唐音(読み)トウオン

デジタル大辞泉 「唐音」の意味・読み・例文・類語

とう‐おん〔タウ‐〕【唐音】

日本における漢字音の一。狭義には、江戸時代に、長崎を通じて伝えられた、中国から初期中国語発音によるもの。禅僧・長崎通事貿易商などによって伝えられた。広義には、江戸時代以前から広まった宋音をも含めた「唐宋音」をいう。とういん。→漢音呉音
一般に、中国語または中国語音のこと。

とう‐いん〔タウ‐〕【唐音】

とうおん(唐音)

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精選版 日本国語大辞典 「唐音」の意味・読み・例文・類語

とう‐おん タウ‥【唐音】

〘名〙
① 中国語音のことを一般にいう。
悉曇要訣(1101頃)三「伝法大師以唐音和国時、雖和音亦有唐音
※名語記(1275)四「れいは鈴也。〈略〉音にはりゃうといひ、唐音にはれいといへる也」
③ 日本の漢字音一種。狭義には、江戸時代、禅僧、貿易商人、長崎通事などによって伝えられた明から清初にかけての中国の南方系の字音によるもの。広義には「唐宋音」に同じ。漢音・呉音などに対していう。〔名語記(1275)〕
史記抄(1477)一〇「家(け)は呉音なり。漢音は家(か)と読むそ。唐音には家(きゃ)と呼そ」
④ 中国語を一般にいう。
※雑俳・松の雨(1750か)「いやらしいとは唐音でどふ云ふへ」

とう‐いん タウ‥【唐音・唐韻ヰン

〘名〙
① =とうおん(唐音)③〔運歩色葉(1548)〕
※随筆・多波礼草(1789)三「今人のならひおぼえたる唐音(タウイン)もとし久しくなりなば〈略〉漢音呉音にも違ひ、もろこしごゑにもあらぬ、また一様の字音となり」
咄本・私可多咄(1671)三「此かねのめいは、唐音(タウヰン)にかいた所てよめぬ」

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改訂新版 世界大百科事典 「唐音」の意味・わかりやすい解説

唐音 (とうおん)

日本漢字音の一種。宋音ともいう。呉音漢音が日本での漢字音として定着したあと,あらたに中国より伝わった漢字音で,古くは平安中期(北宋の時代)に商人によって伝えられた漢字音,鎌倉時代(南宋~元初)臨済・曹洞系の禅僧によって伝えられた主として江南浙江地方の漢字音,江戸時代初期(明末)黄檗宗の祖隠元などによって伝えられた南京官話系の漢字音,同じく江戸時代(清)長崎通事によって伝えられた杭州語と南京官話系その他の漢字音など,その背景はきわめて複雑であり,一概に論じることはできないが,おおまかな特徴は次のとおりである。(1)漢・呉音のタ行音の一部がサ行音に。茶(さ),知(し)。(2)同じくカ行音の一部が脱落。杏(あん),胡(う)。(3)主母音アの一部がオに。乱(ろん),多(と)。(4)オの一部がウに。庫(く),蒲(ふ)。(5)シの一部がスに。子(す),笥(す)。(6)韻尾の-ウ,-イの一部が-ンに。行(あん),清(しん)。(7)漢・呉音にみられた入声(韻尾の-フ,-ツ,-チ,-ク,-キ)が促音化してあいまいになったり,あるいはこれらに対応する他の声調との区別が消滅した。石灰(しつくい)の石(漢音セキ),知客(しか)の客(漢音カク)。
字音
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百科事典マイペディア 「唐音」の意味・わかりやすい解説

唐音【とうおん】

日本の字音の一つ。宋音とも。中国の唐末以降の音に基づくもの。日本には呉音漢音の定着のあと,10世紀以降に伝来したというが,ことに中世禅僧によって伝えられたものが多く,禅宗関係の語に例が多い。また江戸時代初期の黄檗宗の僧によって伝えられたもの,長崎通詞(つうじ)によるものなどがあり,かなり時代差,地域差がある。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「唐音」の意味・わかりやすい解説

唐音
とうおん

「とういん」ともいう。日本の漢字音の一種。呉音漢音に続いて,唐末ないし宋代以降に日本にもたらされたもので,「行」をアン (行脚,行火) ,「子」をス (椅子) と読むのがその例。鎌倉時代に禅僧が伝えた宋・元の中国音,江戸時代初期に黄檗 (おうばく) 宗の僧侶が伝えた明末の中国音,さらに長崎を通って入った清朝のものまでも含む広い概念である。いずれも中国の南方音から入ったものであるが,必ずしも同一方言からとはいえないため,複雑なものになっている。宋音ともいわれ,両者は古くから同義に用いられている。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「唐音」の意味・わかりやすい解説

唐音
とうおん

字音

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世界大百科事典(旧版)内の唐音の言及

【字音】より

…もちろん,訓は中国語の字音の借用ではない(〈馬(うま)〉〈梅(うめ)〉等微妙なケースもないではないが)ので,漢字音ではない。 一方,〈音〉には大別して〈呉音(ゴオン)〉(対馬音(ツシマオン)),〈漢音(カンオン)〉〈唐音(トウイン∥トウオン)〉(宋音)の三つがあり,それぞれ別の字音体系を成している。例えば,〈明〉は呉音ミヤウ,漢音メイ,唐音ミン,〈公〉はそれぞれク,コウ,クンである。…

【漢字】より

…また,鎌倉時代に,禅宗の伝来に伴って新しく伝来した道具や食物の呼称などに従来と異なる字音によるものが少なくない。これらを唐音または宋音と呼ぶ。唐音の名は,宋・元・明・清初までの中国字音の日本に渡来したものを総称する。…

【字音】より

…もちろん,訓は中国語の字音の借用ではない(〈馬(うま)〉〈梅(うめ)〉等微妙なケースもないではないが)ので,漢字音ではない。 一方,〈音〉には大別して〈呉音(ゴオン)〉(対馬音(ツシマオン)),〈漢音(カンオン)〉〈唐音(トウイン∥トウオン)〉(宋音)の三つがあり,それぞれ別の字音体系を成している。例えば,〈明〉は呉音ミヤウ,漢音メイ,唐音ミン,〈公〉はそれぞれク,コウ,クンである。…

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