名寄帳(読み)なよせちょう

精選版 日本国語大辞典 「名寄帳」の意味・読み・例文・類語

なよせ‐ちょう ‥チャウ【名寄帳】

〘名〙 地主・耕作者の姓名田畑反別分米などを、一人ずつ区別して抄録した帳簿。石寄帳(こくよせちょう)。なよせ。
教王護国寺文書‐応安六年(1373)・東寺領東西九条年貢名寄帳「女御田東西九条御年貢名寄帳」

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改訂新版 世界大百科事典 「名寄帳」の意味・わかりやすい解説

名寄帳 (なよせちょう)

日本近世の村方帳簿の一つ。検地帳に基づいて村ごとに作成された土地台帳。百姓の名まえ別に田,畑,屋敷石高(こくだか),面積を1筆ごとに記載し,それを合計して百姓別の石高,面積を記帳している。年貢の村請(むらうけ)制のもとで,村役人村請年貢を村内で割り付け,徴集する必要から,村内における年貢諸役の負担責任者を明確にするために作成した。検地帳が領主側で作成した帳簿であるのに対し,名寄帳は,検地で確定された村高に応じる村請年貢を納入するために,村内の実情に即して村側で作成した帳簿である。したがって一般に,名寄帳には領主側の役人や奉行などの署名,捺印などはない。

 名寄帳と検地帳はともに近世期の基本的な土地台帳であり,前者は後者に基づいて作成されたが,両帳には帳簿を作成した主体の差異,帳簿作成の目的の差異があり,記載内容にも相違がある。一般に,初期に作成された両帳では,名寄帳の登録人数が検地帳のそれより少ない。1598年(慶長3)の近江国蒲生郡今在家村の事例では,両帳の間で総面積,村高,屋敷数などがほぼ一致しているが,登録人数では名寄帳のそれが著しく少なく,検地帳の半数にすぎない。初期の検地帳には,村内の有力農民である長百姓(おさびやくしよう)/(おとなびやくしよう)などとともに弱小で零細な小百姓(こびやくしよう),平百姓(ひらびやくしよう)などが多数登録され,その中には有力農民の血縁小家族や名子(なご),被官,家持下人なども含まれていた。領主による検地に際して,弱小農民は有力農民と並ぶ年貢負担者とされ,検地帳上では高請地(たかうけち)の名請人(なうけにん)として登録されていたが,村内における生産・生活の実態の中では弱小農民は有力農民の庇護下にあった。年貢の村請制のもとでは,村自体が年貢諸役の完納義務を負わされ,それを果たすためには,村内における年貢諸役の割りふり,徴集の実際場面で,負担能力のある有力農民が年貢諸役の事実上の負担責任者にならざるをえなかった。このような実態を踏まえて,村内帳簿として作成された名寄帳には,村内における年貢諸役の負担責任者(初期本百姓)が登録された。弱小農民(隠居,名子,被官,家持下人など)の高請地は,名寄帳においては主家に当たる有力農民(初期本百姓)の名義のもとに一括され,主家の名義で登録された。検地帳と名寄帳の記載内容が一致しないのはそのためである。両帳間での差異は近世初頭の時期に大きく,一般に17世紀末ごろには消滅する。小農自立が進行して本百姓の一般的な成立をみるからである。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「名寄帳」の意味・わかりやすい解説

名寄帳
なよせちょう

江戸時代の土地台帳の一種。検地帳が一村の土地を一筆ごとに記してあるのに対し、名寄帳は田畑・屋敷の面積・石高(こくだか)を所持者ごとにまとめて記載してある。各所持者の農家別に面積・石高が集計してあるので、検地帳と異なり、そのまま農民層の所持高構成を知ることができる。年貢の割付けや村入用の賦課などのために、村役人が検地帳に基づいて作成する帳簿であり、原則として領主に提出することはなかった。また村役人は、土地の売買・質入れなどによって土地の所持者がかわる際に加除訂正を行い、つくりかえることも多かった。

[長谷川伸三]

『大石久敬著、大石慎三郎校訂『地方凡例録』上下(1969・近藤出版社)』

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百科事典マイペディア 「名寄帳」の意味・わかりやすい解説

名寄帳【なよせちょう】

(1)荘園における土地台帳。荘園領主が名主職(みょうしゅしき)所有者ごとの年貢公事(くじ)負担を土地ごとに書き上げた帳簿。(2)江戸時代の年貢徴収のための基本帳簿の一つ。検地帳をもとに作成,農民保有地の石高・面積等の明細を人別に編成し,さらに集計した。年貢を村内に小割する際の基礎となる。
→関連項目本百姓

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「名寄帳」の意味・わかりやすい解説

名寄帳
なよせちょう

中世,近世の土地関係帳簿で,地籍別でなく人名別に編成されたものをいう。鎌倉,室町時代には,荘園全体の土地台帳である検注帳 (→検注 ) とは別に,荘園領主が名主職 (みょうしゅしき) 所有農民ごとに,その年貢公事 (くじ) 負担の責任を明らかにするため,名寄帳を編成した。江戸時代には,村ごとに領主側で作成した土地台帳である検地帳のほかに,高請 (たかうけ) 本百姓ごとに,村役人が名寄帳を編成して,年貢収納,村入用賦課の実用に供した。

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旺文社日本史事典 三訂版 「名寄帳」の解説

名寄帳
なよせちょう

耕地所有者または耕作者別に記載された土地台帳で,年貢割当ての際の基礎帳簿
中世では,荘園領主が検注帳とは別に名主 (みようしゆ) ごとに田畑の広さや種類・年貢・公事 (くじ) を記載した帳簿をさす。江戸時代には耕作農民を登録した検地帳に対し,年貢納入者を示すため,検地帳をもとに耕地所有者の石高・反別を耕地ごとに集計し記載した。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「名寄帳」の解説

名寄帳
なよせちょう

近世の村の土地台帳。年貢納入者別に田畑持高・面積・分米などを書きあげ集計した帳簿。検地帳をもとに作成され,年貢や村入用を農民に小割する際の基礎台帳となった。

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世界大百科事典(旧版)内の名寄帳の言及

【検注帳】より

…かように目録は,正検注のときにはもちろんであるが,必要に応じて随時調査作成され,検注帳と併せて領主の土地支配,収税の基準として,大きな役割を果たしていたのである。 検注帳と密接な関連を持つものに名寄帳(なよせちよう)がある。検注帳は地域を基準として記載されていて,名請人単位の集計は行われていない。…

【名請人】より

…名請人は土地に対してなんらかの権利と義務を持った人物であり,実態としては中世の検注帳などに見られるが,〈名請〉の用語そのものは近世になって使われるようになったようである。 近世初期には,検地帳に登載された名請人であっても所持石高が少量であり,屋敷地が登録されておらず,しかも検地帳と並ぶもう一つの基本台帳である名寄帳には名前が出てこないような農民もいた。彼らは法的には名請人であっても,実態としては一軒前の百姓として自立した農業経営を行うことが困難な零細農民であった。…

※「名寄帳」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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