(読み)あぶない

精選版 日本国語大辞典 「危」の意味・読み・例文・類語

あぶな・い【危】

〘形口〙 あぶな・し 〘形ク〙 望ましくない結果が予想されて気がかりな状態をいう。
① 危害または損害を受けそうで気がかりだ。はらはらさせられる。危険だ。
※右京大夫集(13C前)詞書「内裏ちかき火の事ありてすでにあぶなかりしかは」
※虎明本狂言・鍋八撥(室町末‐近世初)「やれやれあぶなひ事をした、是はめでたいかみのかたひなべじゃほどに」
② じきにだめになりそうだ。死、破産、消滅などの状態に近づいている。
古今著聞集(1254)一五「存命あぶなく見えければ」
③ 望むことが実現するかどうかわからない。確実ではない。あてにならない。
※歌舞伎・お染久松色読販(1813)序幕「小癪(こしゃく)娘の有る内へ、同じ小癪な若旦那、差置まするも〈略〉危(アブナ)いものと存れど」
④ 好ましくない状態が今にも起こりそうだったという気持を表わす。→危なく
※滑稽本・大千世界楽屋探(1817)上「ヤレヤレひやいな目にあふた。肝魂が天井持(てんじょもち)したはい。既のことに、向ひの岩で天窓(あたま)浮雲(アブナシ)ぢゃ」
⑤ 安定していない。「危ない足どり」
※門三味線(1895)〈斎藤緑雨〉四「調子あぶなく、何やら弾いて居る四十あまりの盲女」
[語誌](1)古くは、明確に危険が感じられるさまを意味して、対象が自壊しそうで不安である意の「あやうい」とは区別されていたらしい。「日葡辞書」には両形あるが、やや特殊な例以外「あぶない」が専ら用いられるなど、実際には「あぶない」がより一般的だったと思われる。
(2)現代語では、「あぶない」と「あやうい」はほぼ同義であるが、「あやうい」は文章語的で、副詞的な「あやうく助かった」など、かろうじての意に用いられることが多い。
あぶな‐が・る
〘他ラ五(四)〙
あぶな‐げ
〘形動〙
あぶな‐さ
〘名〙

あやう・い あやふい【危】

〘形口〙 あやふ・し 〘形ク〙
① 危害が及びそうなさま。難に近づいているさま。危険が迫っているさま。あぶない。
※新撰字鏡(898‐901頃)「 臨危也 阿也不志」
※平家(13C前)一「雷火飫(おびたたし)う燃えあがって、宮中既にあやうく見えけるを」
※尋常小学読本(1887)〈文部省〉五「ああ危かりし、若しも君が居らずば、我は打ち殺されしならん」
② (だめになりそうで)不安だ。気がかりだ。心配だ。
※書紀(720)継体六年一二月(前田本訓)「然も縦(ゆるし)賜ひて国を合(あは)せても、後世に猶危(アヤふ)からむ」
※源氏(1001‐14頃)若紫「恋しくも、また、見ば劣りやせむとさすがにあやふし」
③ 望むことが、実現するかどうかわからない。確実ではない。あてにならない。
※平家(13C前)五「平らかに帰りのぼらむ事もまことにあやうき有さまどもにて」
[語誌]→「あぶない(危)」の語誌。
あやう‐が・る
〘動ラ五(四)〙
あやう‐げ
〘形動〙
あやう‐さ
〘名〙

あやぶ・む【危】

[1] 〘他マ五(四)〙 危険だと思う。不安で気がかりに思う。また、不確かで実現しそうもないと思う。
※書紀(720)継体七年一二月(前田本訓)「朕〈略〉宗廟(くにいへ)を保つこと獲て、兢兢(おそ)り業業(アヤブム)
太平記(14C後)二九「今日の軍如何あらんずらんと危(アヤ)ぶみけるが」
[2] 〘他マ下二〙 あぶない状態にする。危険なめにさらす。あぶなくする。
※史記呂后本紀延久五年点(1073)「兵を関中に擁し、劉氏を危(アヤブメ)て、自立せむと欲す」
徒然草(1331頃)一七二「身をあやぶめてくだけやすき事、珠を走らしむるに似たり」

あやうく あやふく【危】

〘副〙 (形容詞「あやうい」の連用形から)
① 少しでも状況が違っていたら、もう少しで。まかりまちがえば。すんでのことで。
人情本・貞操婦女八賢誌(1834‐48頃)初「既に危(アヤフ)く組敷くを、潜(くぐ)り抜けつつ」
※普賢(1936)〈石川淳〉八「あやふく甚作に躍りかかって咽喉を締めつけようとしかけるのを」
② 果たしてどうなるか、あぶなかったがやっと。かろうじて。
※大阪の宿(1925‐26)〈水上滝太郎〉一五「あわてて自分で口を押へて『〈略〉』とあやふくきり抜けた」

