精選版 日本国語大辞典 「口」の意味・読み・例文・類語
くち【口】
く【口】
ぐち【口】
こう【口】
くつ【口】
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
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動物の消化管の入口で,食物や水を取り入れるところ。
消化管が発達していない動物では,一般に口も発達していない。原生動物は単細胞性で,消化管も口ももたないが,細胞中に食物を取り込む場所が定まっていて特定の構造が見られるときには,細胞口cytostomeといわれる。海綿動物も消化管をもたない。食物は水とともに体表の無数の小穴から流れ込み,体を貫く小管をへて,中央の胃腔,そして排水口へと流れていく途中で,襟細胞によって捕らえられて取り込まれる。中生動物は寄生性で消化管はなく,栄養は体表から吸収される。他の動物群でも,条虫類など寄生性のものには,消化管を欠くものがある。有鬚(ゆうしゆ)動物は自由生活性で,海の底泥中に生息しているが,消化管がなく,栄養は体表から吸収すると考えられている。
消化管が形成されて口ができると,口の周辺や中に,食物を捕らえたり砕いたりするための構造が発達する。腔腸動物では消化管には肛門がなく,その主部である胃腔が出口を兼ねた口に続いている。イソギンチャク類などでは,胃腔の中へ口がおち込んだ形になって,管状の口道が形成され,口道の外側を口,奥側を口道内口という。腔腸動物の体は放射型で前後軸はなく,浮遊性のクラゲ型のものでは口側を下面に,着生性のポリプ型のものでは口側を上面にしている。扁形動物も肛門をもたないが,体は左右相称型で,前後軸は定まっている。口は必ずしも体の前端部になく,腹面の中央あるいは後方に開口するものもある。口に続く咽頭が発達しており,口周辺部が渦虫(かちゆう)類では伸縮性の吻を,吸虫類では寄生のための吸盤を形成しているものもある。
これ以外の動物群では,少数の例外(たとえばクモヒトデ類など)を除いて消化管には肛門もでき,口は原則として頭端付近に位置して,食物の入口となる。ひも形動物では口は比較的簡単で,特別の付属構造も咽頭も発達していない。輪虫類では口の周りに食物を捕らえるための繊毛や剛毛が発達し,口に続く咽頭にあごのように働くクチクラ質の突起を備えている。腹毛類,線虫類,毛顎動物では口の周辺にとげ状の剛毛,内肛動物,ナマコ類,翼鰓(よくさい)類では触手,コケムシ類,ホウキムシ類,腕足類では触手を列生した長いひだ(触手冠),コムシ類では溝状の吻が発達している。動吻類,線形虫類,コウトウチュウ類,エラヒキムシ類,ホシムシ類の口は,体の前端部を形成する吻の先端にある。ただし,線形虫類,コウトウチュウ類では消化管は退化的で口は摂食に用いられず,栄養は体表から吸収する。軟体動物の二枚貝類では口は簡単で,口の近くには唇弁があり,外套(がいとう)腔に吸い込んだ水中からえらでこし取った食物を繊毛で集めて口へ送るか,唇弁を殻の外へ伸長して食物を得る。多板類,腹足類では,口腔に形成される小歯を列生した歯舌が発達して,食物を削り取る働きをする。巻貝類には,口部が伸縮性の吻を形成しているものがあり,他の動物の体内などに挿入して摂食する。頭足類の口は足が変形,発達した筋肉性の腕で囲まれており,口腔内には角質の強力なくちばしが形成され,腕で捕らえた食物をかみ砕く。節足動物では口そのものは比較的単純な開口にすぎないが,口付近の付属肢は一般に複雑多様に変形して,食物を捕らえたりかみ砕いたり吸飲したりする働きをする。鋏角(きようかく)類では口部が突出して吻状となり,とげ針をもつものもある。ウニ類には,口と咽頭を取り囲んで骨片が組み合わされたアリストテレスの提灯と呼ばれる口器があり,食物をかじり取ったり砕いたりする。半索動物の腸鰓類や原索動物では,口は比較的単純な開口にすぎないが,口に続く咽頭に多数のえら穴が形成されて,食物をこし取るのにも役だっているのが特徴的である。
