取成・執成(読み)とりなす

精選版 日本国語大辞典 「取成・執成」の意味・読み・例文・類語

とり‐な・す【取成・執成】

〘他サ五(四)〙
① ある物を手にとって、他の物に変えてしまう。
古事記(712)上(道祥本訓)「湯津爪櫛(ゆつのつまくし)に其の童女を取成(トリナシ)て」
② 物を手に持って、扱う。また、物をある状態にして扱う。
※栄花(1028‐92頃)浦々の別「御殿油(とのあぶら)遠くとりなして」
③ 実際とは違ったもののように受け取って理解し、また、とりざたする。また、わざと…とみなす。
源氏(1001‐14頃)夕顔「つくりごとめきて、とりなす人ものし給ければ」
④ そのようなふりをする。実際とは違ったように見せかける。
※源氏(1001‐14頃)総角「思はぬ人を思ふ顔にとりなす言の葉」
⑤ うまく取り扱う。じょうずに処置する。とりさばく。
弁内侍(1278頃)建長元年一二月一八日「鬼の間に人音のする誰ならん弓とる方の頭の中将 左の心もことにえんありてとりなしたり」
⑥ 気にいるように応対する。うまくお相手をする。調子を合わせる。
※宇津保(970‐999頃)蔵開中「台盤にものすゑて、とりなしつつまゐる」
⑦ 具合の悪い状態を、間にはいって取り計らい、好転させる。よいように取り計らう。間に立って周旋して、うまくその場を納める。
※枕(10C終)一三七「さることやありし、と問はせ給へば、知らず、何とも知らで侍りしを、行成朝臣のとりなしたるにや侍らん、と申せば」
⑧ 人を紹介する。仲介する。斡旋(あっせん)する。
連歌で、取成付けの付けかたをする。
※花能万賀喜(1452)「前句仮寝を苅根に取成て」

とり‐なし【取成・執成】

〘名〙
① 双方のあいだに第三者がはいって、悪感情を取り除いたり、互いに都合のよい条件を提示したりして、関係を好転させること。とりつくろい。とりもち。斡旋。
大乗院寺社雑事記‐文明一九年(1487)四月一日「松林院々家事、取成不叶之間、於今者、不之由、慈恩院申歟云々」
浄瑠璃仮名手本忠臣蔵(1748)一〇「お序(ついで)に義平めが。志もお執成(トリナシ)とあつき詞に人々も」
② 態度、様子。
※春泥(1928)〈久保田万太郎向島「小倉はしみじみとした挙止(トリナシ)で」
※長六文(1466)「とりなしの連歌とて、近年其類おほく候」
④ 解釈のしかた。受けとめ方。取り様。
※黒住教教書(1909‐20)文集「悪敷にても取成にて、皆善事と相成候」
⑤ (執成) 特に、キリスト教で、他者のために神に対して懇願したり許しを求めたりすること。また、その祈り。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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