半臂(読み)はんぴ

精選版 日本国語大辞典 「半臂」の意味・読み・例文・類語

はん‐ぴ【半臂】

〘名〙 (「はんび」とも)
① 昔、束帯のとき、袍(ほう)と下襲(したがさね)の間につける胴衣。身二幅で袖がない短い衣で、着けると臂(ひじ)の半ばまで達するのでこの名がある。裾に足さばきをよくするために襴(らん)という幅七寸(約二一センチメートル)の絹をつけるのを特色とする。後世、山科流は胴と襴を別にして切(きり)半臂といい、高倉流はそのまま付属したのを用いて続(つづき)半臂という。着用して結ぶ帯を小紐といい、左脇に垂らす飾り紐を忘緒(わすれお)という。鎌倉の末から、文官は多く省略したが、武官闕腋(けってき)の袍なので必ず用いた。地質および色目は、三位以上では、冬は小葵の綾、夏は三重襷(みえだすき)縠織(こめおり)、四位以下では、冬は平絹、夏は無紋の縠織である。襴は別に羅(うすもの)を用い、色は黒、裏は水色を常とした。はひ。はにひ。
西大寺資財流記帳‐宝亀一一年(780)一二月二五日「半臂四領」 〔新唐書‐后妃伝上・玄宗王皇后〕
※舞正語磨(1658)上「歌道にも半臂(ハンピ)とて、はじめ大様にして、後おもしろく詠みなすを良しとす」

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デジタル大辞泉 「半臂」の意味・読み・例文・類語

はん‐ぴ【半×臂】

古代ほう位襖いあおの下に着用した朝服内衣で、袖幅が狭く、丈の短い、裾にらんをつけたもの。平安時代以降、朝服が和様化した束帯では、袍と下襲したがさねとの間につける袖のない形に変化した。着用して結ぶ帯を小紐こひもといい、左脇に垂らす飾りひもを忘れという。

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改訂新版 世界大百科事典 「半臂」の意味・わかりやすい解説

半臂 (はんぴ)

男子朝廷服の一種。奈良時代から平安時代初期にかけては,袖はごく短く,裾に襴(らん)のついた短衣で,朝服の内衣として(ほう)や(あお)の下に着用した。平安時代中期以降,朝服が和様化した束帯においては,袖無しの直線裁ち式の短衣となって,袍の下,下襲(したがさね)の上に着装した。腰部で前を合わせるのに,身ごろと同じ生地で仕立てた小紐を用いた。さらにその結びあまりの部分のみを別にし,一幅の生地を中折れにたたんだものを小紐に掛けて垂らし,これを忘緒(わすれお)と呼んだ。材質は,奈良時代から平安時代初期にかけては絁(あしぎぬ)や平絹を用いたようであるが,平安時代中期以降,冬は五位以上の者は黒綾,文様は小葵,六位以下は平絹か無文綾。夏は五位以上の者は黒縠(くろこく),文様は三重襷(みえだすき),襴は夏冬とも五位以上の者は黒羅を用いた。舞楽装束の半臂は華やかなものが多く,正倉院蔵のものは﨟纈(ろうけち),絞纈(こうけち),纈(きようけち)により文様が表され,中世以降のものは刺繡(ししゆう)や絞染の身ごろに錦の縁取りや襟がつけられている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「半臂」の意味・わかりやすい解説

半臂
はんぴ

貴族階級の衣服の一種。男子朝服の内衣で、袍(ほう)や襖(あお)の下に着用する。奈良時代から平安時代初期にかけての半臂は、袖(そで)幅が狭く、それが名称の由来である。腰部を細くして丈が短い身頃(みごろ)の裾(すそ)に生地(きじ)を横向きにして、両側と後ろの三か所に、襞(ひだ)をとった襴(らん)を縫い付けている。平安時代中期以降、朝服が和様化し、長大化して束帯といわれるようになると、半臂も他の衣服と同様に直線裁ち式で、袖をつけない形に変化した。身頃と同じ生地で仕立てた小紐(こひも)で腰を締め、その結び余りの部分のみを別にし、一幅(ひとの)の生地を中折れに畳んだものを小紐にかけて垂らし、これを忘緒(わすれお)とよんだ。生地は、奈良時代から平安時代初期にかけて、絁(あしぎぬ)、平絹、綾(あや)が用いられ、平安時代中期以後、冬は五位以上の者は黒綾、文様は小葵(こあおい)、六位以下は平絹か無文綾、夏は五位以上の者は黒縠(こく)、文様は三重襷(みえだすき)、襴は夏冬とも五位以上の者は黒羅を用いた。舞楽装束の半臂は華やかなものが多く、正倉院蔵のものは﨟纈(ろうけち)、絞纈(こうけち)、きょう纈(きょうけち)により文様が表されたものや、錦(にしき)を用いたもの、中世以降のものは、刺しゅう、絞り染め、錦などが使われている。

[高田倭男]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「半臂」の意味・わかりやすい解説

半臂
はんぴ

束帯の内衣。 (ほう) と下襲 (したがさね) の間に用いる胴着風の衣で,短い袖と (らん) をつけたもの。地質は位によって異なり,色は本来は深紫であったが,中世から黒となったので黒半臂といわれる。また中世以後半臂を略することが行われ,闕腋の袍 (けってきのほう) のときだけに用いられた。

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百科事典マイペディア 「半臂」の意味・わかりやすい解説

半臂【はんぴ】

束帯装束の袍(ほう)と下襲(したがさね)の間に着る短衣。袖(そで)はないか,あってもごく短い。裾(すそ)まわりに襴(らん)という幅の狭い横裂(よこぎれ)がつき,襴の両脇と後ろには襞(ひだ)がある。着用のときは小紐(こひも)で締め,忘れ緒という長い帯をたたんで左腰にさげる。半臂は鎌倉時代以後省略されることもあった。→束帯

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普及版 字通 「半臂」の読み・字形・画数・意味

【半臂】はんぴ

袖なし。

字通「半」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の半臂の言及

【束帯】より

…武家も将軍以下五位以上の者は大儀に際して着装した。束帯の構成は(ほう),半臂(はんぴ),下襲(したがさね),(あこめ),単(ひとえ),表袴(うえのはかま),大口,石帯(せきたい),魚袋(ぎよたい),(くつ),(しやく),檜扇,帖紙(たとう)から成る。束帯や十二単のように一揃いのものを皆具,あるいは物具(もののぐ)といった。…

【舞楽装束】より


[歌舞の舞人装束]
 歌舞とは,神楽(御神楽(みかぐら)),大和(倭)舞(やまとまい),東遊(あずまあそび),久米舞,風俗舞(ふぞくまい)(風俗),五節舞(ごせちのまい)など神道系祭式芸能である。〈御神楽〉に使用される〈人長舞(にんぢようまい)装束〉は,白地生精好(きせいごう)(精好)の裂地の束帯で,巻纓(けんえい∥まきえい),緌(おいかけ)の,赤大口(あかのおおくち)(大口),赤単衣(あかのひとえ),表袴(うえのはかま),下襲(したがさね),裾(きよ),半臂(はんぴ∥はんび),忘緒(わすれお),(ほう∥うえのきぬ)(闕腋袍(けつてきほう)――両脇を縫い合わせず開いたままのもの),石帯(せきたい),檜扇(ひおうぎ)(),帖紙(畳紙)(たとうがみ),(しやく)を用い,六位の黒塗銀金具の太刀を佩(は)き,糸鞋(しかい)(糸で編んだ(くつ))を履く。手には鏡と剣をかたどった輪榊を持つ。…

※「半臂」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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