口説(読み)くどき

精選版 日本国語大辞典 「口説」の意味・読み・例文・類語

くどき【口説】

〘名〙 (動詞「くどく(口説)」の連用形の名詞化)
① くどくこと。ながながと説明したり嘆願したりすること。くどくことば。
捷解新語(1676)四「こなたのくときおきけば、いかやうにもしたいけれども」
② 日本音楽で、楽曲の構成単位となる部分の名。
(イ) 平曲で、説明的な部分をいう。地の部分で、最も普通に用いられる曲節。旋律的でなく、また、音を装飾したり伸ばしたりすることもなく、語るような口調。中音域で、テンポも中庸。歌詞の内容は雑多であるが、多くの曲はこれで始まる。
(ロ) 謡曲で、拍子に合わない語りの部分。散文的である点は平曲と同じであるが、内容は悲嘆述懐などで落ち着いた調子。音域も低い。
※曲附次第(1423頃)四「此の前韻後韻の音聞、ことに、地の物 くどきなどに多かるべし」
(ハ) 浄瑠璃歌舞伎音楽で、悲嘆、恋慕、恨み、懺悔(ざんげ)などを内容とする部分。特に恋する相手に心中の思いを訴えるものが多い。いわゆる「さわり」と呼ばれる曲中の聞きどころで、詠嘆的、抒情的。テンポが遅く旋律が美しい。
※歌舞伎・小袖曾我薊色縫十六夜清心)(1859)四立「ト此内、十六夜くどき宜しくあって」
滑稽本浮世風呂(1809‐13)三「『何といふ節だよ』『甚九のクドキといふものさ』」

くど・く【口説】

(「くどい」「くどくど」などと同源か。また、「口説(くちと)く」の意か)
[1] 〘自カ五(四)〙
① くどくどと繰り返していう。嘆きのことばを繰り返す。しつこくいう。愚痴(ぐち)をいう。
※金刀比羅本保元(1220頃か)下「時移るまでつくづくと候ひて、又泣く泣く口説申しけるは」
※御伽草子・花鳥風月(古典文庫所収)(室町末)「かれうびんがの、こゑをあげて、なきつくときつ、かたりければ」
② 祈り訴える。祈願する。
讚岐典侍(1108頃)上「経よみ仏くどき参らせらるるほどに」
③ 謡曲で、悲歎、恋慕、述懐などの情を低く吟詠する。
※申楽談儀(1430)よろづの物まねは心根「常盛の能に、此女思ひいれてすべきを、皆浅くする也。人のうたふまでうつぶき入て、其うちよりくどき出すべし」
[2] 〘他カ五(四)〙
① 男女の間で、相手を自分の意に従わせようとして、しきりに説得懇願をする。求愛する。
※京大二十冊本毛詩抄(1535頃)三「我は男ぞ何とくどいたやらなびゐたよ」
② 話して、納得させる。説得する。
※太平記(14C後)二八「項羽が老臣、項羽に口説(クドイ)て云けるは」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

百科事典マイペディア 「口説」の意味・わかりやすい解説

口説【くどき】

日本音楽用語。(1)曲の構成部。浄瑠璃などの三味線音楽では,恋慕・悲嘆・懺悔などの心情を表現する部分。比較的ゆっくりとしたテンポで,高音域を交じえ旋律変化に富む。曲中の聞かせどころ。また,歌舞舞踊では所作の見せどころともなる。謡曲では,慕情や傷心などを表現する部分をいい,囃子を伴わずに低音域で謡われる。平曲では,叙述的内容の部分で,低音を主体とした比較的単純な旋律を持つ。(2)民謡の種類。同じ旋律を繰り返して,長い物語をうたう曲。
→関連項目さわり

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