吟遊詩人(読み)ぎんゆうしじん(英語表記)troubadour フランス語

精選版 日本国語大辞典 「吟遊詩人」の意味・読み・例文・類語

ぎんゆう‐しじん ギンイウ‥【吟遊詩人】

〘名〙 古代ギリシアの叙情詩人が各地で詩を朗唱して歩いたのに源を発し、中世ヨーロッパで恋愛歌や民衆的な歌を歌いながら諸国を遍歴した詩人音楽家。フランスではトルバドゥールトルベールドイツではミンネゼンガーと呼ぶ。吟遊歌人。
※学生と教養(1936)〈鈴木利貞編〉教養としての文学〈谷川徹三〉「しかし今日残ってゐるイリアスやオデュセイアは、さうして吟遊詩人たちに歌はれてゐたものをまとめあげたものであります」

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デジタル大辞泉 「吟遊詩人」の意味・読み・例文・類語

ぎんゆう‐しじん〔ギンイウ‐〕【吟遊詩人】

中世ヨーロッパで、恋愛歌や民衆的な歌を歌いながら各地を遍歴した芸人
トルバドゥール
[補説]作品名別項。→吟遊詩人
[類語]詩人詩仙詩聖

ぎんゆうしじん【吟遊詩人】[曲名]

《原題、〈フィンランドBardiシベリウス交響詩。1913年作曲。作曲者自身の指揮によりヘルシンキ初演

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「吟遊詩人」の意味・わかりやすい解説

吟遊詩人
ぎんゆうしじん
troubadour フランス語

南フランスでは12世紀の初めごろから、封建大諸侯の宮廷に、貴女(きじょ)を中心とする狭いが華やかな社会が生まれ、貴女崇拝と宮廷風とよばれる新しい恋愛の理念が生じた。騎士である詩人は、そういう環境と理念のなかで、愛する心の貴女に永遠の思慕を寄せて、それをときには晦渋(かいじゅう)なまでに凝った詩型に歌い込んで、それに自分で作曲し、城から城に遍歴して歌って回る。この詩人・騎士がトルーバドゥール、すなわち吟遊詩人である。今日400余人の名が残されている。ただしその内容は一定していて、けっして報われることのない貴女への愛の嘆願と奉仕の誓いである。その願いがいれられても、額に口づけを一つ受ける程度であるが、詩人はその「コンソラメンテ」という口づけの栄誉をさらに保つために、なおいっそうの誠を捧(ささ)げる。キリスト教マリア崇拝を世俗の愛に置き換えたものであり、また封建主従の関係を恋愛関係に仕立てたものと考えてよい。セルカモン、ジョフレ・リュデル、ベルナール・ド・バンタドゥールらがとくに有名である。トルーバドゥールの叙情詩は全ヨーロッパに広まり、北フランスでは(「トルーベール」とよばれる)コノン・ド・ベチューヌ、シャトラン・ド・クーシー、シャンパーニュ伯チボー4世、獅子(しし)心王リチャードらがいる。ドイツではワルターフォン・デァ・フォーゲルワイデ、ウルリッヒ・フォン・リヒテンシュタインらがおり、「ミンネゼンガー」とよばれ、スペインイタリアにもその追従者を出している。ソルデルロ、アルノー・ダニエルダンテの『神曲』のなかで謳(うた)われ、そのダンテはペトラルカとともに、ある意味でトルーバドゥールの系譜のなかにあるといっても過言でない。

[佐藤輝夫]

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改訂新版 世界大百科事典 「吟遊詩人」の意味・わかりやすい解説

吟遊詩人 (ぎんゆうしじん)

日本では,中世ヨーロッパ各地にあらわれた抒情詩人を総括的に吟遊詩人と呼び,さらにヨーロッパ以外の地域の放浪する口承文芸の担い手についてもこの呼称を転用することがある。しかし,この用法は不正確で,〈吟遊詩人〉の訳があてられた中世フランスのトルバドゥールは,放浪の抒情詩人ではなく,創作を本領とする詩人兼作曲家であり宮廷芸術家である。作品を持ち歩き演奏した旅芸人は,ジョングルールと呼ばれた。ジョングルールは曲芸や奇術,動物使いなどあらゆる種類の見世物芸人の総称である。
ジョングルール →トルバドゥール
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百科事典マイペディア 「吟遊詩人」の意味・わかりやすい解説

