厭がらせの年齢(読み)イヤガラセノネンレイ

デジタル大辞泉 「厭がらせの年齢」の意味・読み・例文・類語

いやがらせのねんれい【厭がらせの年齢】

丹羽文雄短編小説。理性的な判断力を喪失し、家族へのいやがらせが生きがいになってしまった老女うめの姿を描く。昭和22年(1947)、「改造」誌に発表

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改訂新版 世界大百科事典 「厭がらせの年齢」の意味・わかりやすい解説

厭がらせの年齢 (いやがらせのねんれい)

丹羽文雄(1904-2005)の短編小説。1947年(昭和22)《改造》に発表。86歳の老女うめの,いやがらせをすることだけが生きていることのすべてになってしまった化物のような姿を非情な,リアルな筆致で描く。戦後困窮生活のなかでの人間ばなれした姿だけに,いっそう持てあましものの老醜が浮き出ており,一面苦笑をさそうユーモアをもただよわせて戦後の一傑作とされた。この作家には最初期から〈生母もの〉と呼ばれる,家を出た実母を取り扱った作品がある。これは生母をモデルとした作ではないが,〈生母もの〉の到達をおもわせる迫真性をそなえ,この作者に特有の人間の生存そのものを描くリアリズムを感じさせる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「厭がらせの年齢」の意味・わかりやすい解説

厭がらせの年齢
いやがらせのねんれい

丹羽(にわ)文雄の短編小説。1947年(昭和22)2月『改造』に発表。第二次世界大戦後の家族制度の崩壊、物質的困窮、世相混乱の時代を背景に、1人の老婆主人公にして、さまざまな老年の問題を織り込んだ問題作。長生きしすぎた老婆は理性的判断を失い、食欲の動物のようになってただ生きている。脳軟化症は日増しにひどくなり、家族はこの老婆のために困惑し苦しめられる。それらの老醜と悲惨とを最初に小説化した作品で、後の有吉佐和子の『恍惚(こうこつ)の人』の先駆をなしている。当時はまだ老人問題なども今日ほど叫ばれてはいなかったが、この小説の題名が一時流行語になったのをみると、かなりの共感をよんだことがわかる。

[松本鶴雄]

『『厭がらせの年齢』(新潮文庫)』

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