執筆者:原田 英司
脊椎動物では,顎骨つまり口の骨格をもたない無顎類(太古の甲皮類と現存の円口類)と顎口類(顎骨をもつその他すべての脊椎動物)とで,口の特色は著しく異なる。無顎類の口は骨のしんをもたず,上下に開閉することがない。円口類の口はほぼ円形で吸盤状を呈し,ヤツメウナギでは口の内面にとがった角質の小突起(角質歯)が多数あって,おろし金のようになっている。ヤツメウナギはこの口で他の大型の魚に吸いつき,筋肉の作用でその口を左右方向に開閉しながら相手の魚体に穴をうがち,寄生動物になる。古生代の甲皮類の口は円形のもの,横長のもの,縦長のものなど,種類によってさまざまであった。口の周囲に外骨格はあっても,それが上下に開閉するかみつき装置になっていた例は知られておらず,摂食はおそらく呼吸のための水とともに,小さい食物をただ吸いこむだけだったとみられている。このような太古の原始魚類がもっていた多数のえらの前方の1対の骨格が,進化とともに変形して口の骨格,つまり顎骨になったと考えられている。顎骨を獲得した脊椎動物は,下顎を上下に動かして開閉するようになったが,これはきわめて特異な構造である。あごの形成とともに,口の中に空所つまり口腔が現れ,その周辺に舌や真の歯などの摂食器官が発達した(真の歯は本来は顎骨だけでなく,口腔の上下のいろいろな骨に生えるもので,その起源については,甲皮類の体表を覆っていた一種のうろこが,口の中で大型化したものではないかと考えられている)。口の上下の開閉には,上顎と下顎の骨格を結ぶいくつもの筋肉,つまり顎筋(咀嚼(そしやく)筋)や下顎の下にある筋肉が関与している。顎筋の数は脊椎動物のグループによってさまざまであるが,哺乳類では少なく,4種類だけに整理されている。このような口によって,顎口類の動物は食物や外敵にかみつき,かみ切り,咀嚼することができるようになった。鳥類と大半のカメ類では,顎骨が角質のさやに覆われ,口はくちばしになっている。これらの動物では歯が退化消失し,それに代わってくちばしが食物取入れの働きをもつ。
哺乳類では逆に口の周囲は厚い軟組織に覆われ,歯列の外側の深い溝(口腔前庭)をへだてて唇(口唇)が発達している。また,骨格に付着しないいわゆる表情筋,すなわち,ほおを動かす頰筋(きようきん)や口をとりまく口輪筋がよく発達し,口を複雑微妙に動かす作用をもっている。顎骨を獲得したことを契機として,脊椎動物はきわめて多彩な進化をとげたが,それとともに口の構造も多様化した。カエル,ハチドリ,アリクイの舌のように食物を直接取り込む舌,イッカクやゾウの切歯のように摂食との関係を失った歯,鳥類のさまざまなくちばしなどがその例である。そして本来は水と食物を吸いこむ穴であった口は,高等脊椎動物では空気呼吸,発声,闘争,育児などさまざまな働きをあわせもつようになっている。そのなかで,ヒトの口は哺乳類としては著しい特殊化を生じていないが,いわゆる紅唇(唇の赤い部分)の発達は独特のものである。これによって,ヒト特有の言語に伴う微妙な発音が可能になっている。
執筆者:田隅 本生
