千秋万歳(読み)せんずまんざい

精選版 日本国語大辞典 「千秋万歳」の意味・読み・例文・類語

せんず‐まんざい【千秋万歳】

〘名〙 日本古代信仰に根ざす、正月の祝福芸能の一つ。中世陰陽師の流れをくむ唱門師が、正月の吉例として諸家の門に立ち、家運・長寿のほめことばなどをとなえて舞い、報酬に金銭などを得ること。また、それを業とする人々。中古、正月四日に紫宸殿前庭で行なわれた由来により、宮中にも参入し、近世、江戸城には三河万歳が、京都御所へは大和万歳が出入りした。中世前期では小松をかざす仙人ぶりの装束が、後期から風折烏帽子(かざおりえぼし)に素袍(すおう)姿になり、扇を持ったシテ太夫)がワキ(才蔵)の鼓に合わせて舞い、かけ合いで祝言を述べた。せんしゅうまんざい。《季・新年》 〔新猿楽記(1061‐65頃)〕
[語誌](1)本来、長い年月の意で、特に永年繁栄や長寿を祝う言葉として古く中国からもたらされ、単に幾久しいの意で用いたり、非常に嬉しい気持などを表わす語として用いたりした。→せんしゅうばんぜい
(2)芸能としての起源は明らかではないが、そこでも祝いの言葉として「千秋万歳」と唱えられたところから命名されたと思われる。

せんしゅう‐ばんぜい センシウ‥【千秋万歳】

〘名〙 (「ばん」は「万」の、「ぜい」は「歳」の漢音) 千年万年。転じて、永久、永遠。また、それを願うことば。長寿を祝うことば。せんしゅう。せんしゅうばんざい。せんしゅうまんざい。千秋万歳楽。
続日本紀‐天平八年(736)一一月壬辰「賜橘宿禰。千秋万歳、相継無窮」
平家(13C前)六「あやしのしづの男しづの女にいたるまで、ただ此君千秋万歳(センシウバンゼイ)(高良本ルビ)の宝算をぞ祈たてまつる」 〔江淹‐恨賦〕

せんしゅう‐まんざい センシウ‥【千秋万歳】

〘名〙
① =せんずまんざい(千秋万歳)風俗画報‐五〇号(1893)〕

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デジタル大辞泉 「千秋万歳」の意味・読み・例文・類語

せんず‐まんざい【千秋万歳】

初春の祝福芸で、宮中をはじめ諸寺・諸家を回ってことほぎをして舞い、祝儀をもらうもの。平安末期に起こり、中世に盛行した。せんしゅうまんざい。 新年》

せんしゅう‐まんざい〔センシウ‐〕【千秋万歳】

せんずまんざい(千秋万歳)

せんしゅう‐ばんぜい〔センシウ‐〕【千秋万歳】

千年万年。永遠。また、長寿を祝う語。

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改訂新版 世界大百科事典 「千秋万歳」の意味・わかりやすい解説

千秋万歳 (せんずまんざい)

〈せんじゅまんざい〉とも読む。正月の祝福芸能の一つ。また,それを業とする者をさす場合もある。《新猿楽記》に〈千秋万歳之酒禱(さかほがい)〉とあるのが古い例で,鎌倉期では《明月記》《勘仲記》などにその参入の記事がみえる。《名語記》によると散所法師が初子(はつね)の日に家々を訪ねて行う祝言芸で,それによって禄物を得たという。室町期に入ると,声聞師(しようもじ)が正月に禁裏(5日),公方邸(7日)をはじめ,諸家に赴いて,千秋万歳を演じ,曲舞(くせまい)を舞った記録が多い。禁裏に参上するのは,もとは京都の北畠の声聞師であったが,のちには桜町や梅津の声聞師も参上した。その服装は《三十二番職人歌合》の絵によると1人は鳥甲(とりかぶと)に素襖(すおう)で扇を持ち,他は折烏帽子をつけて鼓を打つ。演者は3人または5人がふつうで,ときには7,8人のこともあった。近世に入って一時中断されたが,貞享年中(1684-88)から復興して禁中で大和万歳が演じた。その詞章は古いものは伝わっていないが,近世の禁中万歳の歌として言立(ことだて),富久舞,京之町,浜出(幸若舞曲の一つ),枡舞(ますまい),都久志舞の6曲が伝えられており,舞人,謡手,鼓打ちの3人が,それぞれ侍烏帽子に七草の藍ずりの素襖姿で,殿内の御庭に敷いた筵(むしろ)の上で演じた。この芸は早くから各地にもあって,近世には江戸城では三河万歳が演じた。新年にあたって神が来臨し祝福するという古代の信仰を背景とした奈良時代の乞食者(ほかいびと)に系譜をひくと考えられ,また,古代の踏歌(とうか)の余風(一条兼良の《花鳥余情》など)とも考えられている。
万歳
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百科事典マイペディア 「千秋万歳」の意味・わかりやすい解説

