吉村昭(読み)ヨシムラアキラ

デジタル大辞泉 「吉村昭」の意味・読み・例文・類語

よしむら‐あきら【吉村昭】

[1927~2006]小説家東京の生まれ。津村節子の夫。はじめは短編小説を書くが、長編戦艦武蔵」で戦史小説に新境地を開き、その後歴史小説を多く手がける。「破獄」で芸術選奨。他に「星への旅」「冷い夏、熱い夏」「ふぉん・しいほるとの娘」「桜田門外の変」など。芸術院会員。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「吉村昭」の意味・わかりやすい解説

吉村昭
よしむらあきら
(1927―2006)

小説家。東京に生まれる。学習院大学国文科中退。10代の若年肉親の死と次々にあい、自身も肺疾患の手術とその闘病生活によって文学観に多大の影響を受けた。たとえば『鉄橋』(1956)や『少女架刑』(1960)などの初期作品、のちの『海も暮れる』(1980)や毎日芸術賞を受賞した『冷い夏、熱い夏』(1984)などの作品は、いずれも死を主調音にしている。1966年(昭和41)、『星への旅』で太宰治(だざいおさむ)賞を受賞したが、これも少年少女の集団自殺を描いたもの。一方、この年発表した長編『戦艦武蔵(むさし)』は、武蔵の誕生から終焉(しゅうえん)までを叙し、人間の所業のむなしさを描いて、記録文学に一境地を開拓する。この歴史を叙して日本の伝統につながることと、「私」像において「詩的残酷美」を極めることとの総合により、人間世界に対する優しさの視点を完成した。『高熱隧道(ずいどう)』(1967)、『零式戦闘機』(1968)、『海の史劇』『関東大震災』(ともに1972)、『北天の星』(1975)、『ふぉん・しいほるとの娘』(1975~1977)、『虹の翼』(1980)などを刊行、1983年、『破獄』で芸術選奨、読売文学賞を受賞した。以後、『桜田門外の変』(1990)、『彦九郎山河』(1995)、『生麦(なまむぎ)事件』(1998)、『夜明け雷鳴』(2000)、短編集『法師蝉(ほうしぜみ)』(1993)、『再婚』(1995)、回想記『東京の戦争』(2001)、風物誌『東京の下町』(1985)などを刊行した。夫人は作家の津村節子。2017年(平成29)、東京都荒川区の複合施設「ゆいの森あらかわ」内に「吉村昭記念文学館」が開設された。

[古木春哉]

『吉村昭著『少女架刑』(1971・三笠書房/中公文庫)』『吉村昭著『破獄』(1983・岩波書店/新潮文庫)』『吉村昭著『冷い夏、熱い夏』(1984・新潮社/新潮文庫)』『吉村昭著『東京の下町』(1985・文芸春秋/文春文庫)』『『吉村昭自選作品集』全15巻・別巻(1990~1992・新潮社)』『吉村昭著『法師蝉』(1993・新潮社/新潮文庫)』『吉村昭著『再婚』(1995・角川書店/角川文庫)』『吉村昭著『彦九郎山河』(1995・文芸春秋/文春文庫)』『吉村昭著『長英逃亡』(1997・毎日新聞社/新潮文庫)』『吉村昭著『生麦事件』(1998・新潮社/上下・新潮文庫)』『吉村昭著『東京の戦争』(2001・筑摩書房/ちくま文庫)』『吉村昭著『北天の星』(上下・講談社文庫)』『吉村昭著『ふぉん・しいほるとの娘』(上中下/講談社文庫/上下・新潮文庫)』『吉村昭著『星への旅』『戦艦武蔵』『水の葬列』『高熱隧道』(新潮文庫)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「吉村昭」の意味・わかりやすい解説

吉村昭
よしむらあきら

[生]1927.5.1. 東京
[没]2006.7.31. 東京,三鷹
小説家。開成中学から旧制学習院高等科・大学に進み,在学中から文学活動を始めた。 1953年大学を中退,同人誌『赤絵』仲間の津村節子と結婚。 1955年丹羽文雄主宰の『文学者』に参加。同誌に発表した『鉄橋』 (1958) ,『貝殻』 (1959) ,『透明標本』 (1961) ,『石の微笑』 (1962) が芥川賞候補作にあげられた。 1966年,十代の若者たちの集団自殺を鮮烈に描いた『星への旅』で太宰治賞を受賞,一方で大型軍艦の建造から沈没までの事実を冷静にみつめた記録文学もしくは戦記文学ともいうべき『戦艦武蔵』を発表して大きな話題となった。その後,クールなリリシズムを追求した『少女架刑』 (1963) ,『水の葬列』 (1967) などを執筆するとともに,綿密な調査・取材による『高熱隧道』 (1966) ,『零式戦闘機』 (1967) ,『陸奥爆沈』 (1970) ,『海の史劇』 (1972) ,心臓移植をテーマにした『神々の沈黙』 (1969) などを発表。 1973年には一連の記録文学で菊池寛賞,1979年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞,1984年『破獄』で読売文学賞と芸術選奨文部大臣賞,1985年『冷い夏,熱い夏』で毎日芸術賞をそれぞれ受賞した。 1997年芸術院会員。

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「吉村昭」の解説

吉村昭 よしむら-あきら

1927-2006 昭和後期-平成時代の小説家。
昭和2年5月1日生まれ。津村節子の夫。はじめは人間の生と死をみつめた短編がおおく,昭和41年「星への旅」で太宰治(だざい-おさむ)賞。同年の「戦艦武蔵」で一転して戦史小説に挑戦,「海の史劇」などを発表。48年菊池寛賞。また「ふぉん・しいほるとの娘」(54年吉川英治文学賞)以来,幕末・明治の歴史小説にのりだし,「桜田門外の変」「生麦事件」を執筆。60年「破獄」で芸術選奨,読売文学賞。徹底して史料をしらべ,史実をしてかたらしめる手法に定評があった。62年芸術院賞。芸術院会員。平成18年7月31日死去。79歳。東京出身。学習院大中退。作品はほかに「冷たい夏,熱い夏」「天狗争乱」など。

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百科事典マイペディア 「吉村昭」の意味・わかりやすい解説

吉村昭【よしむらあきら】

小説家。東京生れ。学習院大学中退。丹羽文雄主宰の《文学者》などに小説を発表,《鉄橋》《貝殻》などが芥川賞候補作品となり,注目される。ティーン・エイジャーの集団自殺を冷徹な筆致で描いた《星への旅》(1966年)で太宰治賞受賞。さらに記録文学に新機軸をもたらした《戦艦武蔵》を刊行。他に吉川英治文学賞受賞の《ふぉん・しいほるとの娘》,毎日芸術賞受賞の《冷たい夏,熱い夏》,長崎通詞を扱った《海の祭礼》《黒船》などがある。

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