口遊・口吟(読み)くちずさみ

精選版 日本国語大辞典 「口遊・口吟」の意味・読み・例文・類語

くち‐ずさみ【口遊・口吟】

[1] 〘名〙
詩歌などを思い浮かぶままに朗詠すること。また現代では、なんとなく声を出して歌ったりすることをもいう。口ずさび。
※大和(947‐957頃)二条家本附載「男、庭の前栽を見て、かかるくちずさみをぞしける」
② いつも繰り返して口にされる歌やことば。口ぐせ。口ずさび。
※今鏡(1170)六「なかにも恋のうたは、いたく人のくちずさみにもし侍る」
③ 多くの人が繰り返し口にすること、また、その話の種。うわさをすること。うわさ話。口ずさび。
太平記(14C後)七「『あはれ恥の上の損かな』と、諸人口遊(クチズサミ)は猶やまず」
[2] (口遊) 平安中期の貴族子弟のための初歩的教科書。一巻。源為憲著。天祿元年(九七〇)成立。藤原為光の子松雄君(誠信)のため、貴族としての初歩的知識を、乾象時節官職人倫禽獣など一九部門に分けて暗誦に便利なようにまとめたもの。くゆう。

くち‐ずさび【口遊・口吟】

〘名〙 (「くちすさび」とも)
※前田本枕(10C終)一九八「なにとなき経のはしばしうち誦み〈略〉少しづつくちすさひなどし」
源氏(1001‐14頃)夕顔「人の思ひ言はん事、よからぬ童(わらはべ)のくちすさびになるべきなめり」

くち‐ずさ・む【口遊・口吟】

〘他マ五(四)〙
① 詩歌などを思いつくままに吟ずる。また、なんとなくものを言う。口ずさぶ。
※枕(10C終)三六「道の程も心もとなく『麻生(をふ)下草』など、くちずさみつつ」
② 思いつくまま話の種にする。うわさをする。口ずさぶ。
看聞御記‐応永二八年(1421)一〇月一一日「大納言以上人路頭庭中申、放埒之由口遊云々」
談義本当世下手談義(1752)五「不義淫乱の噂を口号(ズサ)めば」

くち‐ずさ・ぶ【口遊・口吟】

〘他バ四〙 (「くちすさぶ」とも)
※枕(10C終)八三「『西の方、都門を去れる事いくばくの地ぞ』とくちずさびつる事など」
③ (自動詞的に用いて) 鳴く。さえずる。
※清輔集(1177頃)「かた岡に谷の鶯門出してはねならはしにくちずさぶなり」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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