(読み)いさぶ

精選版 日本国語大辞典 「叱」の意味・読み・例文・類語

いさ・ぶ【叱】

〘他バ四〙 しかる。とがめる。非難する。
※大智度論平安初期点(850頃か)一四「金剛力士、瞋りの目をもちて之を比(叱)(イサヒ)き」
随筆・折たく柴の記(1716頃)上「まして人を叱(イサ)ひ給ふにも、あらあらしきことのたまひし事は聞かず」
[語誌](1)平安時代の訓点資料に散見し、和文に見出し難い語。和文には「いさむ(諫)」が用いられ、これとの音韻交替で成立した語と推定される。
(2)院政期に「イサフ」と清音に発音されるようになり、ハ行転呼によって「イサウ」、室町時代末期からは合音化して「イソウ」と変化したものと考えられる。

いさか・う いさかふ【叱】

〘他ハ四〙 しかる。責める。
平中(965頃)二四「さる間に、この女の親、けしきや見けむ、くぜち、まもり、いさかひて」
十訓抄(1252)七「客人の前には犬をだにもいさかふまじとこそ文にも見えたれ」

しっ‐・する【叱】

[1] 〘自サ変〙 しっ・す 〘自サ変〙 舌打ちをする。
[2] 〘他サ変〙 しっ・す 〘他サ変〙 しかる。しかりつける。
正法眼蔵(1231‐53)心不可得「ちなみに国師すなはち三蔵を叱していはく」

しっ‐・す【叱】

〘自他サ変〙 ⇒しっする(叱)

いさ・う いさふ【叱】

〘他ハ四〙 ⇒いさぶ(叱)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「叱」の意味・わかりやすい解説

叱 (しかり)

江戸時代の刑罰一種。公的に叱責して罪をとがめるだけのごく軽い制裁。幕府は叱と急度叱(きつとしかり)の軽重2段階を設け,諸刑罰中の最も軽い刑として武士にも庶民にも適用した。庶民の場合,役所白洲奉行代官などから直接申し渡され,同道の差添人ともども落着(らくちやく)請証文に押印させた。明治維新後も改定律例(1873)が呵責かせき)の刑を規定していたが,旧刑法施行(1882)にともない廃止された。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「叱」の意味・わかりやすい解説


しかり

江戸時代,庶人に科せられた刑罰の一つ。奉行がこれを言い渡し,与力が差添人 (さしぞえにん) 連印の請書を取って放免するもの。刑罰としては最も軽い。これよりやや重いものに急度 (きっと) 叱がある。『公事方御定書』の規定では,田畑永代売の証人に前者が,江戸 10里四方ならびに御留場,および関八州で鉄砲を隠し持っていた村方に後者が,それぞれ科せられることになっている。なお,明治政府もこれを踏襲し,刑名としてではないが,1873年の改定律例において,先例を成文化し,「所犯きわめて軽く,罪懲役 10日に及ばざる者は,ただ呵責 (しかり) して放免す」と定めている。 81年 12月 31日廃止。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

山川 日本史小辞典 改訂新版 「叱」の解説


しかり

江戸幕府の刑罰の一つ。白洲によび出し,その罪を叱責するもの。急度叱(きっとしかり)と叱の2種があり,叱はその程度が軽く,幕府法上でも最も軽微な刑罰。「公事方御定書」には田畑永代売買の証人になった者,変死者を発見しても役所に届出ない者,盗賊を捕え盗品を取り返したうえ,盗賊を内証で逃してやった者など具体的に規定されている。また,このほか各種の犯罪に対してその罪状が軽い者にもいい渡された。当時の判決から多くの適用例がみられ,名誉刑的な意義も含め,刑罰体系に占める位置は大きかった。

出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報

今日のキーワード

青天の霹靂

《陸游「九月四日鶏未鳴起作」から。晴れ渡った空に突然起こる雷の意》急に起きる変動・大事件。また、突然うけた衝撃。[補説]「晴天の霹靂」と書くのは誤り。[類語]突発的・発作的・反射的・突然・ひょっこり・...

青天の霹靂の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android