周産期脳損傷

内科学 第10版 「周産期脳損傷」の解説

周産期脳損傷(先天性疾患)

定義・概念
 周産期脳障害は,胎児期後期から新生児期にかけて未熟な脳に生じる破壊性の病変を総称している.基本的な病態は,低酸素性虚血性脳障害と脳出血で,後遺症として精神遅滞脳性麻痺てんかんなどの障害をきたす.しばしばこうした障害を重複した重度心身障害の像を呈する.
病因・病態
 胎児期後期に脳障害をきたす原因としては,胎児仮死や,未熟児低出生体重児での呼吸循環障害があげられる.新生児期には,難産(児頭回旋異常,遷延分娩など)や異常分娩胎盤早期剥離など)による新生児仮死・分娩障害,易感染性による重症細菌感染症,高ビリルビン血症などが原因となる.多胎妊娠もリスクとして重要である.
 胎児心拍モニターの使用など分娩管理の進歩により,分娩中の脳障害の頻度は低下してきている.また,新生児のビリルビン検査の徹底で,高ビリルビン血症による核黄疸の頻度も激減している.その一方で,早産児・低出生体重児として出生した児にみられる周産期脳障害患者の相対的な増加がみられる.
 病態は低酸素性虚血性脳障害と脳出血であるが,未熟な脳の解剖学的な特性もあり,成人とは異なる病像を呈する.
1)脳室周囲白質軟化症:
胎生25~34週頃に生じた循環不全や炎症などは側脳室周囲の白質の虚血・壊死をきたし,病巣が脳室壁に沿って左右対称性に広がる.痙性両麻痺の原因となる(図15-13-16A).
2)脳室上衣下-脳室内出血:
胎生35週未満では側脳室壁の上衣下組織に胚細胞層が残っていて,静脈灌流が集まっている.静脈うっ滞,脳血流増加,低酸素症などによりきわめて出血しやすく,しばしば穿破して脳室内出血となる.脳実質内に出血が広がった場合には重度の後遺症をきたしやすい.
3)基底核壊死,傍矢状脳障害:
成熟児の高度の脳循環不全では,しばしば視床や基底核に壊死巣を生じ,アテトーゼ型(ジスキネジア型)の脳性麻痺の原因となる(図15-13-16B).隣接する内包部も巻き込まれることも多く,錐体路障害による痙性麻痺を伴った混合性麻痺の脳性麻痺となる.
4)脳梗塞:
中大脳動脈などの特定の動脈領域の梗塞巣は,胎生期から新生児期のいずれにも起こることがあり,病変部は囊胞化し片麻痺の原因となる.成熟児で,低酸素状態が遷延する部分仮死による脳循環障害では,主要動脈の支配領域の境界部に左右対称性の梗塞を起こすことがある.こうした傍矢状脳障害は,痙性四肢麻痺の原因となる(図15-13-16C).
臨床症状
1)脳性麻痺:
乳児期より運動発達障害がみられ,満2歳頃までに病像が明らかとなる.その後,症状は二次的な修飾は受けるが,基本的には非進行性で停止性である.痙性麻痺および錐体外路徴候がみられ,病変の分布により両麻痺,四肢麻痺,片麻痺,アテトーゼ,小脳失調などの病像を呈する.
2)精神遅滞(知的障害):
発達全般に遅れがみられ,知能検査にて知能年齢が生活年齢の70%以下となる.言語障害や認知障害などをきたす.
3)てんかん:
脳損傷の部位を焦点とする症候性てんかんが合併することがある.重度の場合には,乳児期にWest症候群(点頭てんかん)で発症する.
4)重度心身障害:
病変が広汎に及んだ場合には,症状が重複し,最重症の児は重度心身障害の状態で寝たきりとなる.こうした児では,壊死巣が脳幹被蓋部にもしばしばみられ,呼吸機能障害や球麻痺による嚥下障害を伴う.
治療
 薬物療法として,てんかんに対しては抗痙攣薬の内服を行う.痙性などの筋緊張亢進が支障となる場合には,筋弛緩薬やボツリヌス毒素の局所注射などが行われる.また,下肢の筋緊張亢進に対しては,脊髄後根神経部分切除術や内転筋群の筋切り術などの手術的な治療が行われている.脳性麻痺に対しては,全国的に小児のリハビリテーション施設が普及してきており,幼児期からのリハビリが可能となっている.重度心身障害者は,呼吸器系などの感染を反復しやすく,栄養面も含めた全身的な管理が必要である.[岡 明]
■文献
Volpe JJ: Neurology of Newborn, 5th ed, WB Saunders, Philadelphia, 2008.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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