口蹄疫(読み)こうていえき(英語表記)foot-and-mouth disease

精選版 日本国語大辞典 「口蹄疫」の意味・読み・例文・類語

こうてい‐えき【口蹄疫】

〘名〙 (口粘膜や蹄の間の皮膚などに水疱を生じる症状から) 家畜法定伝染病の一つ。牛、メンヨウ、ヤギ、ブタなどの偶蹄類を冒す口蹄疫ウイルス病原体

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デジタル大辞泉 「口蹄疫」の意味・読み・例文・類語

こうてい‐えき【口×蹄疫】

ウイルス性伝染病の一つ。豚・牛・水牛・羊・山羊・鹿・猪・ラクダトナカイなど偶蹄類の動物およびハリネズミ・ゾウなどが感染し、口腔の粘膜やひづめの間の皮膚などに水疱を生じる。国際獣疫事務局OIE)のリスト疾病に指定され、国際的に厳しく監視される。日本では、家畜伝染病予防法の監視伝染病(家畜伝染病)に指定されている。
[補説]成獣での致死率は低いが、感染率・発病率は高く、家畜の場合、運動障害・栄養失調により生産性が低下する。感染が拡大すると甚大な経済的損失を招くおそれがあるため、患畜は速やかに殺処分される。また、発生場所から一定範囲内の家畜の搬出は厳しく制限され、疑似患畜を含めて全頭殺処分し、埋却される。ウイルスが付着した飼料・人・車両も感染経路となるため、消毒や交通制限が行われる。

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改訂新版 世界大百科事典 「口蹄疫」の意味・わかりやすい解説

口蹄疫 (こうていえき)
foot-and-mouth disease

ウシ,ブタ,ヒツジ,ヤギなどのほか,シカ,ラクダなど多種類の偶蹄類をおかすウイルス性伝染病。まれにはヒトにも感染するが発病することはない。ヒトから動物へ病原を伝達することはある。

 原因ウイルスはピコルナウイルスのライノウイルス属に属する。伝染性が強く,抗原的に七つの免疫タイプが区分されており,一度侵入すると防除は困難である。この病気は全世界に分布し,現在清浄とみなされている大陸は北アメリカとオセアニアのみである。日本においては1900-02年の発生を除いては本病と思われる発生はない。輸入牛の発生例も幾度か記録されているが,いずれも動物検疫所内に限られており,国内へのまんえんは阻止されている。伝播(でんぱ)様式は接触および空気伝播で,ウイルスは病変部に大量に存在し,水疱(すいほう)の破裂に伴って床などを汚染する。また唾液(だえき)や呼気にまじって飛沫となって広がる。潜伏期中のウシの乳汁,精液中にもウイルスは存在する。本病におかされると,口と蹄部の粘膜と皮膚に水疱が形成される。伝染性が強く,きわめて急速に広がり,感染率,発病率が高い。死亡率は高くないが,発育障害,乳房炎,流産,不妊などによる生産性の低下が著しい。ウシでは潜伏期が自然感染では5~8日で,突然体温が40℃前後に上昇し,2~3日持続した後平熱に復する。発熱するとよだれが多量に流れ,口の周縁がよだれの泡沫で覆われる。この時期には舌の上面や側面,唇の内面,歯根部などの粘膜が充血して,ところどころに斑点や水疱がみられる。この水疱はしだいに大きくなり,隣接のものは互いに癒合してさらに大きな水疱となる。水疱は1~2日で破れて水疱液が流出して,血がにじんで赤紅色の爛斑(らんぱん)となる。発病牛は歩行を好まず,足の蹄部は温度が高く,皮膚には水疱病変が認められる。このほか鼻腔,乳頭,腟(ちつ)などにも出現する。通常発病後1~3週間で治癒する。本病の病原体の侵入を防止するため,口蹄疫発生地域からの感受性動物やそれらの動物に由来する生産物の輸入を禁止もしくは制限する。また輸入する動物や畜産物は厳重な検疫を行う。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「口蹄疫」の意味・わかりやすい解説

