周産期うつ病(読み)しゅうさんきうつびょう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「周産期うつ病」の意味・わかりやすい解説

周産期うつ病
しゅうさんきうつびょう

女性が出産前後に抑うつ的になる症状。こうした女性は少なくなく、半数以上が一過性マタニティ・ブルーとよばれる状態になる。それが重症化したものが産後うつとよばれる状態であり、出産した女性の10~15%は産褥(さんじょく)期うつ病にかかるが、その約半数が妊娠期からうつ病の状態にあったことが判明したことから、周産期うつ病とよばれるようになった。以前には、妊娠中は抑うつ的になることが少ないと考えられていたこともあったが、現在ではかならずしもそうではなく、逆に比較的多いとさえいわれるようになっている。

 出産後に抑うつ的になる要因としては、妊娠中に上昇していたプロゲステロンエストロゲンなどの女性ホルモン分泌量が出産と同時に低下してホルモンバランスが崩れることがあげられ、とくに出産後半年間はその傾向が強まる。このほか、子どもができたことによる家族関係や夫婦関係の変化、出産後の体型の急激な変化が影響していると考えられている。

 周産期うつ病の女性は、強い不安、パニック発作、落涙不眠赤ん坊に対する興味の喪失とそれに伴う自責感、自殺念慮などのために苦しむだけでなく、子育てがうまくできないことを悲観したり、赤ん坊が悪魔にとりつかれたという妄想や子どもを殺すようにという幻聴が聞こえてきたりして、赤ん坊に危害を加えたり母子心中に走ったりする可能性もあるので、早期に発見し治療を開始する必要がある。

 こうしたことから、最近では、出産した医療機関での入院期間中の観察に加えて、新生児訪問、子どもの乳児健診などを利用した産後うつ病発見の取組みや、子育て不安の軽減と育児指導を目的とした産後ケア事業などが各自治体で行われている。

大野 裕 2020年7月21日]

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