吟遊詩人【ぎんゆうしじん】

広くは古代・中世期に民族伝承等を詠唱しつつ諸方を遍歴した詩人・楽師・芸人の総称。特に12―13世紀に武勲詩を吟遊し,恋愛詩を作った宮廷芸術家,南仏のトルバドゥール,北仏のトルベール,ドイツのミンネゼンガーをいう。
→関連項目ロマンセ

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「吟遊詩人」の意味・わかりやすい解説

吟遊詩人
ぎんゆうしじん

11~13世紀にヨーロッパの各地で活躍した詩人たち,南フランスのトルバドゥール,北フランスのトルベール,ドイツのミンネジンガーなどの総称。戦争,宗教,女性を霊感の三大源泉とする。トルバドゥールは複雑な韻律を用いて騎士道と宮廷風恋愛の伝統をたたえる抒情的な歌をよくし,トルベールはより男性的で叙事詩を好んで歌った。第一級の吟遊詩人,ベルトラン・ド・ボルンとベルナール・ド・バンタドゥールを宮廷に迎えたエレオノール・ダキテーヌの影響で,トルバドゥールの詩は,北フランスからドイツ,イギリスの宮廷に広がった。

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旺文社世界史事典 三訂版 「吟遊詩人」の解説

吟遊詩人
ぎんゆうしじん

中世において各地の宮廷をめぐり,恋愛詩をつくり歌った叙情詩人
11世紀以降南フランスでは,封建諸侯の宮殿に女性を中心とする華やかな生活が展開され,高貴な女性に対する恋愛感情を歌う形式が生まれた。この詩人たちはトゥルバドゥール(troubadour),北フランスではトゥルヴェール(trouvère),ドイツではミンネジンガー(Minnesinger)と呼ばれ,12世紀には最盛期をむかえた。始祖として,ポワティエ伯・ギョーム7世が有名。この吟遊詩人の叙情詩は,イギリス・イタリア・スペインなどの近代叙情詩を生んだ。

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デジタル大辞泉プラス 「吟遊詩人」の解説

吟遊詩人

フィンランドの作曲家ジャン・シベリウスの交響詩(1913)。原題《Bardi》。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「吟遊詩人」の解説

吟遊詩人(ぎんゆうしじん)

ミンネジンガー

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世界大百科事典(旧版)内の吟遊詩人の言及

【ギリシア文学】より

…VIおよびVIIについては〈ビザンティン文学〉とこの項末尾の記述を参照されたい。
【I叙事詩成立の時代】
 ミュケナイ時代の記録には文学の痕跡は発見されていないが,前8世紀以降台頭するホメロス,ヘシオドスらの叙事詩文学の最初の萌芽は,前12世紀以降の〈暗黒時代〉に諸地を歴遊した吟遊詩人(アオイドスaoidos)の語り物技芸に発する。今日伝わる両詩人の作品は初期イオニア方言をおもに用いた職業的詩人たちの間で口承の語り物として成立し,彼らの間で代表的レパートリーとして発展・熟成の過程をたどった。…

【グスラ】より

…詩には歌い手が即興的に付け加える部分があり,グスラルは歌手,奏者,作詞者の3役をこなし,互いに技を競いあった。また彼らは,各地を遍歴して,聴衆からの贈物で暮しを立てる吟遊詩人でもあった。1415年にポーランドのブワディスワフ2世王の前でセルビアのグスラルが弾き語りをしたのが,文献に残る最古の記録である。…

【ジョングルール】より

…旋律を伴った作品の場合は,楽器の演奏も彼らが担当する。トルバドゥールトルベールが宮廷芸術家,創作家であるのに対し,ジョングルールは演奏家であった(よく用いられる吟遊詩人というあいまいな呼称は,旅芸人である後者にむしろふさわしい)。ただし,両者の区別はあくまで原則的なものにとどまる。…

※「吟遊詩人」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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