呼吸訓練(読み)こきゅうくんれん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「呼吸訓練」の意味・わかりやすい解説

呼吸訓練
こきゅうくんれん

慢性閉塞性肺疾患COPD)、喘息(ぜんそく)、喘息性気管支炎および気管支拡張症、術後の急性気管・気管支炎無気肺などで喀痰(かくたん)の喀出が困難であったり、呼吸不全のあるときに用いられる肺理学療法の一つ。呼吸訓練によって気道分泌物の除去を容易ならしめ、硬化した胸郭の可動性を増し、呼吸筋力の回復を図ることによって息切れを軽減させることを目的とする。

 呼吸訓練は、着衣を緩め、安楽椅子(いす)に静かに座り、全身の力を抜く筋の弛緩(しかん)から練習を始める。呼吸は、速く浅い呼吸パターンを、遅く深い呼吸に変えるように指導する。呼吸の際に口をすぼめ、ゆっくり呼息することによって、喘息の喘鳴を消すことができる。

 もっとも重要なのは、横隔膜を有効に使う腹式呼吸の訓練である。初めは仰臥(ぎょうが)位で右手を胸の中央に、左手腹部に置き、口を閉じて鼻で深く吸い、腹をできるだけ膨らませる。次に口をすぼめて口笛を吹くようにし、ゆっくり息を吐き出し、同時に左手で腹を内上方に押し上げる。この要領側臥位でも行い、さらに頭低位で腹部に砂嚢(さのう)をのせて練習する。その次には椅子に座って行い、続いて歩行しながらでもできるようにする。スレスホールドThresholdTM訓練器が呼吸気筋訓練のために用いられる。

[山口智道]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

家庭医学館 「呼吸訓練」の解説

こきゅうくんれん【呼吸訓練】

●呼吸練習
 呼吸練習とは、腹をふくらませながら横隔膜(おうかくまく)を使って息を十分に吸い、腹をへこませながらゆっくり息をはき出す腹式呼吸練習です(図「腹式呼吸の練習」)。息をはいたとき高い位置にある横隔膜を、息を吸うときに腹をふくらませることによって引き下げ、横隔膜が上下に動く範囲を増し、肺の伸縮度を高め、呼気(こき)をゆっくりとして十分に呼出(こしゅつ)することにより、呼吸に要するエネルギーを最低限にとどめる、効率のよい呼吸法です。
 したがってこの呼吸法は、健常者の日常の呼吸法としても基本的なものですが、とくに呼吸不全をもつ患者さんでは、呼吸そのものに要する酸素消費を減らし効率よく換気を行なうことができるので、呼吸のリハビリテーションのなかでも、もっとも重要な項目です。
●呼吸練習のしかた
 全身の筋(きん)の弛緩(しかん) 呼吸器疾患の患者さんは、息切れのために呼吸補助筋が使用され、筋の緊張がみられることが多いので、呼吸練習を始める前に、全身の筋の緊張をゆるめ、リラックスします。
 呼吸練習 腹式呼吸の具体的なやり方は、左手を胸の中央に、右手はへそにのせて、口を閉じて鼻で深く息を吸い、腹をできるだけふくらませます。そのとき、右手で胸があまり動かないように注意します。つぎに口をすぼめ、ゆっくりと息をはき出し、同時に右手で腹を内上方に押し上げます。息をはくときも胸が動かないようにします。息をはくときに急速にはくと、肺気腫(はいきしゅ)の患者さんでは、気管支がせまくなって苦しくなりますので、口笛を吹くように口をすぼめ、ゆっくりと息をはくことがたいせつです。通常、呼気は吸気(きゅうき)の2~3倍の時間をかけるようにし、呼吸数は1分間に6~10回程度が適当です。
 腹式呼吸の練習は、上向きに寝た姿勢、座位、立位、歩行時にもできるように練習を進めます。
●呼吸筋訓練
 呼吸筋、とくに横隔膜は、ほかの骨格筋(こっかくきん)と同様に、その強さと耐久力はトレーニングによって強化することができます。訓練にはいろいろの方法がありますが、いずれも吸気に抵抗をつけることが原理になっています。
 呼吸筋訓練に用いるスレショールド訓練器は、吸気孔の弁をスプリングで押しつけることによって吸気抵抗が発生する器具で、スプリングの強さを調節することができます。訓練は1回15分間で、1日2回行ないます。
 筋肉の鍛錬は、筋肉に最大限の負荷を一定時間かけることで行なわれます。したがって15分の訓練中は、15分間継続可能な最大の負荷が必要です。負荷量は、個々の患者さんに合うように医師が決定します。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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