[1] 〘自ラ五(四)〙 (「まい(参)」に「いる(入)」の付いた「まいいる」の変化したもので、貴人の居所にはいって行くのが原義か)
① 貴人のもとや貴所に参上する、伺う。特に、朝廷に参内する。宮に参入する。
※書紀(720)推古一二年四月(岩崎本訓)「八に曰く、群卿百寮、早(はや)く朝(マヰリ)て晏(おそ)く退(まか)つ」
※枕(10C終)一八四「宮にはじめてまゐりたるころ、もののはづかしきことの数知らず」
③ 入内する。貴人のもとへ、輿入れする。
※枕(10C終)一〇四「
淑景舎、東宮にまゐり給ふほどのことなど、いかがめでたからぬことなし」
④ 神仏に詣でる。参拝する。
※後撰(951‐953頃)雑二・一一三五・詞書「若う侍りける時は、志賀につねにまうでけるを、年老いてはまいり侍らざりけるにまいり侍りて」
⑤ 物などが、貴人の手もと・貴所などに至る、来る。
※源氏(1001‐14頃)若菜上「名高き帯、御はかしなど、〈略〉古き世の一の物と名あるかぎりは、みなつどひまいる御賀になんあめる」
[二] (一)の「行く先」を敬う性質が失せ、丁重・荘重にいうのに用いられるようになったもの。多く、対話敬語として用いる。
① 主として、自己側の者、また、敬う必要のない一般的なものの「行く」「来る」を、聞き手に対し、へりくだる気持をこめて丁重にいう。言い方を改まりかしこまったものにする。
※
徒然草(1331頃)一一五「ここにて対面し奉らば、道場をけがし侍るべし。前の河原へ参り合はん」
※歌舞伎・姫蔵大黒柱(1695)二「私は奥へ参って待ちまする程に」
② 聞き手に対しへりくだる気持が無くなり、一般的に「行く」「来る」を重々しく、堅苦しい口調でいうのに用いる。時に尊敬すべき人の動作について用いることもあった。
※虎明本狂言・鼻取相撲(室町末‐近世初)「おめが参たらはおげんざうであらうず、又お目がまいらずは、五日も十日もとうりうであらう程に」
[三] (敬語性が失せて) 相手に優位を占められる。また、屈するの意を表わす。
① 降参する。負ける。
※虎寛本狂言・庖丁聟(室町末‐近世初)「『おやのあしを取るといふ事が有る物か。是は何とするぞ、何とするぞ』『ヤアヤアヤア、ヤア参たの。勝たぞ勝たぞ』」
② 閉口する。
※大阪の宿(1925‐26)〈水上滝太郎〉一四「内心ひどく参ってゐたところへ」
③ 弱る。へたばる。
※
其面影(1906)〈二葉亭四迷〉七〇「大分参ってゐる癖に、家へ入るより大声に酒々と喚く」
④ 死ぬ。特にいやしめていうのに用いる。
※窮死(1907)〈
国木田独歩〉「彼の容態では遠らずまゐって了うだらう」
⑤ (多く、異性などに)心が奪われる。
※世間知らず(1912)〈
武者小路実篤〉二五「お前がそんなにあの女にまゐってゐて」
[2] 〘他ラ四〙
[一] 「何かを奉仕するために参上する」ところからか、あるいは、「物が参る」のを、それに関与する人物の奉仕する動作として表わしたところからか、(一)の
自動詞が他動詞化したもの。
① 物などを上位者・尊者にすすめる意の謙譲語で、その動作の対象を敬う。さし上げる。
※
伊勢物語(10C前)八二「親王にうまの頭、大御酒まいる」
② 上位者・尊者のために、ある事をする、物などを用意する意の謙譲語で、その動作の対象を敬う。してさし上げる。奉仕する。また、用意申し上げる。→
御格子(みこうし)まいる。
※枕(10C終)一〇四「御畳の上に褥ばかり置きて、御火桶まゐれり」
③ (この手紙をさし上げますの意から) 手紙の脇付に用いる語。男女ともに用いた、
終止形だけの用法。
※実隆公記‐文明一〇年(1478)三月二四日至二七日紙背(赤松則途書状)「正月廿三日
公 まいる 侍者御中」
[二] 奉仕者によって用意されたものを、奉仕を受ける者が用いるところから、(一)を奉仕を受ける貴人の動作そのものとして直接表わすことによって生じた尊敬語。
① 「食う」「飲む」の意の尊敬語。召し上がる。
※大和(947‐957頃)一二五「泉の大将〈略〉ほかにて酒などまいり、酔ひて」
② (多く、動作性を含む名詞に関して) 諸動作を「する」の意の尊敬語。なさる。
※源氏(1001‐14頃)若紫「今宵はなほしづかに加持などまいりて出でさせ給へ」
[語誌](1)「まゐく(参来)」「まゐづ(参出)」「まゐたる(参到)」などと関連して「まゐ」と「いる」との結合と考えられるが、「まゐ」の性質は不明。
(2)特殊なものとして、「御湯殿上日記‐文明九年閏正月一〇日」の「つねの御所にて三こんまいる。こよひはと
めまいらるる」などに見られる
補助動詞的な用法がある。