上唇と下唇から成る入口の裂け目を口裂といい,両者が左右で合うところを口角という。口裂から中に入ると,上下の歯列の前には口腔前庭があり,歯列の奥には固有口腔があって,その上方は口蓋,下方は口腔底といい,舌がこれより突出している。口腔前庭,固有口腔は口腔と総称されるが,すべて粘膜で囲まれている。口腔粘膜は細菌,ウイルス,真菌などの感染や機械的,化学的な刺激,全身性疾患の合併症などによって潰瘍や炎症(口内炎)などが生じやすい。歯は上顎骨と下顎骨の歯槽にはまっていて,成人では普通32本,上下に列をなして並び,歯槽の外側は歯肉(歯齦(しぎん))が取りまいている。固有口蓋には唾液(だえき)腺が開いている。おもなものは顎下腺,舌下腺で,ともに下の歯列と舌の間のへこんだところに開口している。口腔の後方,最も奥のところは口狭といい,上方は軟口蓋,下方は舌根で,側面のへこみに口蓋扁桃(単に扁桃,俗に扁桃腺ともいう)があり,咽頭へとつながる。
口腔粘膜の病気にはアフタ,アフタ性口内炎,口腔白板症,口腔癌などがある。アフタは口の中の粘膜に生じる米粒大の潰瘍で,白色の薄い膜で中央部がおおわれ,周囲には発赤した部分がある。全身状態に変調をきたしたときに生じるといわれ,胃腸障害や風邪などのときにも生じることが多い。普通は数日で治癒する。アフタ性口内炎はウイルス性疾患で,おもに幼児にみられる全身症状を伴った多発性アフタである。口腔白板症は粘膜に生じる平滑あるいは粗造な白色斑で,ほお,下唇,舌,口蓋などの刺激を受けやすいところに発生する。粘膜上皮の角質の異常増殖で,自覚症状はないことが多い。口腔癌は口腔内に発生する癌で,全体の癌の3%前後の発生率で,男性に多い。日本人では上下顎の癌,舌癌が多く,口唇癌は比較的少ない。
一方,歯については,虫歯が大きくなったりして,歯髄が感染すると歯髄炎を起こす。また歯肉の炎症(歯肉炎)が歯槽内部に進むと歯根膜炎や歯槽骨炎へ発展する。別に歯槽に関する慢性疾患に歯槽膿漏がある。
唾液腺の途中の排出管が炎症などで閉鎖されると,唾液が停滞してふくらむことがある(がま腫)。また唾液の分泌が少なくなったりすると口腔乾燥症として粘膜が乾いてひびわれし,ものをかんだり飲み込んだりすることが困難になる。
→歯
執筆者:藍 稔
〈飲食と呼吸とに加えて発声する口は狭小だが,自己防衛に用いられる口は大きい(megalostoma)〉とアリストテレスはいう(《動物部分論》)。彼は肉食魚類を好例としながら,のこぎり状の歯のある口は広大に開いて攻撃的行動にかなっていると述べる。別にあごと唇の内部が口である(《動物誌》第1巻)という彼は,口は口腔を奥に含んで発声機能までもつ立体構造であるとしたから,形容詞にmegas,つまり面積や体積が大きいという語を配したのである。だが〈口角〉や〈口裂〉が開口端の一部分を指しているように,〈口〉の意味範囲はあいまいで,むしろ〈穴〉に近い。だから〈出入口〉のように開口端を意味することが多く,〈口もと〉〈口つき〉などは口裂の周辺をいう。元来〈口〉は開いた口裂の象形で,穴または開口端を指す。エジプト象形文字では,より写実的で(re)と書く。なお,をerと発音するときは,前置詞として英語のto,into,against,by,at,from,untilなどの意となるが,内と外を境する部位である穴としての口はこれらの意味を代表し,象形文字文の中で写実的な形によってその意味を伝えている。口やは象形文字だが,同じく穴をいうmouth(英語)やMund(ドイツ語)はラテン語mentum(おとがい)と関連し,インド・ヨーロッパ語幹men-(to stand out,to projectなど)に由来するとされる。口を見る眺め方の違いである。
大プリニウスによれば,インドの東端ガンジス川の水源近くに,口がなく全身毛で覆われたアストミ人が住み,飲食することなく木の根や花のにおいをかいでいた(《博物誌》第7巻)というが無論誤りである。《ヨハネの黙示録》に天使と戦って敗れ地に落ちたドラゴンの話があるが,このドラゴンが口を開いて地獄の入口となった。ウガリト神話の死の神モトの口は,上下の唇が天地に達してバアルを入れたし,ゲルマン神話のオオカミのフェンリルに立ち向かった神々の父オーディンは,天地に達するまで開くオオカミの口内に飲み込まれて死んだ。
