原子力船(読み)ゲンシリョクセン(英語表記)nuclear ship
atomic powered ship

デジタル大辞泉 「原子力船」の意味・読み・例文・類語

げんしりょく‐せん【原子力船】

原子力を動力に利用して推進する船。

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精選版 日本国語大辞典 「原子力船」の意味・読み・例文・類語

げんしりょく‐せん【原子力船】

〘名〙 原子力を推進力として航走する船舶。原子核分裂による熱エネルギーを動力源として利用する。
※現代の科学(1957)〈祖父江寛〉二「原子力船は、燃料の消費重量が非常に少ない点から」

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改訂新版 世界大百科事典 「原子力船」の意味・わかりやすい解説

原子力船 (げんしりょくせん)
nuclear ship
atomic powered ship

動力源として原子炉を搭載した船舶。すなわち,原子力船は動力発生の面でみると,在来のボイラー-タービン船のボイラーを原子炉,蒸気発生器の組合せである原子力蒸気供給系nuclear steam supply system(NSSS)で置き換えたものである。

 核燃料は化石燃料に比べてけた違いにエネルギー密度が高く,したがってごく少量の燃料で大出力・長期間運転ができること,そして酸素を必要としないことなどが大きな特徴であるが,反面,原子炉には放射線遮蔽を必要とするほか,安全上の諸対策を講じておかねばならないなどの問題がある。原子力船はこうした点を反映して,在来船に対して以下に示すような長所を有する。(1)燃料積載量が少なくてすむ。海運界は高速輸送の道を歩んでいるが,一般に燃料消費量は速度の3乗に比例するため,在来船で高速化すれば燃料積込量がふえ,その速度は限界に近づいている。(2)燃料の補給なしで長期間の航行が可能である。このため稼働率が向上し,また船隊編成がスムーズとなる。(3)長期間の潜航が可能となる。その結果,海上航行の場合に付随する造波抵抗を避けることの可能な潜水船を実現することができる。(4)技術力,資本,労働力をより必要とする原子力船は造船産業の発展にとり有益である。(5)エネルギー源を多様化してセキュリティを増すことができる。一方,短所としては以下の点があげられる。(1)原子炉遮蔽の容積,重量は相当に大きくなる。このため原子力船は小型船では不利となる。(2)核燃料の費用は安くても原子炉の建設費や安全管理等の経費が多額にのぼる。また安全上,他の動力源が必要である。(3)原子力船では定期検査や燃料交換等にかなりの日数を要する。(4)原子力船の入港は場所により制限され,また複雑な許可手続きが要求される。商船では以上のような長所,短所を総合して経済的に在来船よりも有利になるかどうかが重要な点であり,今日まで必ずしも十分な経済性の見通しが立っていないことから,原子力商船は世界的に実用化の域に達していない。これに対して,軍事利用の面では,燃料の長期にわたる補給を必要とせず,また長期潜水に耐える点が他に代えがたいため,原子力空母や原子力潜水艦として導入され,実戦配備されている。

アメリカにおいては1954年に原子力潜水艦ノーチラス号が進水した。この技術を基礎として,56年には原子力平和利用の一つとして貨客船のサバンナ号の建造が決まり,62年に完成した。アメリカではほかに,原子力コンテナー船や原子力タンカーの建造を目標として,研究開発が行われてきている。一方,ソ連では砕氷船としての原子力船利用に早くから着目し,アメリカに先がけて59年に原子力砕氷船レーニン号を完成させた。その後も一貫してアルクチカ号シビリ号,ロシア号などの原子力砕氷船を建造してきている。また,原子力貨物船も検討中と伝えられる。西ドイツでは,鉱石運搬用として68年,原子力船オットー・ハーン号が完成した。同国では大型の原子力コンテナー船の研究開発も行われている。日本では,1955年ころから原子力船に関する調査,研究が始まり,61年原子力開発利用長期計画において70年を目途に原子力第1船を建造することを決定,63年には日本原子力船開発事業団が発足した。こうして69年,特殊貨物船である原子力船〈むつ〉が進水した。この事業団は85年から日本原子力研究所に併合し,原子力第2船の検討を含めた事業を継続する。イギリス,フランス,ノルウェーオランダ,イタリア,カナダなどの諸国でも原子力船の研究開発あるいは計画検討などが実施されているが,建造には至っていない。