あぶなく【危】

〘副〙
① 少しでも状況が違っていたら。もう少しで。まかりまちがえば。すんでのことに。あやうく。
※人情本・春色梅美婦禰(1841‐42頃)三「あぶなく私も留守の言解(いひわけ)に、まごつく処でございましたは」
② あぶなかったが、やっと。やっとのことで。かろうじて。あやうく。
※春窓綺話(1884)〈高田早苗坪内逍遙・天野為之訳〉五「百錬千磨の正義刀に敵すべきにあらず、忽に負傷して険些(アブナク)児身を以て遁れ」

あやぶみ【危】

〘名〙 (動詞「あやぶむ(危)」の連用形の名詞化したもの) あやういと思うこと。悪い結果にならないかと気をもむこと。不安に思うこと。また、あやういと思われること。危険なこと。危難
※書紀(720)雄略八年二月(熱田本訓)「然して国の危(アヤフミ)殆卵を累(かさ)ぬるに過ぎたり」
※栄花(1028‐92頃)音楽「念仏して極楽をのぞむ人も、参る事あやぶみあらば」
※志都の岩屋講本(1811)上「其の上にあやぶみが多くて、中々療治ははかどらず」

あぶなっかし・い【危】

〘形口〙 (「あぶなかしい(危)」の変化した語) いかにもあぶなげである。確実性安定性がなく、信頼できない。あぶない。あぶかしい。あぶっかしい。
※雑俳・柳多留‐一五(1780)「あぶなっかしい女房をあばたもち」
あぶなっかし‐げ
〘形動〙
あぶなっかし‐さ
〘名〙

あやうし・い あやふしい【危】

〘形口〙 (形容詞「あやうし」から派生した語) =あやうい(危)
※応永本論語抄(1420)一四「有道の時は、言行ともには危しくすべし」
あやうし‐げ
〘形動〙
あやうし‐さ
〘名〙

き【危】

[1] 〘名〙
① あぶないこと。あやぶむこと。
日本開化小史(1877‐82)〈田口卯吉〉三「危を蹈み険を冒すの事業にして」
危険物略号爆発物引火性の強い薬品などを積載する車に漢字でつけられる。
[2] 二十八宿の北方第五宿。みずがめ座のアルファ星を含む三星。危宿。うみやめぼし。〔易林本節用集(1597)〕〔史記‐天官書〕

あぶな【危】

[1] (形容詞「あぶない」の語幹) あぶないこと。
※平家(13C前)八「あぶなながら年暮れて、寿永も三とせになりにけり」
[2] 〘名〙 「あぶなえ(危絵)」の略。
※随筆・嬉遊笑覧(1830)六「あやふや人形〈略〉明和安永頃女画に股など出したるをあぶなといへり」

あや・める【危】

〘他マ下一〙 あや・む 〘他マ下二〙 危害を加える。殺傷する。
※虎明本狂言・胸突(室町末‐近世初)「人をあやめてくるしうなくば、ぜひに及ばぬ」
※浮世草子・好色一代男(1682)四「物を取(とる)のみならず人をあやめて迯(にげ)てゆく」

あぶかし・い【危】

〘形口〙 あぶかし 〘形シク〙 =あぶなっかしい(危)
※狂歌・蜀山百首(1818)雑「あふかしい一葉にのれる蜘蛛をみて舟をつくりし無分別もの」

あやう あやふ【危】

〘名〙 (形容詞「あやうい」の語幹から) 近世、民間の「かな暦」の中段にしるされ、日々の吉凶を示した一二の言葉の一つ。その月の干支(えと)より八つ目の日で、家作、婚礼、祭典、酒造、種まきに吉、登山、渡海に凶という。あやぶ。あやうにち。
※仮名暦注解(18C中)「危 高に登るべからざる日なり」

あぶなかし・い【危】

※内地雑居未来之夢(1886)〈坪内逍遙〉八「病は〈略〉、やうやう危(アブ)なかしく成もてきつ」

あや・む【危】

〘他マ下二〙 ⇒あやめる(危)

あぶな・し【危】

〘形ク〙 ⇒あぶない(危)

あやう・し あやふし【危】

〘形ク〙 ⇒あやうい(危)

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デジタル大辞泉 「危」の意味・読み・例文・類語

き【危】[漢字項目]

[音](慣) [訓]あぶない あやうい あやぶむ
学習漢字]6年
あぶない。あやうい。「危機危急危険危地危篤危難安危
あやぶむ。「危惧きぐ
害する。そこなう。「危害
すっくと高く立つ。「危坐きざ危峰

き【危】

あやういこと。あぶないこと。
「―を踏み険を冒すの事業にして」〈田口日本開化小史
危険物」の略号。
二十八宿の一。北方の第五宿。水瓶みずがめ座のαアルファ星など三星をさす。うみやめぼし。危宿。

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