固く結んだ口は男性的だが,円く開いた口は陰門を示唆して女性的である。口の大きさは自己主張の度合に相関するということは,女性の口が性器の大きさに比例するという迷信とともに各地で信じられている。口と口もとは人相学でさまざまに論じられている。一方,アイブル・アイベスフェルトらは,攻撃と親愛の二元的行動により動物の諸行動を分析する中で,口がおもに表情をつくる笑いについても触れている。彼らによれば,人間のほお笑みは口裂を横に開いて歯をむき出す威嚇の表情から攻撃性が失われたものである。また,通常の笑いは緊張を解いて口を開いているが,歯はやはりむき出しており,なにがしかの攻撃性を残しているとする。笑いがもつ攻撃性は多くの指摘するところであり,笑いを第3の集団に対抗して結束する行動の一つ(アイブル・アイベスフェルト《比較行動学》)とみる立場からの明快な解釈である。
→唇
執筆者:池澤 康郎
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動物が食物を取り込む場所で、消化管の入口にあたる。口の位置や形態は系統発生学の重要な指標とされ、発生初期の原腸陥入の開口部である原口がそのまま口になれば前口動物、原口は閉じて口がのちに生じれば後口動物といい、動物界を大きく二つに分けている。哺乳(ほにゅう)類は後者に属し、口は唇やあごを備え、口腔(こうこう)内には歯と舌がある。節足動物は前口動物に属し、口は、頭部・胸部の付属肢が摂食・そしゃくの役を果たすように変形したもので、これら全体を口器という。前口動物の扁形(へんけい)動物や、このどちらにも属さない下等な腔腸(こうちょう)動物などは肛門(こうもん)がなく、口が入口と出口を兼ねている。さらに下等な海綿動物には特定な口という器官がなく、体表に多数ある小孔から海水を取り入れ栄養を摂取する。原生動物に属するゾウリムシなどには体表の一部に特殊な構造をもつ細胞口が開口しているが、アメーバなどにはそれもなく、摂食時は体を変形させ、食物を包み込み体内に取り入れる。
[守 隆夫]
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出典 (株)朝日新聞出版発行「とっさの日本語便利帳」とっさの日本語便利帳について 情報
…外鼻の下面には1対の鼻孔がある。(3)口は顔面の下部にある一つの大きな窓で,口腔への入口をなしている。この入口すなわち口裂を囲んで上下に口唇(こうしん)(上唇と下唇)があり,左右にほお(頰)がある。…
…一方,世話物は上中下3巻で構成するのが基本であるが,上の巻は時代物の二段目,中の巻は三段目,下の巻は四段目に対応するものと考えられている。 段はふつう口(くち),中(なか),切(きり)で構成する。口は独立した場であることが多く,立端場(たてはば)と称する。…
…これは能の5段組織,あるいは序・破・急の原理によるものとされる。そして,時代物,世話物を問わずに各段・各巻が〈口(くち)〉〈中(なか)〉〈切(きり)〉の3部分に分けられる。切は3部分(場(ば))に分けられた最後の部分にあたり,切場(きりば)ともいう。…
…口角の後外側にあり,くちびるとともに口腔前庭の外側壁をなす軟部の領域。哺乳類だけがもつもので,その他の動物にはこれに相当するものはない。…
※「口」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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