 これまでに建造・就航した非軍事用の原子力船は,概して良好な運転実績をあげ,技術的実証ならびに運航管理等のデモンストレーションの目的を果たしたものと評価されている。しかし,原子力船自体の経済性がまだ不十分であり,しかも近い将来に原子力船に期待すべき貨客輸送需要の形態や量の見通しが明確でないため,ソ連の砕氷船などを除いて,まだ実用化されていない。

原子力船用の原子炉は,容積と重量の面での船側の負担を減らすため,小型高性能のものが望ましく,また船体動揺時にも安定に運転できることが必要である。加圧水型炉はこれらの条件に適しており,現存の原子力船ではすべて加圧水型炉が使用されている。プラント型式としては原子炉と蒸気発生器を一つの容器内に組み込んだ一体型(西ドイツ)と,そうでない分離型とに大別される。船の推進軸駆動の方式には,蒸気タービン駆動と電気駆動の二つがある。後者は蒸気タービンで発電機を動かし,そこで得られる電力で電動機を回転させる。〈むつ〉などは蒸気タービン駆動であるが,砕氷船のように繰り返し前後進を行うものでは制御の便を考えて電気駆動方式が採用されている。原子力船はかりに衝突,座礁,あるいは沈没などの事故が起きたとしても,放射性物質の漏れ出す原子力事故とならないよう,設計には安全上の十分な対策が講じられている。

