司法前処理(読み)しほうぜんしょり(英語表記)pre-judicial disposition

改訂新版 世界大百科事典 「司法前処理」の意味・わかりやすい解説

司法前処理 (しほうぜんしょり)
pre-judicial disposition

犯罪非行が行われた場合,捜査の段階を経て,事件裁判所,すなわち司法機関に持ち込み,刑罰,保護処分など,法律の定める処置を行うのが,伝統的な解決方法である。しかし,すべての事件を裁判所の手続にのせることは不経済であるだけでなく,不適当でもある。なぜなら,司法過程に置かれたことによって,本人が不利益を受け,健全な社会生活への復帰を妨げられることも少なくないからである。そこで,裁判所の手続が始まる以前の段階で事件を処理しようという考え方が生まれた。これを司法前処理という。

 司法前処理ということば自体は比較的新しく,主としてアメリカ合衆国で,少年手続の改革などと関連して使われるようになったものである。しかし,この種の考え方は早くから存在する。日本では,明治の終りごろから,刑事手続において起訴猶予が広く認められるに至り,検察官判断で事件を終了させているが,これは,司法前処理の適例である(起訴)。今日では,交通反則金制度(交通違反)も,司法前処理の一種に数えることができる。裁判所の判断をしない点に,危険性もあるが,大量に発生する事件の簡易迅速な処理のためには,この方法はすぐれた経済性を発揮している。

 しかし,少年非行問題については,裁判所の慎重な手続にかからせるほうが,本人の利益が大きいという判断から,日本の現行少年法は,いわゆる全件送致主義原則とし,司法前処理を否定している。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android