唱導(読み)ショウドウ

デジタル大辞泉 「唱導」の意味・読み・例文・類語

しょう‐どう〔シヤウダウ〕【唱導】

[名](スル)
ある思想・主張を唱えて人を導くこと。「平和運動唱導する」
経文を唱えて教えを説き、人を仏道に導き入れること。
唱導師」の略。
[類語]補導善導教導指導

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改訂新版 世界大百科事典 「唱導」の意味・わかりやすい解説

唱導 (しょうどう)

仏教の教理を説いて信仰に導くことで,唱道とも書き,演説ともいわれた。中国においても盛んであって,廬山(ろざん)の慧遠(えおん)はその達人であったという。日本古代の教化(きようげ)僧は唱導を事としたが,おなじく教理を説く説教ははじめ経典の内容を解説した。これに対して唱導は音韻抑揚で譬喩談を語った。《元亨釈書》巻二十九は〈本朝音韻を以て吾道(仏教)を鼓吹する者,四家あり。経師と曰(い)ひ,梵唄(ぼんばい)と曰ひ,唱導と曰ひ,念仏と曰ふ〉と述べ,経師はすなわち説経師である。唱導の名手とつたえられる慶意は〈先泣の誉〉があったというので,唱導の名手はみずからも泣き聴衆も泣かせたことをあらわしている。唱導が注目をあつめるのは,平安末期から鎌倉初期にかけて名手澄憲ちようけん)法印が活動したためで,その子孫は安居院(あぐい)流という唱導の一派をなした。これは澄憲とその長子聖覚(せいかく)がその父祖藤原通憲(みちのり)(信西)の血統をうけて学者であり,演説の天才だったことによる。その唱導は〈舌端玉を吐く〉などと評されており,法然や親鸞との交友から多くの文献にのこされている。彼らは追善や雨乞いなどの法会に招かれて唱導をつとめたが,そのなかに新興専修念仏や浄土門の新思想をとりあげて,民衆のかっさいを博したことが,親鸞の言行を書いた《口伝鈔》にも見える。この伝統は今も浄土真宗の説教(法話)にのこって,〈先泣の誉〉をもつ説教師が現存する。しかし唱導は説経のように伴奏楽器を鳴らしたり,踊ったりするような芸能化はしなかった。したがって説経浄瑠璃や説経節を生むこともなく,法話の説教としてのこったのである。しかしこの説教と説経節やチョンガレと結合した節談説教が江戸時代にでき,民衆の娯楽となったのも,唱導が本来音韻抑揚の節をもっていたことに基づく。いまのこる《安居院神道集》は安居院流唱導が神仏の本地談を語ったことをしめすが,本来の表白体や願文体の唱導は《普通唱導集》によってうかがい知ることができる。
執筆者:

中国の唱導は六朝時代から唐代にわたって布教法の一種として行われた。梁の慧皎(えこう)の《高僧伝》巻十三に,経師と並べて唱導を僧侶の布教方式の2種とし,廬山の慧遠をその初期の代表者とする。やがてこれは専門化して唱導師と呼ばれ,貴賤の別なく法会や斎会に招かれて,巧みな語りくちと美しい節回しで語りかつ唱った。そのとき経師も招かれて経典を講ずることもあったが,唱導師はとくに美声であることが要件で,しだいにその本領は節回しの美しい詠唱に向けられ,唐代では実質的には梵唄(ぼんばい)師と変わらぬものになっていった。もっとも,すでに《高僧伝》に,唱導に不可欠の4条件として,第1の声(音声)の次に弁(弁舌),才(才智),博(博識)を挙げており,この道の専門僧であるからには,それなりの基礎的素養が必要であった。例えば唐の道宣の《続高僧伝》巻三十によれば,隋の法韻は〈諸もろの碑誌及び古導文百有余巻〉を誦したといい,また巻二によれば彦琮旧来の唱導の体を改めて新しい〈唱導法〉を制作したが,今はそれがモデルとして用いられているとある。その実物は伝わらないが,時代と社会の変化に対応しての改変であったろうし,そこに用いられる歌讃にも新しい歌詞と当世風の旋律が取り入れられていたであろう。

 以上は,民衆教化の手段として六朝以来用いられてきた〈唱導〉に限定して述べたのであるが,唐代の中期以後(9世紀以降)になると,寺院や盛場で〈俗講〉が流行するようになった。寺院では俗講僧が,盛場では講釈師が口演したが,それらの語り物を総称して〈講唱文学〉と呼ぶのが,現在日中の学者の共通した呼称である。この俗講も語りだけでなく歌唱をも含むので〈講唱〉と呼ぶのであるが,それが従来の〈唱導〉の継承発展であるにしても,その過程の細部はまだ十分に明らかではない。
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百科事典マイペディア 「唱導」の意味・わかりやすい解説

唱導【しょうどう】

仏教教理を説いて人を信仰に導く行い。梁の慧皎(えこう)の《高僧伝》に〈けだし法理を宣唱して,衆心を開導す〉として,盧山の慧遠(えおん)の優れたことをいう。日本では澄憲安居院(あぐい)流や定円を祖とする三井寺流が有名で,《元亨釈書》巻29に〈方今天下の唱演を言ふは皆二家に効(なら)ふ〉とある。追善法要や雨乞いなどの場で,節をつけて比喩を多用した語りを演じた。
→関連項目説草太子伝法華百座聞書抄

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普及版 字通 「唱導」の読み・字形・画数・意味

【唱導】しようどう(しやうだう)

前導提唱する。宋・司馬光〔文中子補伝〕發端唱する、二家の罪に非ずして誰ぞや。此れ皆議論の人に合はざるなり。

字通「唱」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の唱導の言及

【折口信夫】より

…そのことから,〈貴種流離譚〉は,神々を守って漂泊した人々の,また賤しめられていた芸能者たちのいだいていた世界であったことが考えられる。信夫は日本文学の流れの基層をそのような担い手たちの唱導の歴史であると見た。たしかに,文献・資料をおぎなうためには,独特な用語と詩的直観とによって論証を支えなければならなかったわけだが,文献・資料そのものは眼光紙背に徹するような読みによって支えられている。…

【表白】より

…表白文の形は,初めに本尊に帰依する旨を唱え,次いで本尊,修法の功徳をたたえ,最後に導師・行者の所願を述べる。必ず読み告げるところから,啓白ともいい,また呪文を書き添え,これを唱えるところから,唱導とも称している。【富田 正弘】 表白は漢文読み下し体の詞章に簡単なフシを付け,切れ目切れ目で音を引いてユリを唱えるものだが,略してフシなしに唱えるばあいや,初頭部分以外を黙読に近く微誦するばあいもある。…

※「唱導」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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