原子力船のコラム・用語解説

【世界の原子力船】

サバンナ号 NS Savannah
アメリカの原子力貨客船で1958年起工,59年進水,62年完成。全長181.5m,幅23.8m,満載排水量2万1990トン,載貨重量9723トン,速力23ノット。原子炉は加圧水型で熱出力80MWt×1基,最大軸出力2万2000馬力。ステンレス鋼被覆の二酸化ウラン燃料を使用,235Uを炉心に331kg装荷。原子炉関係重量は約2600tで,これは在来タービン船の保有燃料油重量にほぼ等しい。船価は5500万ドル(約198億円)。デモンストレーション船として63年より国内航海に,64年より国外航海に従事。65年に貨物船に改装,欧州航路を中心とする商業航海に就航した。70年に使命をおえ,係船となる。
レーニン号 NS Lenin
ソ連の第1号の原子力砕氷船で1956年起工,57年進水,59年完成。全長124m,幅26.8m,満載排水量1万9240トン,速力18ノット,砕氷能力は2.4m氷中で2ノット。原子炉は加圧水型で熱出力90MWt×3基(うち1基は予備),電気駆動方式で最大軸出力4万4000馬力。燃料は二酸化ウラン,235U装荷量は1基当り85kg。ムルマンスクを母港とし,同港からエニセイ河口へ向け,バレンツ海,カラ海における商船先導に従事。
ブレジネフ号 NS Brezhnev
ソ連の第2号の原子力砕氷船で1971年起工,72年進水,74年完成。全長136m,幅28m,満載排水量2万3460トン,速力21ノット。原子炉は加圧水型で熱出力150MWt×2基,最大軸出力7万5000馬力。燃料その他,詳細不明。砕氷船の能力としてレーニン号を上回る船であり,75年より北極航路に就航し,77年8月17日水上船舶として初めて北極点に到達。77年に完成したシビリ号,80年建造中と伝えられるロシア号は同一仕様。なお船名はアルクチカ号であったが82年に改名。
オットー・ハーン号 NS Otto Hahn
西ドイツの鉱石運搬船で1963年起工,64年進水,68年完成。全長172m,幅23.4m,満載排水量2万5790トン,載貨重量1万4040トン,速力16ノット。一体型加圧水プラントを擁し,熱出力は38MWt×1基,最大軸出力は1万1000馬力。ジルコニウム合金被覆の二酸化ウラン燃料を使用,235U装荷量は94kg。建造費5300万マルク(約48億円)。実験航海の後70年より商業航海に入り,79年2月の最終航海までに通算131航海の実績を残した。82年には使命をおえ,同船の原子力部分が撤去された。83年に在来船に転用されふたたび就航している。
むつ
日本の原子力実験船で1968年起工,69年進水,74年初臨界。全長130m,幅19m,満載排水量1万0400トン,載貨重量2400トン,速力17ノット。原子炉は加圧水型で熱出力36MWt×1基,最大軸出力1万馬力。低コバルトステンレス鋼被覆の二酸化ウラン燃料を使用,235U装荷量は96.4kg。国産で,建造費約56億円。74年母港むつ市と合意不十分のまま洋上で出力上昇試験,臨界に達したが,放射線漏れ事故を起こし,試験中止。地元との間に紛糾が拡大した。82年長崎県佐世保港で遮蔽改修を完了。88年新母港むつ市関根浜に入港。90年日本初の原子力航行に成功,91年に8万2000キロを原子力で航行。93年原子炉を解体撤去,船体は96年海洋地球研究船みらいとして進水。
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〈われ原子力にて航行中〉。1955年1月17日,造船所を離れ大西洋に向かうアメリカ原子力潜水艦ノーチラス号発信のこの電文により,原子力時代の幕は切って落とされた。通常型潜水艦は水上ではディーゼルエンジンで航行するが,水中では蓄電池を電源とし電動機を駆動するので,高速力で航行すれば1時間程度で電池を消耗してしまい,電池充電のためしばしば浮上しなければならない。第2次大戦末期にレーダーが出現すると潜水艦はしだいにその隠密性を失い無力化された。対策としてスノーケル装置(潜航中に水上に管を出して空気を取り入れる装置)等が装備されたが,しょせん全没可能な真の潜水艦ではなかった。1946年原子力船の父といわれるアメリカのH.G.リコーバー海軍大佐(当時)は,真の潜水艦は,(1)燃料燃焼に空気が不要,(2)1回の燃料充塡により何年間も高速航行が可能,(3)石炭・石油のように大量の燃料庫が不要な原子力潜水艦以外にないことを建言,50年トルーマン大統領の承認を得た。かくして53年世界初の加圧水型軽水炉を臨界に達せしめ,54年9月世界で初めての原子力船ノーチラス号を完成させた。その後,ノーチラス号は57年の第1回燃料交換まで6.3万カイリを航行し,58年には北極点を潜航したまま通過するなど,原子力船のメリットを次々に実証した。アメリカ海軍は59年潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)積載原子力潜水艦(SSBN)ジョージ・ワシントンを就役させ,これに続きソ連も数年おくれで同種の原子力潜水艦を就役させた。SSBNは陸上のミサイル発射基地と比べ空中査察等では発見が難しく,敵の攻撃によって破壊されにくい(抗堪(こうたん)性,残存性が高い)ため,戦略上重要な地位を占めることとなった。

 またアメリカ海軍は巨大空母を中心とする機動部隊を保有しているが,これを原子力艦で編成することにより,給油の必要がないのでその機動性が著しく高められることになった。アメリカ海軍は1961年原子力空母エンタープライズ,原子力巡洋艦ロングビーチを就役させ,82年までに原子力空母4隻,原子力巡洋艦9隻を確保し優勢な原子力機動部隊2個隊を整備した。ソ連海軍は81年原子力巡洋艦キーロフを就役させた。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「原子力船」の意味・わかりやすい解説

原子力船
げんしりょくせん

原子炉で発生する熱を利用して駆動用タービンを動かし推進する船舶。原子炉で発生する蒸気でタービンを動かす点では発電用原子炉と同じであるが、船舶に搭載するため遮蔽(しゃへい)体の少ないコンパクトな炉を必要とする。原子力船は核燃料を使うので、長期間にわたり燃料補給をせずに運行できる。開発の歴史は原子力発電より古く、軍事利用が先行した。1954年に原子力潜水艦ノーチラス号がアメリカで建造されたが、現在でも軍用の艦船が圧倒的に多く、平和利用の船舶はほとんどない。

[青柳長紀]