口蹄疫
こうていえき

哺乳(ほにゅう)綱偶蹄(ぐうてい)目に属する動物にのみ伝染するウイルス性の伝染病。一度発生すると伝染力が強く、家畜法定伝染病に指定されている。ウシ、スイギュウ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ラクダ、トナカイなどの、口や蹄部(ひづめ)の皮膚、粘膜に水疱(すいほう)を形成し、急速に広がる。感染率や発病率は高い。致死率は一般には低いが、幼畜では高い場合が多い。

 伝播(でんぱ)は接触および空気により、ウイルスは病変部に濃厚に存在し、形成された水疱が破れると床や畜舎を汚染し、唾液(だえき)や呼気から飛散し、牛乳中や精液などにもウイルスが混在している。アジア、アフリカ、南アメリカにはいずれも常在しており、ウイルスが存在している国からのウイルス侵入の阻止が重要である。2000年(平成12)、92年ぶりに日本での発生がみられた。ただし、鼻腔内の病変のみで、蹄(ひづめ)の局所に異常はなく、抗体によって感染が確認された。口蹄疫と診断された場合には、特定家畜伝染病防疫指針に基づき、初発農場から半径5~30キロメートルの範囲内で生体の搬出を制限、交通遮断、疑似患畜(発生のおそれのある家畜)を含め全頭殺処分、埋却および消毒処置を行い、蔓延(まんえん)を防止する。日本は国際獣疫事務局(OIE)により、ワクチン接種をしない「口蹄疫清浄国」として認定されている。口蹄疫の常在国での予防には、数種の型を混合した多価ワクチンの接種が必要で、年2回の注射が行われる。

[本好茂一]

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百科事典マイペディア 「口蹄疫」の意味・わかりやすい解説

口蹄疫【こうていえき】

ウシをはじめヒツジ,ヤギ,ブタなど偶蹄類動物を冒す家畜法定伝染病。動物のウイルス病としては最初に発見(1898年)されたもの。口腔粘膜,蹄冠部などに水疱(すいほう)を生じる熱性疾患。乳牛では乳量が激減する。伝染力はきわめて強いが致死率は低い。防除は困難で,患畜は迅速に焼却処分される。本病の病原体の侵入を防止するため,口蹄疫発生地域からの感受性動物やそれらの動物に由来する生産物の輸入を禁止もしくは制限する。1997年3月,台湾のブタに口蹄疫が発生した。日本は台湾からの豚肉輸入量が国内消費量の20%近くを占めており,農水省が輸入を禁止して以来,豚肉の取引価格が一時急騰した。なお稀にヒトにも感染することがあるとされる。
→関連項目ウイルス病

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「口蹄疫」の意味・わかりやすい解説

口蹄疫
こうていえき
foot-and-mouth disease

ヒツジ,ウシ,ブタなどの家畜のウイルス性疾患であるが,まれにヒトに感染することもある。家畜に感染すると1週間程度の潜伏期ののちに発熱し,唇,口内や蹄間などの皮膚や消化管粘膜の上皮組織に第一次性の水疱ができる。病気にかかった動物は舌や口が痛いので,特殊な舌打ちのような動作を繰返し,これが次第に激しくなると,第二次性の水疱が現れる。この水疱が破裂して生々しい潰瘍面を現す。その間ウイルスは唾液,乳汁,尿,糞に排出される。感染した家畜は餌を食べなくなるが,致死率は高くない。病原ウイルスは1μm程度で,最も小型の部類に属する。日本国内への輸入はきびしくチェックされている。

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知恵蔵 「口蹄疫」の解説

口蹄疫

牛、豚などの家畜に発生する急性伝染病で、病原体は口蹄疫ウイルス(Picornaviridae Aphthovirus)。症状は発熱、よだれ、口や蹄(ひづめ)の水疱(すいほう)、歩行障害、不妊、流産など。対策としては隔離・処分しかない。人間が食べても影響はない、とされている。日本では2000年に、92年ぶりの発生が2カ所で確認された。感染源は中国産の輸入藁(わら)と見られている。02年5月には韓国で口蹄疫が発生、牛肉・豚肉、肉加工品等の輸入禁止措置が取られた。英国でも07年に、01年に引き続いて発生が確認された。

(池上甲一 近畿大学農学部教授 / 2008年)

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栄養・生化学辞典 「口蹄疫」の解説

口蹄疫

 口蹄病ともいう.ウイルス性の伝染病で,ウシ,ブタなどがよく感染する.人畜共通.

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