口蓋(読み)こうがい(英語表記)palate

翻訳|palate

精選版 日本国語大辞典 「口蓋」の意味・読み・例文・類語

こう‐がい【口蓋】

〘名〙 脊椎動物口腔内の天井をなしている壁。両生類以上では鼻孔が通じている。哺乳類では前方硬口蓋後方軟口蓋口蓋帆)とに区別され、軟口蓋の後縁に口蓋垂がある。〔重訂解体新書(1798)〕

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デジタル大辞泉 「口蓋」の意味・読み・例文・類語

こう‐がい【口蓋】

口の中の上側の壁。前方の約3分の2を硬口蓋、その後方を軟口蓋という。

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改訂新版 世界大百科事典 「口蓋」の意味・わかりやすい解説

口蓋 (こうがい)
palate

一般に脊椎動物における口腔つまり口の空所の天井をいう。鳥類,大半の爬虫類,およびそれ以下の動物のもつ口蓋と,一部の高等爬虫類および哺乳類の口蓋とは構造がまったく違うので,前者を一次口蓋,後者を二次口蓋と呼んで区別する。ふつう魚類では,鼻孔は口の付近にある嗅覚をつかさどる1対の穴で,口腔には通じないから鼻腔というものがない。したがって口腔の天井は一定の骨格中核とする上顎の口腔面が粘膜に覆われたもので,このような口蓋が一次口蓋の最も単純なものである(ただし,軟骨魚類では,口腔内面は楯鱗(じゆんりん)で覆われている)。ところが,古生代の高等硬骨魚類であった総鰭(そうき)類のなかには,肺をもつと同時に,鼻孔(外鼻孔)が口腔の天井へ開通してできた内鼻孔を備え,鼻を通じて空気呼吸をするものが現れた。そして,この仲間の魚類から最初の四足動物である両生類が進化してきた。こうした太古の総鰭類や両生類(現存種も含めて)では,ドーム状をなす一次口蓋の前部左右1対の内鼻孔が開口する。また両生類と,それから進化してきた爬虫類には,上顎の周縁に多数の歯をもつほか,口蓋の中央部付近にも対をなす歯列をもつものが多い。この状態は爬虫類から進化した鳥類でも基本的に同様だが,これらの動物ではふつう内鼻孔は1個に合して一次口蓋の中央ないし後部に開いている。しかるに,哺乳類の祖となった古生代の高等爬虫類であるいわゆる哺乳類様爬虫類では,もと上顎の骨格の周辺部にあった有対の前上顎骨,上顎骨,口蓋骨が正中部へ向かって棚状に伸び出して正中線上でたがいに結合し,これによってもとの口腔を上下2段に隔てるようになった。そして,上の空所が鼻腔(鼻中隔で左右2室に分かれる),下の空所が新たな口腔になった。このようにして生じた鼻腔の床と口腔の天井をなす骨性の一枚の板が二次口蓋で,哺乳類はすべてこれを備えている。そして歯は,上顎,下顎の周縁にそって並ぶU字形の歯列を残すのみとなった(爬虫類のなかでワニ類だけは特別で,各1対の前上顎骨,上顎骨,口蓋骨および翼状骨からなる二次口蓋が哺乳類以上によく発達し,鼻腔は,吻の前端近くに開く外鼻孔から咽頭の天井に開く内鼻孔に至る長い気道を形成している)。二次口蓋によって呼吸道が口腔から独立したことによって,口で食餌を食べながら,あるいは口を閉じたままで,同時に鼻で呼吸することが自由にできるようになった訳である。このことは,哺乳類ではたえず呼吸をしていなければ生命を維持できないほど物質代謝が盛んであることと関連をもっている。なお,大半の哺乳類の口蓋の前部には,これを貫いて口腔と鼻腔をつなぐ鼻口蓋管という1対の管が開口する。この管の途中には,ヤコプソン器官または鋤鼻(じよび)器官(両生類以上の動物がもつ)と呼ばれる一種の嗅覚器が位置している。ヒトを含む霊長類ではこの器官は胎児期に発生するが,そののち退化消失し,鼻口蓋管は口蓋の骨格,つまり骨口蓋の前部にある切歯管としてなごりをとどめている。また多くの哺乳類では,口蓋の下面に洗濯板のような横方向の多数の並行隆条があり,これを横口蓋ひだという。食物の咀嚼(そしやく)や飲込みを助けるものと思われるが,その機能は明らかではない。ヒトではこのひだは退化しており,かすかにしか認められない。
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硬口蓋と軟口蓋から成り,前者は口蓋の前の大部分を占め,骨の支柱がある。この部分の粘膜は比較的厚く骨と緊密に結合している。軟口蓋は後の約1/3の部分で骨の支柱はなく,後縁には口蓋垂があり,軟らかで自由に動き,ものを飲み込むときに後鼻孔(鼻腔の後端で咽頭へつながる部分)をふさぐ役目をもつ。口蓋には多数の小唾液(だえき)腺がある。胎生期に口蓋は左右から癒合するが,その痕跡が中央部にみられる(口蓋縫線)。その前端には米粒大の粘膜の隆起があり,また左右にのびた数本のひだがあって,これは獣類ではよく発達して食餌をとる補助的な役をしている。口蓋の中央に限局した硬い隆起が見られることがある(口蓋隆起)。骨の過剰発育によるとされるが,日本人では70%以上にあるといわれる。胎生期の口蓋の癒合が不完全な場合には口蓋裂が生じる。ものを吸ったり,発音などに際し,機能障害が起こる。口蓋形成手術により機能回復できるが,手術不能な場合には人工的に裂部を閉鎖して機能の改善をする。

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百科事典マイペディア 「口蓋」の意味・わかりやすい解説

口蓋【こうがい】

脊椎動物において口腔の上壁で鼻腔との境をつくる部分。魚類では口腔と鼻腔がつながらないが,両生類以上では内鼻孔でつながる。前方の広い範囲は骨がその基礎をつくるので,硬口蓋と呼ばれ,後方の狭い範囲は内に骨がなく横紋筋を多くもつので軟口蓋と呼ばれ,いずれも多数の粘液腺をもった粘膜でおおわれる。軟口蓋の後部は口蓋帆といってよく動き,その中央部は口蓋垂と呼ばれる。口蓋帆は食物の嚥下(えんげ)に際し引き上げられて,食物が鼻腔に入らないようにふさぐ。口蓋の両側から口蓋弓と呼ぶ2本の弓状の粘膜が下方に下がり,ひだの間で下端はくぼんで口蓋扁桃(へんとう)をいれる。
→関連項目

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「口蓋」の意味・わかりやすい解説

口蓋
こうがい
palate

口腔の上壁にあたる部分をいう。前方部を硬口蓋といい,ここは上顎骨の口蓋突起と口蓋骨の水平板があるので硬い。のどの奥のほうの後方部を軟口蓋といい,その内部に骨を欠き,多くの横紋筋を有する。その後端は遊離して口蓋帆となり,その中央部は細く垂れ下がって,口蓋垂 (俗にいうのどちんこ) となっている。口蓋垂はよく動き,口腔と咽頭の境である口峡の広さを変える働きをする。

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