原子力船の原子炉

原子力船に搭載する原子炉を舶用(原子)炉というが、開発の歴史は古く、アメリカで1953年に潜水艦用原型炉(STW)が、まず陸上でアイダホの国立原子炉試験場に建設された。炉型は、減速材と冷却材に軽水を用い、高い圧力を加えて冷却材を循環させる加圧水型軽水炉(PWR)で、のちにアメリカで大型化され、発電用原子炉の原型となった。舶用炉は炉心を小さくするため、高濃縮または発電用より濃縮度の高いウランをステンレスかジルカロイで被覆した酸化物燃料を使う。構造上の種類としては、発電用と同じように圧力容器外に蒸気発生器をもつ分離型と、遮蔽体が小さくてすむように改良された圧力容器内に蒸気発生器をもつ一体型、およびその中間的構造をもつ半一体型の炉がある。

[青柳長紀]

世界の原子力船

原子力船は、世界各国で建造されたが、最近では、平和利用としてはロシアの原子力船だけが就航中である。

(1)レーニン号とロシアの原子力船 レーニン号は、旧ソ連が砕氷船として1956年に起工、1959年に完成した世界最初の原子力船である。30年間、約65万海里の航行ののち1989年に退役した。ロシアの原子力砕氷船は、現在アルクチカ号など7隻が就航中であるが、その他砕氷能力をもった原子力貨物船セブモルプーチ号も就航している。1994年から砕氷船ウラル号が建造中であるが資金難のため完成が遅れている。

(2)サバンナ号 アメリカでは軍用の艦船の建造は古いが、平和利用の船としては1962年に貨客船サバンナ号が完成した。この船は8年間に約45万海里、27か国の78の港を訪問した。その後、目的を達成したとして、炉心から燃料を取り出し、チャールストン港に係船された。

(3)オットハーン号 実験船として1963年に起工、1968年に完成した旧西ドイツの原子力船。一体型原子炉を搭載したのが特徴で、実験航海後は鉱石運搬船として第一次燃料で約25万海里を航行した。1972年に第二次の改良炉心を装荷したのちも順調に運行し、完成後約60万海里の航行ののち、1979年、運行経費の上昇のため運行を停止、燃料を抜き取り、ハンブルク港に係留された。

[青柳長紀]

日本の原子力船

原子力船「むつ」は、日本原子力船研究開発事業団により、当初海洋観測船として計画されたが、建造会社がないため、船体と原子炉を別会社が受け持ち特殊貨物船として建造された。船体は1968年に起工、1969年進水、定係港の青森県むつ市大湊(おおみなと)港に回航、そこで原子炉関連施設を搭載して1972年に完成した。1974年8月、外洋の尻屋崎(しりやざき)東方800キロメートルの公海上で出力上昇試験中放射線漏れをおこしたため、長崎県の佐世保(させぼ)港で遮蔽体などの改修工事を行った。放射線漏洩(ろうえい)の原因は、原子炉圧力容器と一次遮蔽体との間を放射線が漏れるストリーミングによりおこったもので、遮蔽体の追加工事をした。計画から大幅に遅れて、1990年(平成2)に定係港をむつ市関根浜港に移し、事業団を統合した日本原子力研究所が、用途を実験船にかえて出力上昇試験と海上試運転を実施し、合計56日間、約1万2900海里を航行した。その後、1991年に1次から4次の実験航海で110日、約3万4700海里を航行し、1992年に解役された。

 当初「むつ」の建造を1971年末までに完了するという事業団の計画が、20年近く遅れた原因は、技術的に経験のない舶用炉を国産で建造したことにもよるが、それ以上に、船体と原子炉が別会社で独立につくられるなど総合的な責任体制がとられない政府や事業団の開発体制の欠陥のためである。1974年の放射線漏れ事故を機会に、原子炉の安全審査体制と原子力開発体制の欠陥が問題となり、原子力安全委員会(2012年より原子力規制委員会)ができた。

 「むつ」の船体は、解役後大型海洋観測船へ改造され、船体から撤去した原子炉施設は、日本原子力研究開発機構(2005年10月日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構が統合して発足)むつ事業所が廃止措置を行っている。

