卵巣嚢腫(読み)らんそうのうしゅ(英語表記)Ovarian Cystoma

精選版 日本国語大辞典 「卵巣嚢腫」の意味・読み・例文・類語

らんそう‐のうしゅ ランサウナウシュ【卵巣嚢腫】

〘名〙 卵巣にみられる嚢腫。丸くてよく動くこぶのようなもので、普通痛みはないが、嚢腫の根元捻転を起こすと激痛を訴える。時に、悪性化する。
江戸から東京へ(1921)〈矢田挿雲〉五「卵巣嚢腫(ランサウナウシュ)剔出術即ち開腹術の大手術が二回とも好結果を奏した事や」

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デジタル大辞泉 「卵巣嚢腫」の意味・読み・例文・類語

らんそう‐のうしゅ〔ランサウナウシユ〕【卵巣×嚢腫】

卵巣に生じた嚢腫。一般に良性腫瘍しゅようであるが、悪性や中間性のこともある。→卵巣嚢胞

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家庭医学館 「卵巣嚢腫」の解説

らんそうのうしゅ【卵巣嚢腫 Ovarian Cystoma】

◎嚢腫はほとんどが良性
[どんな病気か]
 卵巣には、多種多様な腫瘍(しゅよう)が発生します。卵巣嚢腫とは、これらの卵巣腫瘍の一部を指し、つぎの3つのタイプに分けられる、一般に良性の腫瘍です。
■漿液性嚢胞腺腫(しょうえきせいのうほうせんしゅ)
 内容物が粘稠性(ねんちゅうせい)の弱い水溶性のものをいいます。
■ムチン性嚢胞腺腫
 内容物が粘稠性の強い粘液のものをいいます。
■類皮(るいひ)(性)嚢腫(デルモイド嚢腫)
 内容物に、毛髪・骨・軟骨・歯・脂肪などが含まれるものをいい、両側の卵巣に生じることもよくあります。
[症状]
 嚢腫が大きくならないと、なかなか症状は現われませんが、大きくなるにつれ、下腹部の膨満感(ぼうまんかん)(ふくれた感じ)、腫瘤感(しゅりゅうかん)(おなかに触れると腫瘍の存在がわかる)、腰痛などが現われてきます。
 さらに大きくなると、消化器・呼吸器・循環器などが嚢腫に圧迫され、いろいろな圧迫症状が現われることもあります。
 また、大きさに関係なく、卵巣嚢腫の茎(くき)の部分がねじれると(卵巣嚢腫の茎捻転(けいねんてん))、下腹部に激痛がおこり、緊急手術が必要になることもあります。
[検査と診断]
 卵巣がんをみのがさないことがポイントです。婦人科の一般的な診察(内診など)に加え、経腟(けいちつ)的なあるいは経腹的超音波断層撮影、CT(コンピュータ断層撮影)、MRI(磁気共鳴画像装置)によって、嚢腫の大きさや形状をより正確に判断し、さらに、これらに血中腫瘍マーカー値や内視鏡検査を加えることによって、悪性腫瘍との識別は、以前よりも正確になってきています。
[治療]
 手術で嚢腫を摘出することが原則となります。
 卵巣には、年齢を問わず悪性腫瘍が多くみられますが、卵巣は腹部の奥深くにあるため、現在の診断技術をもってしても、悪性・良性の識別がむずかしい場合が少なくありません。
 しかし、漿液性嚢胞腺腫のなかには、自然に消滅するものもありますので、いろいろな検査を行なった結果、良性と判断された場合には、経過をみることもあります。
●手術
 年齢および嚢腫の状態により方法が異なりますが、嚢腫のみを摘出する場合と、嚢腫のある側の卵巣(卵管らんかん)を含むこともある)を摘出する場合とがあります。
 これらの方法では、残った卵巣のはたらきにより、排卵や女性ホルモンの分泌(ぶんぴつ)機能を保存でき、妊娠・分娩ぶんべん)も正常に行なうことができます。
●術後の経過
 ほかの開腹手術に比べて侵襲しんしゅう)が少ない(ほかの臓器を傷つける危険が少ない)ため、早い社会復帰が可能です。
 さらに最近では、嚢腫の状態によっては腹腔鏡下(ふくくうきょうか)での手術が可能となり、おなかを大きく切らずにすむので、より早い社会復帰ができるようになってきました。

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六訂版 家庭医学大全科 「卵巣嚢腫」の解説

卵巣嚢腫(良性卵巣腫瘍)
らんそうのうしゅ(りょうせいらんそうしゅよう)
Ovarian cyst (benign ovarian tumor)
(女性の病気と妊娠・出産)

 卵巣のなかに、液体成分がたまってはれている状態の嚢胞性腫瘍です。婦人科臓器に発生する腫瘍のなかで、子宮筋腫(しきゅうきんしゅ)と並んで最も発生頻度が高い腫瘍のひとつです。