千秋万歳【せんずまんざい】

〈せんじゅまんざい〉とも。声聞師(しょうもじ)によってなされた,中世の慶祝の門付け芸。またその芸をなす者。〈踏歌〉に淵源を求めるのが通説だが疑問。もともとは長生をことほぐ慶賀のことばで,平安時代の貴族日記などではこの意味で官人たちが行っている例が多い。専業としての用例では《新猿楽記》に〈千秋万歳之酒祷(さかほがい)〉とあるのが古く,室町期の成立とされる職人歌合《三十二番職人歌合》にも載り,鳥甲(とりかぶと)に素襖(すおう)で扇を持つ者と,折烏帽子をつけて鼓を打つ者の組が描かれている。→万歳

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四字熟語を知る辞典 「千秋万歳」の解説

千秋万歳

千年万年。永遠。また、それを願うことば、長寿を祝うことばとして用いられる。

[使用例] 皇室の御栄えあらせらるることは、われわれ国民にとってまことに喜びにたえませんことで、千秋万歳、皆さんの毎日お歌いになる君が代の唱歌にもさざれ石の巌となりて苔のむすまでと申してございます通りであります[田山花袋*田舎教師|1909]

[解説] 「秋」も「歳」も年の意。「せんしゅうばんざい」「せんしゅうまんざい」ともいいます。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「千秋万歳」の意味・わかりやすい解説

千秋万歳
せんずまんざい

平安時代末から鎌倉・室町時代にかけて盛んであった正月年頭の祝言の芸能およびその演者をいう。祝言のなかに「千秋万歳」の語があるところから出たもので,鳥甲 (とりかぶと) ,素襖 (すおう) をつけて禁裏や豪家に参入し,さまざまの祝言や舞を演じて祝福し,祝儀を得た。やがてこの祝福芸は唱門師 (しょうもんじ) が中心となったが,江戸時代にはその一部が各地の万歳となって残った。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「千秋万歳」の意味・わかりやすい解説

千秋万歳
せんずまんざい

万歳

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世界大百科事典(旧版)内の千秋万歳の言及

【万歳】より

…《詩経》の〈万寿無疆〉(〈豳風(ひんぷう)〉〈小雅〉など)は,賓客に対する万福万幸を祝すものである。戦国時代の《韓非子》顕学篇に至って祝福の詞として〈千秋万歳〉と熟した用例がみえる。人の死を指す語としては〈百年の後〉といういい方もあるが,国王,皇帝の死期をいうのに,直截な言表をさけて〈万歳千秋の後〉とか〈万歳の後〉と表現するのは,《史記》《漢書》をはじめとして多く見いだされるところである。…

【千秋万歳】より

…また,それを業とする者をさす場合もある。《新猿楽記》に〈千秋万歳之酒禱(さかほがい)〉とあるのが古い例で,鎌倉期では《明月記》《勘仲記》などにその参入の記事がみえる。《名語記》によると散所法師が初子(はつね)の日に家々を訪ねて行う祝言芸で,それによって禄物を得たという。…

【曲舞】より

…室町時代中期になると,この系統から戦記物語などに取材した比較的長い曲が生まれ,新しく後期の曲舞が勃興する。京都では北畠,桜町などの声聞師が年頭に宮中や貴族邸に参上して,千秋万歳(せんずまんざい)とともに《盛長夢物語》《頼朝都入》《和田酒盛》《那須与一》《百合若大臣》などの曲舞を演じ,近江,河内,美濃,摂津などの声聞師も連日のように京都で勧進し,奈良では興福寺配下の五ヶ所十座の声聞師の中に久世舞座が現れ,京都でも大頭(だいがしら)という流派もできた(大頭流)。若狭,能登,相模などの地方でも舞々と称してこれをよくするものが現れた。…

【祝福芸】より

…古代には〈ほかいびと〉(ほかい)と呼ばれ,家々の門(かど)に立って祝言を述べ,その代償として物を乞う存在があった。中世になると千秋万歳(せんずまんざい),物吉(ものよし),松囃子などといった祝言職が現れ,年の初めに禁中や諸寺,諸家に伺候して祝福の芸を演じ,また村々をめぐり歩いた。江戸時代になると祝言職の種類がさらに増え,万歳節季候(せきぞろ),うばら,つるそめ,えびす舞,大黒舞太神楽春駒鳥追などと多種多様になり,年末から年始にかけて諸国をめぐり歩き,訪問先で祝福芸を演じて生活の糧を得た。…

【万歳】より

…祝福芸,門付芸(かどづけげい)の一つ。正月に家々の座敷や門口で予祝の祝言を述べたてるもので,〈千秋万歳(せんずまんざい)〉の末流と考えられる。平安時代後期成立の《新猿楽記》には〈千秋万歳之酒禱(さかほがい)〉と見え,千秋万歳はこのころすでに職能として存在していたと思われる。…

※「千秋万歳」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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