卵(らん)(読み)らん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「卵(らん)」の意味・わかりやすい解説

卵(らん)
らん

雌雄の配偶子が形態的にも機能的にも区別できるとき、雌の配偶子(雌性配偶子)を卵あるいは卵子という。これに対し、雄の配偶子(雄性配偶子)は精子とよぶ。動植物全般にわたって、精子が小形化し運動性を獲得するのに対し、卵は栄養分の蓄積により大形の球形あるいは楕円(だえん)球形をとることが多い。植物では、被子植物、裸子植物、シダ植物コケ類などで卵細胞がみられる。動物ではほとんどすべてが卵をもつ。卵は雌性配偶子として卵巣内の原生殖細胞に由来し、卵原細胞、卵母細胞を経て、減数分裂により母側の半数の染色体を担う。この減数分裂の完了の時期は動物によって異なり、卵巣から体腔(たいこう)あるいは体外へ排出(排卵)されるときに、減数分裂を完了しているものから第一次減数分裂もしていないものまで種々の段階のものがある。いずれの場合にも、減数分裂の際はきわめて不均等な細胞分裂をし、半数の染色体からなる4個の核のうち、3個はごくわずかの細胞質を伴って放出され、1個の核が卵に残る。この小さな3個の細胞を極体と称し、極体が放出される部位を卵の動物極、その対極を植物極とする。ウニ卵などでは、この染色体による遺伝情報のほかに、母側の細胞の伝令RNAリボ核酸)を受け取っていることが知られている。この減数分裂に先だって卵巣内で、濾胞(ろほう)細胞あるいは哺育(ほいく)細胞から栄養の供給を受けて、卵母細胞は卵黄を蓄積する。卵黄の蓄積は、ある種の昆虫、魚などにみられるように二十数時間で完了するものから、イモリなどのように3年近くかかるものまでいろいろある。卵黄の蓄積のようすも動物によって異なり、比較的少量の卵黄が卵内に均等するもの(等黄卵といい、ウニ卵など)、非常に大量の卵黄が蓄積され、細胞質は動物極側のほんのわずかな部分にしか存在しないもの(端黄卵といい、鳥類、爬虫(はちゅう)類の卵など)、あるいは卵の中心部に蓄積されるもの(中黄卵あるいは心黄卵といい、昆虫卵など)などがある。卵黄の蓄積と関連して卵の大きさも、ダチョウの卵のように最大長径15センチメートルに達する巨大なものから、10マイクロメートル程度のものまで多種多様である。動物によっては、卵黄蓄積とともに核は徐々に形を変え、核小体(仁)を多量に含む大きな不定形な核へと変化することがある。このような核を特別に卵核胞とよぶ。減数分裂はこの卵核胞の崩壊後におこる。卵黄蓄積の最後の段階で、卵を取り囲む濾胞細胞と卵の原形質膜の間隙(かんげき)に物質が蓄積し、卵黄膜をつくる。この卵原形質膜下の卵表層が精子に反応しうるような機能をもつようになったとき、卵が成熟したといい、ここまでの過程が卵形成である。成熟した卵は、動物のホルモンの作用により排卵される。

[竹内重夫]

以上述べたような卵細胞のほか、これを包み保護している卵白、卵殻などを含めたものを「卵(たまご)」とよび、鶏卵は「卵」の典型的なものとされている。「卵」の中心にあるのは卵細胞で、極端に蓄積した卵黄のため黄色を呈し、黄身とよばれる。黄身の中心から卵表層の胚盤(はいばん)に通ずる細長いフラスコ様の通路には、色の薄い卵黄(白色卵黄)が満たされている。これはラテブラとよばれ、卵の成長に応じて胚盤が移動した跡だとされている。成熟した卵は体腔に排卵され、輸卵管上部に達し、ここで受精することになる。卵が輸卵管を下っていく間に卵白、いわゆる白身が取り囲む。白身はタンパク質で、水分の比較的少ない固い部分と水分の多い柔らかな部分が層をなしている。卵の両端にはねじれた紐(ひも)様の固いタンパク質が付着するが、これはカラザ(体)とよばれ、卵殻内での卵の位置を保つのに役だつと考えられている。白身は卵を機械的衝撃から保護するだけでなく、リゾチームという殺菌効果のある物質を含むことから外部からの細菌による汚染をも防護していると考えられる。また、卵への水の供給源として、また発生の際の栄養としても利用される。

 卵白に包まれた卵が子宮に達すると、ここで卵殻が形成される。まず、繊維状の硬タンパク質からなる二層の緻密(ちみつ)な網が白身の外側を包み、卵殻膜となる。このしなやかで強靭(きょうじん)な膜の外側に方解石型の結晶構造をもつ炭酸カルシウムの粒子が沈着する。粒子と粒子の間隙は気体の通過を妨げない。かくして「卵」は完成し、産卵される。輸卵管の上部から産卵されるまで、二十数時間の過程である。受精している場合は、この間に卵割(細胞分裂)を繰り返し、上下二層からなる胚盤葉が形成された段階で産卵される。この胚の将来の頭の方向が、産卵前に子宮内に置かれた位置と関係しているといわれている。普通、「卵」のとがった側をわれわれの右に向くように置くと、この向きとは直角に、われわれより遠ざかる方向に胚頭が向く。これを「ベーアの法則」という。しかし、子宮内で「卵」を斜めにすると、その角度に応じて「ベーアの法則」からずれて胚の頭部が決められるという。つまり子宮内に置かれたときの重力がなんらかの影響を及ぼすと理解されている。

[竹内重夫]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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