 ほとんどが良性です。しかし、卵巣はおなかのなか(腹腔内)の臓器であるため、正確には手術で摘出して病理検査(顕微鏡で腫瘍を構成する細胞の顔つきから良性か悪性かを判断する検査)をしてみないと、絶対に良性であるとは断言できません。

 卵巣嚢腫(良性卵巣腫瘍)にはいくつかの種類があり、以下、代表的なものについて概説します。

漿液性嚢胞腺腫(しょうえきせいのうほうせんしゅ)

 嚢胞内部に黄色い透明な液体がたまる腫瘍で、卵巣嚢腫の約25%を占めます。球形の手のこぶし大ほどの大きさで、縮小しないことが特徴です。

粘液性(ねんえきせい)嚢胞腺腫

 嚢胞内部にネバネバした粘液がたまる腫瘍で、卵巣嚢腫の約20%を占めます。

 この腫瘍の特徴は、しばしば巨大化し、おなかのなかで嚢胞が破れ、内部の粘液がおなか全体に広がることです。この病態を腹膜偽粘液腫(ふくまくぎねんえきしゅ)と呼びます。腫瘍の一つひとつの細胞は良性ですが、破れることで腹膜炎を起こし、死亡することも少なくありません。

成熟嚢胞性奇形腫(せいじゅくのうほうせいきけいしゅ)

 嚢胞内部に皮脂、毛髪、歯、軟骨などを含んだ腫瘍で、大きさは通常、直径10㎝以下で、卵巣の両側に発生することもあります。良性の卵巣嚢腫のなかで最も頻度が高く、その半数以上を占めます。

 大部分は20~30代に発生します。そのため、妊娠中に発見されることもよくあり、その場合は妊娠初期に手術を行います。また、嚢胞内部に皮脂、毛髪などを含んでいるため、腹部X線検査でこれらが写って発見されることもあります。

 若い年代に発症したものは良性のことが多いのですが、高齢の場合は悪性に変化していることがあります。そのため、若い時にこの腫瘍が発見された場合は、手術による摘出か定期的な検査を受けることがすすめられます。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「卵巣嚢腫」の意味・わかりやすい解説

卵巣嚢腫
らんそうのうしゅ
ovarian cystoma

卵巣嚢胞腺腫(せんしゅ)ともいい、嚢腫の代表的なもので、良性腫瘍(しゅよう)の一種。卵巣腫瘍のうちもっとも多く、俗に「卵巣の瘤(こぶ)」などとよばれる。なお、卵巣には腫瘍性でない嚢胞cystもよくみられるが、臨床的に鑑別が困難なため、一般に卵巣嚢腫に含まれることが多い。単純な卵巣嚢胞には腺上皮の増殖がみられず、徐々に大きくなるが破裂することはなく、時日の経過とともに自然に消滅してしまう。

 卵巣嚢腫はムチン性(粘液性)と漿液(しょうえき)性に大別される。ムチン性嚢腫はかつて偽粘液性嚢腫とよばれていたもので、内容はゼラチン状で、さくらんぼの実大から児頭ないし成人頭大のものまであり、単房あるいは多房性で、壁が厚くて硬い。30歳代にもっとも多くみられ、一般に片側性で、発育は徐々に進むが悪性化することはほとんどない。

 一方、漿液性嚢腫は多少とも乳頭状の増殖を示し、壁が紙のように薄くて内容が透けて見え、淡黄色を呈する。40歳前後に多くみられ、おもに両側性に発生する。乳頭状に増殖したもののうち約半数に悪性化の傾向があり、再発することもある。

 なお、よく動く卵巣嚢腫では根元の部分がねじれて茎捻転(けいねんてん)をおこし、循環障害を招くと、激しい下腹部痛をはじめ、嘔吐(おうと)、発熱、子宮出血などの急性症状がみられ、ただちに手術する必要がある。

 婦人科的診察(内診)のほか、超音波断層撮影やCT検査によって比較的容易に診断されるが、悪性との鑑別が困難な場合が多く、手術による摘除が行われる。

[新井正夫]

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百科事典マイペディア 「卵巣嚢腫」の意味・わかりやすい解説

卵巣嚢腫【らんそうのうしゅ】

卵巣に生じる嚢腫。卵巣腫瘍(しゅよう)の一種で,偽ムチン嚢腫,漿液(しょうえき)嚢腫などがある。偽ムチン嚢腫は腺性嚢腫ともいい,内容はゼラチン状の液。30歳代に多い。悪性化するものは少ない。漿液嚢腫は乳頭腫性嚢腫ともいい,内容は透明液。40歳前後に多い。良性の場合が多いが,悪性化することもある。嚢腫の茎がねじれると(茎捻転(ねんてん)),下腹部に激痛をきたす。治療は切除手術。
→関連項目月経困難

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「卵巣嚢腫」の意味・わかりやすい解説

卵巣嚢腫
らんそうのうしゅ

卵胞嚢腫」のページをご覧ください。

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