唐衣(読み)からころも

精選版 日本国語大辞典 「唐衣」の意味・読み・例文・類語

から‐ころも【唐衣】

(「からごろも」とも)
[1] 〘名〙 中国風の衣服。袖が大きく、裾はくるぶしまでとどき、日本の衣服のように褄前を重ねないで、上前、下前を深く合わせて着る。転じて、めずらしく美しい衣服をいうこともある。
万葉(8C後)一四・三四八二「可良許呂毛(カラコロモ)(すそ)の打ちかへ会はねども異(け)しき心を吾(あ)が思(も)はなくに」
拾遺(1005‐07頃か)秋・一四九「たなはたにぬぎてかしつる唐衣いとど涙に袖やぬるらん紀貫之〉」
[2] (き)る、裁(た)つ、袖(そで)、裾(すそ)、紐(ひも)など、すべて衣服に関する語や、それらと同音または同音をもつ語にかかる。
※万葉(8C後)一〇・二一九四「雁が音の来鳴きしなへに韓衣(からころも)立田の山は黄葉(もみ)ち初めたり」
※源氏(1001‐14頃)末摘花「からころも君が心のつらければ袂はかくぞそぼちつつのみ」

から‐ぎぬ【唐衣】

〘名〙 (古くは「からきぬ」) 中古女子朝服上半身につける表衣(うわぎ)唐様(からよう)の丈(たけ)の短い胴着とするが、平安以来、闕腋(わきあけ)で狭い袖をつけ、襟を外に折り返して着るのを特色とする。唐の御衣(おんぞ)。〔十巻本和名抄(934頃)〕
※大鏡(12C前)五「萩のおり物のみへがさねの御唐衣に、あきののをぬひものにし、ゑにもかかれたるにやとぞ、めもとどろきてみたまへし」

から‐ころむ【唐衣】

〘名〙 「からころも(唐衣)」の上代東国方言。
※万葉(8C後)二〇・四四〇一「可良己呂武(カラコロム)(すそ)に取り付き泣く子らを置きてそ来ぬや母(おも)なしにして」

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デジタル大辞泉 「唐衣」の意味・読み・例文・類語

から‐ころも【唐衣/韓衣】

[名]唐風の衣服。袖が大きく、丈が長くて、上前・下前を深く合わせて着るもの。
「―君にうち着せ見まくほり」〈・二六八二〉
[枕]衣服に関する意から、「たつ」「きる」「なれ」「かけ」「かへす」「はる」「あふ」「ひも」「すそ」「つま」「そで」などにかかる。
「―竜田たつたの山は」〈・二一九四〉
「―日も夕暮になるときは」〈古今・恋一〉

から‐ぎぬ【唐衣】

平安時代十二単じゅうにひとえのいちばん上に着る丈の短い衣。前は袖丈の長さで後ろはそれよりも短く、袖幅は狭く、綾・にしき・二重織物で仕立て、とともにつけて一具とする。唐の御衣おんぞ

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改訂新版 世界大百科事典 「唐衣」の意味・わかりやすい解説

唐衣 (からぎぬ)

平安時代以来,公家の女子の正装であった晴装束。いわゆる十二単(じゆうにひとえ)の最上層に(も)とともに用いられた短衣で,袖幅も短くできている。これを〈からぎぬ〉と称するのは,奈良時代に行われた唐式の服装における背子(はいし)の意味であるとし,また胴(から)衣の意であるともいわれる。しかし平安時代の女房装束が,おおよそ奈良朝の唐式服装の変化したものである以上,これには用いられた背子がその根源をなすと考えるのが至当であろう。いわゆる十二単を,裳唐衣装束と称するように,唐衣をつけることによって女房装束が正装となったわけであり,また数多い着装物の最上層衣であったために,平安時代においては,これには裳とともに刺繡や箔,ときには螺鈿(らでん)の置口(おきくち)などで相当はなやかな装飾がほどこされたようである。色も種々のものがあったが,模様織物と赤および青は禁色(きんじき)で,とくに勅許のあるものでなければ着用は許されなかった。

 形は短い袷(あわせ)仕立ての羽織のようなもので,前身が通常後身より少し長い。これを表着の上に着て,後ろに裳の大腰をあてて,これを小腰という紐で前で結ぶが,前身は通常裳の紐の上にかぶさって,帯を締めたように唐衣を上から押さえることはしない。ただ大嘗会(だいじようえ)のときの五節舞(ごせちのまい)の装束だけは,動きによる着くずれを防ぐためか,裳の小腰で唐衣を押さえて結ぶ。唐衣がとくに他の衣服と違っているのはその襟で,これが今日の羽織の襟のように着装したときには外へ折れかえる。このように襟の折れかえる衣服は,元来日本の着物にはないもので,羽織や胴服(どうぶく)のように近世になって生まれたもの以外では,この唐衣の襟のみである。またこの襟には,ちょうど背の中央,うなじの下に当たるところに三角形に飛び出した部分がある。これを髪置(かみおき)と称するが,古い時代にはこのようなものはなかったようである。熊野速玉大社蔵の室町時代の神服の唐衣には,この髪置のあるものと,これがまったくなくて,羽織の襟と同じような形になっているものとがある。全体の形からいって後者のほうがより古風な感じがする。いずれにしても,唐衣は裳とともに女房装束における最上層衣として,儀式的と同時に装飾的にも重要な意味をもつ衣服であったということができる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「唐衣」の意味・わかりやすい解説

