口腔外科(読み)こうくうげか(英語表記)oral surgery

精選版 日本国語大辞典 「口腔外科」の意味・読み・例文・類語

こうくう‐げか ‥ゲクヮ【口腔外科】

〘名〙 兎唇(としん)口蓋破裂上顎癌(じょうがくがん)歯肉癌などを扱う診療科目。歯科と併設されているところもある。
※ひかげの花(1934)〈永井荷風〉九「口腔外科の医者に手術をして貰はなければならないと云ふ事であった」

こうこう‐げか コウカウゲクヮ【口腔外科】

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デジタル大辞泉 「口腔外科」の意味・読み・例文・類語

こうくう‐げか〔‐ゲクワ〕【口×腔外科】

顎骨がっこつ・口舌の腫瘍しゅようなどの疾患や外傷を扱う外科・歯科の診療科目。→口腔内科

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改訂新版 世界大百科事典 「口腔外科」の意味・わかりやすい解説

口腔外科 (こうこうげか)
oral surgery

臨床歯科医学の専門分科の一つで,正式には〈こうくうげか〉と読む。顔面,顎,口腔領域を構成する上・下顎骨,歯などの硬組織や口唇,歯肉,舌などの軟組織,さらに,これらの周辺に存在する口腔機能に重要な役割をなす関連器官,すなわち顎関節唾液腺,各リンパ節などに生ずる病変の診断および治療に関して研究する学問である。この学問に基づいて口腔外科的技術が開発され,処置が行われるのが口腔外科の臨床である。処置の対象となる病変は,口腔領域の軟組織損傷および顎骨骨折の外傷,炎症,囊胞性疾患,良性および悪性腫瘍,先天異常,顎骨変形症,顎関節疾患,リンパ系疾患,神経疾患,系統的骨疾患,その他全身性疾患に起因ないしは関連する口腔粘膜病変などである。

 口腔外科の歴史は歯科の歴史に求められ,さらに,歯科の歴史は医学の歴史にさかのぼって求めなければならない。すでに古代エジプトや中国などの古い医書の中に虫歯による歯痛に対する処置が記載されており,ヒッポクラテスやローマ時代のケルスス,ガレノスらにより,歯科医術が発達してきた。しかし,歯科医学の体系が整ってきたのは17世紀ころからといわれ,抜歯,歯肉剝離(はくり)などの口腔外科小手術器具の開発が行われるようになった。19世紀になり,アメリカにおける口腔外科の父といわれているフーリヘンSimon P.Hullihen(1810-57)が初めて口腔外科手術の中に口唇・口蓋形成手術などを取り入れ,口腔外科医oral surgeonを初めて名のったのはギャレットソンJ.E.Garretsonだといわれる(1869)。20世紀に入り,塩酸プロカインの発見(1905)により抜歯術が確立され,以来,抜歯のみならず顎・口腔領域の外科的処置の開発がなされた。第1次大戦時における顎顔面領域の戦傷者の治療は,口腔外科の発展に飛躍的な進歩をもたらした。

 日本における口腔外科の歴史は,本間玄調(1804-72)著の《瘍科(外科)秘録》の中にみられる口腔外科的記載が初めとされ,舌癌,上顎癌の症状や手術所見などがみられる。明治時代に入り,1883年医術開業試験の中に歯科という科目が設けられ,歯科医師の身分が確立され,1906年に歯科医師法が制定され,さらに09年伊沢信平により歯科医術開業試験の科目に口腔外科が加えられ,歯科における口腔外科の地位が確立された。しかし,歯科における口腔外科は抜歯などの小手術にとどまり,多くは外科医に任せられていた。大正時代では,伝達麻酔の普及,歯根尖切除術歯槽膿漏の外科的手術などが紹介されており,26年には高木=赤坂式兎唇・口蓋裂の徒手矯正法が歯科雑誌に初めて記載されている。昭和に入り,ドイツ系口腔外科の導入により,口腔外科の内容は歯科外科と顎外科に大別され,発展してきた。すなわち,歯科外科は抜歯,歯根尖切除術,囊胞摘出術など,外来診療で行われる小手術を対象とする疾患,一方,顎外科は顎骨骨折,顎顔面の先天異常および変形症,良性・悪性腫瘍などの疾患を対象としている。いずれも歯科における各専門分科と密接な関連のもとに咬合,咀嚼(そしやく),構音,嚥下などの口腔機能の回復ないし改善が口腔外科治療の最終目的である。

 第2次大戦を通じて戦傷者の治療に対処し,発展してきたドイツ系顎外科に,戦後のアメリカ系口腔外科の影響がさらに加わり,日本の口腔外科はドイツ,アメリカ両系統とは異なった独自の口腔外科体系が樹立されてきた。近年,口腔外科専門医制度を前提とした日本口腔外科学会の認定医制度が確立され,研修機関の指定および認定医の認可が行われている。なお,現在,日本においては,口腔外科学は歯学部教授要綱では必須課目であり,医学部においては選択課目になっている。
歯科
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百科事典マイペディア 「口腔外科」の意味・わかりやすい解説

口腔外科【こうこうげか】

正式には〈こうくうげか〉。歯科医学の一分科。抜歯,歯槽膿漏(しそうのうろう)の手術,顎骨骨折,口腔癌唇裂(三つ口)・口蓋裂などの奇形を主要な対象とする。

口腔外科【こうくうげか】

口腔外科(こうこうげか)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「口腔外科」の意味・わかりやすい解説

口腔外科
こうくうげか
oral surgery

臨床医学の一分野。文字のうえからは口の中のみを対象とする外科ととられがちであるが,実際には口腔内に限らず,口腔機能に関与する部分がすべて対象であるから,上下顎,顎関節,顔面,頸部などの外科的治療も含まれる。すなわち,抜歯をはじめ,顎骨内嚢胞などの良性腫瘍,舌癌などの悪性腫瘍,唾液腺疾患,顎骨骨折などの顎顔面外傷,先天異常の唇顎口蓋裂や下顎前突症,口腔粘膜疾患,顎関節強直症などの治療を行う。大学の歯学部,医学部および歯科大学,医科大学に診療科がおかれている。

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世界大百科事典(旧版)内の口腔外科の言及

【口腔外科】より

…顔面,顎,口腔領域を構成する上・下顎骨,歯などの硬組織や口唇,歯肉,舌などの軟組織,さらに,これらの周辺に存在する口腔機能に重要な役割をなす関連器官,すなわち顎関節,唾液腺,各リンパ節などに生ずる病変の診断および治療に関して研究する学問である。この学問に基づいて口腔外科的技術が開発され,処置が行われるのが口腔外科の臨床である。処置の対象となる病変は,口腔領域の軟組織損傷および顎骨骨折の外傷,炎症,囊胞性疾患,良性および悪性腫瘍,先天異常,顎骨変形症,顎関節疾患,リンパ系疾患,神経疾患,系統的骨疾患,その他全身性疾患に起因ないしは関連する口腔粘膜病変などである。…

【歯科】より

…臨床歯学には,口腔外科学,歯科補綴(ほてつ)学,歯科保存学,歯科矯正学,小児歯科学,歯科麻酔学,歯科放射線学,予防歯科学が含まれている。口腔外科学oral surgeryは,口腔,顎,その隣接組織に生じる先天的・後天的疾患の診断や外科的治療とその予防についての学問である。歯科補綴学prosthetic dentistryは,歯,口蓋,顎骨などの失われた部分を形態的,機能的に回復させるための方法を研究対象とする学問で,最近では顎や顔の一部が失われたものの修復をする顎顔面補綴も含まれるようになってきた。…

※「口腔外科」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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