[青柳長紀]

『安藤良夫著『原子力船むつ――「むつ」の技術と歴史』(1996・ERC出版)』


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百科事典マイペディア 「原子力船」の意味・わかりやすい解説

原子力船【げんしりょくせん】

原子炉で発生する熱を利用して推進機関を運転する船。ボイラーを原子炉と蒸気発生器の組合せに替えた蒸気タービン推進が普通である。すでに実用化している軍艦以外では,まだ原子炉・核燃料その他諸設備に伴う経済性,放射能安全性などに問題があり,速力,航続距離,積載量などに利点があるが,今日まで必ずしも経済性の見通しが立っていない。1959年就航の砕氷船レーニン号,1962年就航の貨客船サバンナ号,1968年就航の鉱石運搬船オットー・ハーン号(旧西ドイツ)があるが,引き続き建造されているのは旧ソ連の北極航路用の原子力砕氷船ブレジネフ号,シビリ号,ロシア号のみ。日本では原子力船開発事業団の原子力実験船むつが1974年の初航海で放射能漏れの事故を起こした。以後4回で約6万3000kmの実験航海を行い,1992年2月母港むつ市関根港に帰港後廃船になった。なお,むつの船体はその後原子炉を取り除くなど改造されて海洋地球研究船〈みらい〉として利用されている。→原子力潜水艦
→関連項目原子力保険

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「原子力船」の意味・わかりやすい解説

原子力船
げんしりょくせん
nuclear-powered ship

原子炉を動力源として推進する船。原子炉には小型軽量の加圧水型が用いられ,発生した蒸気をタービンに送り推進力および電源とする。原子力を用いることの利点は,燃料補給期間を長くとれること,エネルギー発生のため酸素 (空気) を必要としないことの2点である。この利点を生かし,原子力潜水艦,航空母艦など多くの軍艦が建造されている。軍事目的以外にも,1959年砕氷船『レーニン』号 (ソ連) ,62年貨客船『サバンナ』号 (アメリカ) ,68年鉱石運搬船『オットー・ハーン』号 (西ドイツ) が竣工した。日本でも 69年特殊貨物船兼訓練船『むつ』が世界第4番目の原子力商船として進水したが,その後の複雑な社会情勢,試運転中に発生した放射線漏れなどのため,竣工は 91年2月となり,翌年所期の目的を達成して退役した。動力として出力3万 6000kWの加圧水型原子炉を搭載し,排水量約 8000t,速力は 17.5knであった。原子力商船の経済的可能性は,数万馬力しか必要としないために原子炉の規模が小さすぎてかえってコスト高になること,放射線遮蔽に対する要求がきびしくなり重量がかさむことなどから,現状では困難とされている。将来の可能性として,数十万馬力を必要とする超高速大型コンテナ船,北極海の海底石油基地へ氷山の下を通り直接アクセスする潜水タンカー等が考えられている。

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知恵蔵 「原子力船」の解説

原子力船

推進の動力に原子炉を使う船舶。原子炉は酸素を消費しないので、最初に実用化されたのは米国の潜水艦の動力源として。その後も、経済性が問われない軍艦では、1回の燃料交換で長期航海ができるために空母などの水上艦でも使われている。非軍事用としては旧ソ連が商船とレーニン号など砕氷船数隻、米国が貨客船サバンナ号、旧西独が鉱石運搬船オットーハーン号を造った。日本では原子力船開発事業団(当時)が原子力実験船「むつ」(8300t)を建造し、1969年に進水した。74年に初めて原子炉を動かしたが中性子線が漏れていったん中止。改修後の92年に実験航海を終えたあと廃船となった。「むつ」の実験航海中は、反対運動をなだめるためにいろいろな名目の補助金が自治体などに支出された。当初の建造予算60億円は関連経費合計で1000億円にもなり、日本の原子力行政の失敗の見本となった。「むつ」は現在、動力をディーゼル機関に積み替え、独立行政法人日本海洋研究開発機構の海洋地球研究船「みらい」として運航している。

(渥美好司 朝日新聞記者 / 2008年)

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