞診)などが行われることもあります。

治療の方法

 手術が必要です。耳下腺や顎下腺では顔面神経が問題になります。顔面神経(顔の筋肉を動かす神経)は、耳下腺のなかを通り、一部の枝は顎下腺に接しています。

 良性腫瘍では神経をよけて腫瘍を摘出することが基本ですが、悪性腫瘍では神経の合併切除の必要なことが少なくありません。神経を切除すると、顔面神経麻痺が生じます。

病気に気づいたらどうする

 良性腫瘍でも、手術をうまく行わないと顔面神経麻痺や腫瘍の再発が生じます。唾液腺を専門とする耳鼻咽喉科の医師のいる病院を受診するとよいでしょう。

谷垣内 由之

唾液腺腫瘍
だえきせんしゅよう
Tumor of the salivary gland
(口・あごの病気)

 唾液腺腫瘍はすべての唾液腺に発生しますが、耳下腺(じかせん)に最も多く(70~80%)、次いで小唾液腺(10~15%)、顎下腺(がくかせん)(5~10%)で、舌下腺(ぜっかせん)(1%)が最も少ないのです。悪性腫瘍(がん)と良性腫瘍の発生の割合は、耳下腺では悪性の発現は良性の約4分の1、顎下腺では2分の1、小唾液腺ではほぼ同数となります。

近藤 壽郎

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「唾液腺腫瘍」の意味・わかりやすい解説

唾液腺腫瘍
だえきせんしゅよう

唾液腺には種々の腫瘍が発生する。それらのうちでは上皮性腫瘍が多いが、非上皮性の腫瘍もある。もっとも多いのは良性の混合腫瘍(多形性腺腫)で唾液腺腫瘍の約80%を占める。

[河村正三]

混合腫瘍

耳下腺にもっとも多く(混合腫瘍の約85%)、顎下(がくか)腺がこれに次ぐが、その頻度はそれほど高くない(約5%)。30~60歳に好発し、女性が男性よりやや多い。発育はきわめて緩慢で20~30年に及ぶものもある。しかも相当大きくなっても症状は腫瘍を触知する以外にほとんどないのが、むしろ特徴でもあるが、なかには(約20%)悪性変化するものもある。治療は摘出以外にない。

[河村正三]

ガマ腫ranula

口腔(こうくう)で舌下部にみられる舌下唾液腺の貯留嚢胞(のうほう)で良性である。粘膜のすぐ下にあり、内部が透き通るようにやや青みがかってみえる。発育は緩慢で、症状もまったくないが、あまりにも大きくなると舌を自由に動かしにくくなり、言語障害がおこる。内容の液体は透明で、粘稠(ねんちゅう)度のやや高い唾液である。完全に摘出しないと再発しやすい。

 その他の良性腫瘍は少ないが、腺腫、脂肪腫、神経鞘(しょう)腫、リンパ管腫、血管腫などがある。

[河村正三]

悪性腫瘍

被膜を破って周囲に浸潤するので可動性がなく、疼痛(とうつう)を伴う。扁平(へんぺい)上皮癌(がん)は耳下腺に多く、顎下腺がこれに次ぐ。60歳代の男性に多く、唾液腺腫瘍のうちでもっとも悪性度が高い。腺癌は小唾液腺に多い。

[河村正三]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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