唐衣
からぎぬ

公家(くげ)女性の衣服の一種。俗に十二単(じゅうにひとえ)といわれる女房装束(にょうぼうしょうぞく)の最上層に重ねるもの。奈良時代の女子朝服の衣の上に春・冬に着用した背子(はいし)は、袖(そで)のない、身丈の短いものであったが、平安時代中期以降、服装の長大化に伴って、袖幅の狭い袖をつけ、襟を外側へ折り返して裏側をみせる「返し襟」形式となった。さらに衣が大きく、身丈も裾(すそ)を引く長さとなって、夜着の袿衣(けいい)と形が同様となり、衣(きぬ)とも袿(うちき)ともよばれるようになると、その上に重ねて着る背子も、それにしたがって大きくなり、身丈がやや長く、身幅が二幅(ふたの)、袖幅は狭いが袖丈が長く、広袖形式で、唐衣と称されて、四季を通じて用いられた。これは腰に着装する裳(も)とともに正装の象徴のように考えられた。平安時代末期から鎌倉時代にかけての唐衣の遺品は伝わらないが、当時の絵巻物などによってそのあらましを知ることができる。室町時代の遺品として、和歌山県・熊野速玉(はやたま)大社御神宝装束(国宝)のなかに唐衣があり、それらは襟の後部を円弧形にしたものと、角形につくったものと2種ある。その仕立て方のほか、織物、色目などの点についても、中世の唐衣の実体を知ることができて貴重である。なお、後ろ襟の角形の部分を近世では髪置(かみおき)とよんでいる。中世から現代に至るまで、唐衣は表地と裏地が毛抜き合わせに縫ってあり、近世以降の袿では襟、袖、裾などの縁のところで、表地が裏地より1センチメートルほど控えられて、いわゆる「おめり」となっているのに対して、古様を伝えている。

 材質は、表地に錦(にしき)、二重(ふたえ)織物、浮(うき)織物、固(かた)織物、綾(あや)、平絹(ひらぎぬ)などのほか刺しゅうを施したものも用い、裏地に菱文(ひしもん)の綾、平絹が使われた。表地の地文には、正装の最上層のものとして、品格高く、端正な印象を与えるもの、たとえば亀甲(きっこう)、三重襷(みえだすき)、花菱(はなびし)、小葵(こあおい)などを用いた。また、禁色の赤色、青色、錦や二重織物などの唐衣は、勅許を得た上﨟(じょうろう)(高位)の女房でなければ用いられなかった。『枕草子(まくらのそうし)』に「からぎぬは短き衣とこそいはめ、されどそれは、もろこしの人のきるものなれば」とあり、『紫式部日記』に「色ゆるされたる人々は、例の青色、赤色の唐衣に、地摺(ぢずり)の裳、上着はおしわたして蘇芳(すおう)の織物なり」とある。

[高田倭男]


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百科事典マイペディア 「唐衣」の意味・わかりやすい解説

唐衣【からぎぬ】

十二単(じゅうにひとえ)の最も外側に裳(も)とともに着用した袖(そで)幅の狭い短衣。奈良時代の唐式の服装である背子(はいし)が変化したものといわれる。女房装束の最上層衣として儀式的にも装飾的にも重要な意味をもち,刺繍(ししゅう)や摺箔(すりはく)などではなやかな装飾が施されたが,綾(あや)織物と赤および青色は禁色(きんじき)とされた。
→関連項目

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「唐衣」の解説

唐衣
からぎぬ

「からごろも」とも。女房の朝服の上半身の最上位に着用する衣。2幅で衽(おくみ)を設けず襟は方領(かくえり)に,前身を後身より長く仕立て幅の狭い袖をつけ,襟を返して裏をみせて着用した。禁色勅許の女房は赤色や青色の使用が許されたが,通常は上臈(じょうろう)が二倍(ふたえ)織物,中臈は綾,それ以下は平絹を使用した。日常は袿(うちき)の上に唐衣と裳(も)をつけ,晴儀には袿・打衣(うちぎ)・表着(うわぎ)の上に唐衣・裳を着用し,物の具姿と称した。古くは裳の上に唐衣をつけたが,のちに唐衣の上から裳を着用したため,時代により仕立てに相違があった。

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旺文社日本史事典 三訂版 「唐衣」の解説

唐衣
からぎぬ

奈良〜室町時代の宮中の女子の服装
女房装束の最上衣で,位階によって材質や色目に差があった。平安時代には女子の礼装として最も基本的なものとなった。

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